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トラストパーク 福岡で築40年以上の老朽病院再生 グループ企業で医療機関経営支援

2021.05.06 11:59

 コインパーキング事業のトラストパーク(福岡市博多区)では、グループ会社のトラストメディカルサポート(以下・TMS/同)を通じて、医療機関向けに不動産賃貸事業などといった各種経営サポートを展開している。現在福岡県内で進められている、ある民間病院再生事業の例を紹介する。

 この病院は、桂川町にある石田病院。1979年の開院で病床数は101。町唯一の総合病院として、長らく地域医療を担ってきた。
 しかし、開院以来建物や設備の修繕は行われず、近年は雨漏りが発生するなど深刻な問題が生じていた。それだけでなく、病棟の廊下幅が建築基準法や医療法に定められている基準を満たしてない、浴槽が壊れており入院患者はシャワーしか利用できない、多床室のベッドを仕切るカーテンの一部が無い、院内にパソコンが1台しかないなど、医療の品質の面でも様々な問題があった。
 そうした状況の中、創業者である理事長は2019年に死去。医師である娘が跡を継いで2代目理事長となったが、当人は麻酔科医で患者を直接診ることができないこともあり、当初は理事長就任を固辞していた。「親が設立した病院を継がないなんて…」という周囲からの強い説得もあり理事長となったものの、老朽化した病院をどうするかという問題にたちまち直面することになる。
 建替えを検討するも、業者から出された見積り額は、現在の病棟の解体・新病棟の建築費合わせて7億3000万円。その捻出は難しく、計画は暗礁に乗り上げてしまっていた。
 そこに名乗りを上げたのがTMS。新理事長が建替え計画を検討する中で、不動産会社から紹介された。
 同社と理事長の協議の結果、「現在の病院の土地・建物はTMSが購入し、病院はそこを賃借して経営を続ける。理事長は退任し、TMSが現在経営サポートを行っている医療法人より新たに理事長を迎える。TMSは、現在の病院から車で20分ほどの距離のところに土地を購入し、新病棟を建設。現在の病院は2年後を元にそこへ移転する」というスキームで、病院の再生を図ることで合意した。
 昨年12月23日に両者間で土地建物売買契約が締結され、石田病院はTMS支援の元で新たな体制で運営をスタートさせた。取得価格は、病院の向かい側にある病院の関連法人が運営するサービス付き高齢者向け住宅の土地・建物と合わせて2億9000万円。病院は、売却資金でレンタルパソコンを多数導入し、業務の効率化を推進した。浴槽が使えない大浴場には、ポータブル式の浴槽を導入していく計画だ。また病室のベッドも開院以来の物を使用していたが、近所の医療機関や介護施設などから使用しないベッドを譲ってもらって活用した。こうして新築移転までの約2年間運営していくという。
 なお、移転先について、前理事長の夫である吉松正剛事務長は「JR『桂川』駅の近くに移転します。今の病院は公共交通機関での便が悪いため、『通勤できない』と人材採用の面でも良くない影響が出てしまっていました。移転を機に新規採用を行いやすい環境を整えていきます」と語る。
 トラストパークは1993年の設立。2013年に持株会社体制に移行し、現在はトラストホールディングスの傘下にトラストパーク、TMSのほか、不動産事業のトラスト不動産開発、駐車場小口投資商品を扱うトラストアセットパートナーズ、温浴施設運営の和楽など10社を有する。また、東証マザーズに株式を上場している。
 「トラストパークの創業者が、元々マンションデベロッパーの出身だったこともあり、『街づくり』『インフラ整備』に対する強い思いがあります。今後も医療機関の経営支援を通じて街づくりに寄与していきたいと思います」(TMS金子敏彦取締役)




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