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識者に聞く2020年不動産市況展望

2020.02.03 18:26

―2020年の東京のオフィス市況についてはどのように見ていますか。
熊谷 過度に楽観すべきではないですが、特段に悲観的に見る材料もありません。弊社調査によれば、新築オフィスはほとんどリーシングが決まっている状況で、2020年度第3四半期末現在、2020年の竣工物件の内定率は85%を超えており、2021年の竣工物件もすでに4割近くが内定しています。これらの新築オフィスの供給に伴い主要ビルにも二次空室が若干は出てきていますが、その坪数は千代田区と港区を合計しても6万5000坪前後にとどまっています。このような供給面での要因を鑑みても、これまで抑えられてきた増床や移転ニーズなどに伴う潜在的需要量を到底吸収しきれる規模ではありません。このような流れは都心5区以外の18区で、需要が供給を上回る状況が長く継続しています。
―賃料動向はどうか。
熊谷 全体的に継続して賃料は上昇していくものと考えています。ただし、地区別賃料でみれば、方向性は二極化しています。たとえば丸の内の平均坪単価は4万5000円ほどで推移していますが、近隣の東日本橋では相場は2万円弱まで下がり、立地条件やビルの品質などファンダメンタルだけでは説明のできない状況が継続しています。アジアのマーケットで賃料格差がここまで拡大しているのは、東京と香港くらいです。このような地区別賃料格差の動向、またサブマーケットの序列の変化は今後の注目材料と考えています。
―他に注目しているエリアは。
熊谷 ひとつは震災リスクが相対的に高い晴海・勝どきエリアで空室率が7%ほどと都心5区内では最も高い数字にまだとどまっています。また新築オフィスの供給の少ない赤坂・六本木や西新宿のエリアなどでも、非常に小さな規模ではありますが、二次空室が目立ち始めました。これらのエリアの需給には引き続き注視する必要があります。
―オリンピック後など、外部要因での懸念は。
熊谷 東京オリンピック・パラリンピックは2週間で終わるイベントであり、オフィス市場に与える影響はほとんどないと考えています。もちろん景気変動などのマクロ・リスクは常につきまといます。ただ不動産市場の動向は景気変動に対して概ね数年の遅行性のあるものです。先ほど21年の新築オフィスにすでに内定が出ていることを紹介したように、内定期間が長期化する傾向にある環境下、短期的に下振れリスクが顕在化する可能性もかなり低いのではないでしょうか。
―昨年後半はWeWorkに暗雲が差した。これに対する東京のマーケットへの影響はどうか。
熊谷 万一日本のWeWorkが撤退する状況になったとしても、12万坪前後の事業規模を前提とすれば、市場への影響はさほど大きくありません。ただ市場心理に対するネガティブな影響は非常に大きかったことには留意すべきでしょう。デベロッパーによる誘致活動も、IPO問題が発覚した10月以降はほぼ停止している状態です。
 然りながら、日本のフレキシブルワークスペースは米国などと比べると、まだまだ契約や運営の仕方が多様化していない極めて初期の状況です。有力ブランドの活用や健全な運営業者への投資など、海外で大きく展開されているオフィスビルの開発手法が今後日本でも広がっていく可能性はあると考えています。
コリアーズ・インターナショナル・ジャパン
リサーチ/シニア・ディレクター
熊谷真理氏
UBS証券、SMBC日興証券、シティグループ証券、ムーディーズ、モーニング・スター社等を経て、2018年コリアーズ・インターナショナル・ジャパンに入社。慶応義塾大学法学部卒業。UCLA アンダーソン・スクール・オブ・マネージメント経営学修了(MBA)を取得。米国ワシントン州公認会計士。
 コリアーズ・インターナショナル・グループ(NASDAQ;CIGI,TSX:CIGI)は世界68カ国で不動産サービスを提供する業界トップクラスの総合不動産サービス会社。世界の主たるマーケットで、1万4000人を超える経験豊富な専門家を擁し顧客企業へサービスを提供。
   日本においては、コリアーズ・インターナショナル・ジャパン(東京都千代田区内幸町)にて、不動産投資仲介、テナント向けサービス、プロジェクト・マネジメント、オフィス・リーシング、鑑定およびアドバイザリー・サービスを中核事業として、法人向けの総合不動産サービスを提供。  コリアーズ・インターナショナル・グループ(NASDAQ;CIGI,TSX:CIGI)は世界68カ国で不動産サービスを提供する業界トップクラスの総合不動産サービス会社。世界の主たるマーケットで、1万4000人を超える経験豊富な専門家を擁し顧客企業へサービスを提供。
   日本においては、コリアーズ・インターナショナル・ジャパン(東京都千代田区内幸町)にて、不動産投資仲介、テナント向けサービス、プロジェクト・マネジメント、オフィス・リーシング、鑑定およびアドバイザリー・サービスを中核事業として、法人向けの総合不動産サービスを提供。




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