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インタビュー 大阪の店舗「脱観光客」がカギ 梅田・難波など一等地の人気低下

2020.08.03 15:45

「プチ繁華街」人気博すか
 新型コロナウイルス感染症の影響で、飲食を中心とした店舗の経営環境が大きく悪化した。このことは大阪の店舗用不動産のマーケットにどのような影響を与えたのだろうか。京阪神エリアで飲食店舗の仲介に多くの実績をもつベイサイドリアルター(大阪市港区)の西村匡史代表取締役にインタビューした。

――経歴について教えて下さい。
西村 不動産業界歴は18年になります。大手ハウスメーカーに入社し東京で勤務、その後、飲食店舗の仲介を行う大阪の不動産ベンチャー企業勤務を経て2011年に独立しました。現在、年間の仲介件数は50件程度。うち9割が飲食店、残りが物販店・サービス店・税理士や弁護士など士業関係者の事務所となっています。
――現在の大阪の飲食店の状況は。
西村 新型コロナの影響で客足が大きく落ち込み、完全回復がいつになるか、という点については全く見えない状況です。特に、大阪はここ数年、海外観光客のニーズに依存した飲食店が急増していました。数ヵ月間、彼らがほとんど訪れなかったことで、それらの店舗の経営状況は非状に厳しいものになっています。
――「新型コロナが落ち着けば、外国人観光客も戻って来るのでは」という期待はありますか。
西村 今回の一件で飲食店経営者の間に「外国人観光客頼りの経営はリスクが大き過ぎる」という認識が強まりました。例えば、黒門市場にあったような、海鮮や肉の串焼きを食べ歩きさせるといった、地元の人はまずいかないような飲食店をやろうと考える人自体がほとんどいなくなりました。また新型コロナ以前は、大阪を訪れる外国人観光客は中国人と韓国人が多くを占めていました。しかし、この先、外国人観光客の来日が可能になったとしても、中国人と韓国人以外の比率が以前ほどではなくなるかもしれません。これまでのビジネスモデルが使えなくなるということも考えられます。新型コロナが収束しても、飲食店マーケットは完全に元通りにはならないでしょう。
――観光客以外を主な対象にした飲食店の状況はどうですか。
西村 近隣のビジネスマンなどを対象にした店舗は、緊急事態宣言解除後だいぶ客足が回復していますが、先行きは決して安心できません。元々大阪の人は味にうるさいこともあり、チェーン店より個人経営の店を好む傾向にあります。新型コロナによる自粛生活が明けて、まず顔を出すのは馴染みの個人経営店です。チェーン店については回復の動きは遅いものになるでしょう。
――今後のマーケットについては、どう予測していますか。
西村 どこの店舗も「脱観光客」を重視した経営になるでしょう。そうなると、観光客の多い梅田や難波、道頓堀・心斎橋、天王寺などの一等地にわざわざ高い家賃を払って大型店を構える必要がなくなります。こうした地域の地盤沈下が始まると思われます。これらの地域には「1階から10階まで全部飲食店」などという、やや大ぶりなビルがいくつもありますが、このビルの上層フロアが空いた場合、現状ではそこに入るテナントを探すのは非常に困難と言わざるを得ません。
――逆に、今後期待できそうな地域などは。
西村 新型コロナの影響でどこも経営が厳しい中で新規出店の意欲は落ち込んでいますが、「脱観光客」「一等地の地盤沈下」というキーワードから考えれば、大阪の中心部からやや離れた「プチ繁華街」ともいうべきエリアの中小店舗物件は期待できる面があります。最近は働き方改革で終業時間が早くなっていることもあり、「19時から会社の近くで飲む」よりも「家の近くまで戻って19時から飲む」という動きが東京で見られるようになっています。その方が終電を気にせずに楽しめるからです。この流れは大阪でも見られるようになると思います。そうした点を考えると、個人的に「大正」駅・「弁天町」駅界隈などは面白いのではないかと考えています。
――賃料相場については、どの様な認識ですか。
西村 当社が管理するビルでは、5~7月の3カ月間、賃料を70%に引き下げていました。他社が管理するビルでも大体同じような状況だと思います。問題は家賃引き下げ期間の終了後に、家賃を元の水準に戻せるかどうかです。当然、店舗からは引き続き引き下げを求められるでしょう。また、新規で入居する場合も、元の家賃ではなく30%引き下げた水準の家賃からの交渉になる可能性があります。30%引きという既成事実ができたことで、それが賃料相場に影響を与える形になりそうです。
――新型コロナで、逆に出店が進むと思われる業種などはありますか。
西村 「満員電車での通勤は新型コロナ感染が怖い」と自転車やバイクで通勤する人が増えており「自転車店を開きたい」、「2店目を出したい」という相談が当社にも何件か来ています。土地が平坦で自転車での移動がしやすい大阪ならではのニーズといえます。またビジネス街などでは、これらの自転車・バイクを駐めておくスペースのニーズもこれから増すかもしれません。




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