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エアリーフロー 設備更新の「やる・やらない」を判断する基準とは
2012.05.14 17:47
人口が減少し、経済が低迷し産業構造が変化しつつある現在の日本においては、スクラップアンドビルトの考え方は既にそぐわなくなっているという考え方は、不動産業従事者の間でも、徐々に認識されつつあるのではないだろうか。しかしながら、建築物をいかに長寿命化させるための具体的なノウハウは意外だが体系が出来ていないのが現状である。
不動産ストックの有効活用についてのコンサルタントを展開する「エアリーフロー」(東京都港区)の代表取締役・藤木哲也氏に、設備の更新や改修を行うポイントについて話を聞いた。
「テナントビルはおよそ築20年が経過した時点で、長く入居していたテナントも退去するというようなタイミングを迎えます。しかしながら、テナントの入居当時とは時勢も異なるため同様の相場の賃料で、新たなテナントを募集することが難しいことがあります。一方で、ビルのライフサイクルで大きなウエイトを占める空調機などが耐用年数を迎えます。ビルの運営管理におけるオペレーションが難しくなるのがまさにこの時期なのです。例えば空調機の更新については、その費用や施工が大きな負担となり、先延ばししてしまいがちです。しかしながら、設備は人間の体とは異なり、いったん故障したら自然に直ることはありません。そこで『故障する前に設備更新を行わない、先延ばしにする』ことの理由や、故障した際にどのような状況になるか考える必要があります。例えば、ある小規模のビルで、タイミング悪く真夏に空調機が故障し、停止したとします。突然の工事だったための高額な施工費用、テナントには迷惑料、PM会社には緊急対応に対する別途費用といった負担、さらに各フロアに設置する仮設のエアコンの費用など、莫大な出費が発生するでしょう。一方で、故障する前に空調機の更新を行うと、性能が向上するため快適性が増すうえに、電気料金が下がることも多く、テナントは大いにメリットを感じてくれます。もうひとつの例として、ビル内の空調機や照明を監視・制御する中央監視盤のケースの場合、これが故障すると各フロアの端末を手動でコントロールしなければならず、修理期間中は管理人員を増強するという手段で対応する必要が出ます。反対に言えば、こういった措置で最悪対応できなくはありませんが、大きな負担がかかります。このふたつの事例から言えることは、先延ばしにした際に起こりうる事態への対策が、取れるか取れないかを判断する必要があるということです。言いかえると、『やらなければいけない理由』を考える一方で『やらない理由』も考えてみて、その理屈が通らない場合は「やるしかない」という結論付けるのです。それが意思決定のテクニックのひとつと言えます。建物を長期保有するにしても、何らかのタイミングで売却するにしても、細やかな手入れやしかるべきタイミングの設備更新は必要不可欠です。ビルオーナーの方は、安全性や経営面の事情などを鑑みながら、建物を長く使っていくということを正面から考えていかなければならない時代になっていると思います」