不動産トピックス
【今週号の最終面特集】コロナ時代を生き抜くビルオーナーの魅力向上策
2021.06.07 15:23
テナントの打ち合わせ需要を想定 会議室新設で資産価値向上
新型コロナウイルスの感染拡大から、およそ1年が経過した。コロナの影響を受けてオーナーの賃貸・管理業務や自身の環境も変化しており、中には厳しい環境も垣間見られる。だが今のうちに新たな企画や準備、ビルの資産価値・利便性向上に務めるオーナーもいる。些細なことでも準備し取り組むことで、リーシング等にも生かしたい想いが表れた。
空き倉庫と喫煙所 改装して会議室へ
セントランド(大阪市淀川区)は、大阪市や兵庫県、都内等で不動産賃貸業を展開している。地下鉄「西中島南方」駅から徒歩3分に位置する「セントアーバンビル」もその1棟だ。
同ビルは、2007年竣工・地上8階建てのオフィスビル。全館オートロック付き、室内喫煙所や屋上テラス付きのリフレッシュルーム等を有し、阪急「南方」駅やJR「新大阪」駅も徒歩10分圏内に位置する、アクセス性にも秀でたビルである。
そんな「セントアーバンビル」で現在、貸会議室の新設工事を行っている。背景には同社保有の別物件が関係しており、ビルに設けたテナント向けの貸会議室が利用者から好評を得ているとのこと。「セントアーバンビル」においてもビルの利便性向上を目的に、空き倉庫と喫煙所を改装して会議室を新設することになった。
営業企画部の鈴木雅人氏は「当ビルはリフレッシュルーム内に打合せブースが有るものの、単独の会議室がありません。今回新設することで、機密情報に関する打ち合わせも気兼ねなくできるようになりました。また当ビルは、オートロックによるセキュリティや複数名でのビル巡回警備などの高いセキュリティ性能が特長です。会議室の新設によって事務所に入室することなく共用施設での来客対応を実現し、更なるセキュリティの向上を実現しました。お客様(既存テナント)には当社のビルをより快適にご利用頂ければと思います」と語った。
共有の会議室は固定費をなるべく削減したいというテナントニーズに応えることができるため、新規テナントのリーシングにも生かせる。今回新設した会議室は6名用。モニターや無料Wi―Fiを備えており、入居者は月3回まで無料で利用できる制度を設けた。6月中旬に完成及び使用開始となる。
また鈴木氏は「昨今、事務所面積縮小のご要望も多いとお聞きしています。その状況から幅広いニーズにお応えできるではと思い、実施に至りました。会議室の用途についてはご利用者様の声を伺いながら、新しい機能や設備を追加していく予定です」と語った。
リモートワーク用オフィスを新設
また不動産仲介業・売買事業を展開しながら会員制コワーキングスペース「Y―valley Coworking Space」とレンタルオフィス「OFFICE COURT」の運営・管理業務を含めたコンサルティングを行っているセリオ(東京都渋谷区)。リモートワークの需要増加に応えるべく、昨年9月にビル1階部分へリモートワーク用オフィス「YCS Remote」を新設した。
「Y―valley Coworking Space」は小田急線「南新宿」駅から徒歩1分圏内の好立地に建つオフィスビル兼コワーキングスペースの名称。一般的な賃貸オフィスも備えていながら、メインはビル2階のコワーキングスペースで、利用者も長きにわたって使うユーザーが多い。一方士業や個人事業主等はJR「代々木」駅から徒歩4分に位置するレンタルオフィスの「OFFICE COURT」を利用する。双方とも稼働率はコロナ禍前と比較すると微増とのことで、内覧や契約の数は増加傾向にある。この状況に代表取締役の吉田雅則氏は「テレワークや在宅勤務を採用する企業が増えており、かつワーカーもフレキシブルなワークスタイルを好んでいるようです。利用を意識する人もグンと増えており、シェアオフィスやコワーキングスペースといった『サービスオフィス』が身近な存在になったことで、運営側にとっては現状追い風になっていることでしょう」と語った。
しかし既存のレンタルオフィスの稼働率は順調で、むしろ空きがない。コワーキングスペースよりも1人用個室を好むユーザーが増えてきたことで、同社としても個室需要に応える環境を整えることが急務となった。結果、1階の「YCS Remote」の新設に繋がる。施設はスマートロックによる鍵付きの個室を14室、各個室の天井に吸気・排気設備を備え、24時間利用可能。入退室もスマートロックにより履歴に残っているため、セキュリティも確保した。更にドロップインも可能となり、1時間・1日・1カ月での3プランと、固定席での契約も用意した。ちなみに固定席での契約となると、2階のコワーキングスペースや建物内の会議室が半額で利用できる。
吉田氏は「確かに施設の構築に多少費用は掛かりましたが、元々需要があったため早い段階で利用者の確保が進みました。また『新宿』駅周辺にある高価格帯のサービスオフィスとは違い、多少リーズナブルで使いやすいことが特長です。リモートワークのオフィスとして利用するだけでなく、資格取得に向けた勉強場所や自身のプライベートオフィスとして契約・利用する人も散見されます」と語った。ちなみに費用を掛けずにセキュリティ性能を向上させる・維持させる、利便性を損なわない、24時間利用でき入退室の履歴が残る、といった魅力からスマートロックの採用がポイントとのこと。同社もフォトシンス(東京都港区)の「Akerun入退室管理システム」を採用して、利便性を損なうことなくセキュリティを向上させた。
双方のビルで垣間見えたのは、事前に需要があることを把握できた分野へ注力したこと。新しい分野へ版図を広げることも重要と双方ともに認識してはいるが、まずは需要がある分野へ投資した結果が徐々に表れている。また掛けたコストも1区画や1部屋といった範囲で、大幅なリニューアル工事等ではない。セリオの吉田氏曰く「どのビルにもまだ伸びしろのある個所や魅力が隠れているはずで、その箇所を上手く伸ばしてあげればコロナ禍でも十分に太刀打ちできるはずです。迅速かつ柔軟にテナントからの要望に備えて、未活用の部分を早い段階で収益に繋げることが重要と思いました」と指摘した。ビルへの需要の見極めによって、高稼働に繋がった事例だ。