不動産トピックス

【今週号の最終面特集】スペース活用新潮流

2021.08.23 11:32

成功ポイントは「潜在需要」の発掘 収益だけでなく社会貢献としても期待高まる

 個室ワークブースへの参入事業者が目立ち始めている。一方で、新型コロナに関わらず、個性的な個室型サービスが新たな動きを見せている。オーナーにとってスペース活用の有効な手段であることに加え、ブランディング戦略や社会貢献など多くの側面からメリットも多い。

シェアサロンで美容師支援 9月には銀座で2店舗目
 美容師歴20年。自ら美容店舗を経営して10年。そんなキャリアを持つ美容師の山本豊氏が今年1月にWBP(東京都中央区)を立ち上げ。ビルのバリューアップ・空室活用策として複合型ビューティーシェアサロン「サロンビレッジ」での運用を提案している。
 美容室・サロン業界では「シェア」の文化が以前から存在する。美容業界では店舗がフリーランスの美容師に場所と施術に必要な施設を提供する「面貸し」というシステムがある。ただ山本氏は「その場合、美容師それぞれの個性を生かすことが難しい」と指摘。そこで「サロンビレッジ」では個室サイズの区画で分けられている。美容師やネイリストやアイリスト、エステティシャンなどの、独立志望を持つ美容従事者を対象にして20万円前後の月額会費で使用することができる。
 会社設立後まもなく、銀座3丁目の昭和通り沿いのテナントビルにて「サロンビレッジ」1号店を開業。14区画あるものの、ほぼ満室だ。同地での出店を希望する人が多かったことから、9月には通りを挟んだビルのワンフロアで2号店を開設予定。8月上旬時点で4分の3以上の入居者が集まっている。
 高稼働を実現できるポイントはどこにあるのだろうか。
 「当社では美容従事者に入居を希望するかしないかを聞く、事前のマーケティング調査を行っています。美容師からの需要が確認できた場所で展開していることが順調稼働の要因だと思います」
 それぞれのサロンの売上についても不安はない。「独立志望で、一定のキャリアを持っている美容従事者はそれぞれの顧客を抱えていることが多くあります。また入居前には面談を実施し、入居後は売上向上に向けた様々なサポートを実施しています」(山本氏)。

不動産業界にFC運営提案 都市部から郊外まで視野広く
 WBPではこの「サロンビレッジ」の全国展開を視野に入れる。美容師からの出店需要が前提だが、主要都市から郊外エリアまで対象の立地は幅広く考えている。そこで重要になってくるのが、物件の確保だ。
 「6月よりフランチャイズシステムとして『ビレッジシップ』を展開しています。不動産オーナーなど業界の方にもご提案していまして、一部の大手企業様からはシェアオフィスと似たビジネスモデルであることからご理解を頂いております。新しいシェアリングビジネスのあり方として、そのメリットを伝えていきたい」(山本氏)
 オフィスビル、商業ビルいずれも可能。面積については条件を設けていないが30~50坪が中心となる。多くのビルオーナーが対象となりうる。活用手段のひとつとして知っておきたい。

授乳・おむつがえができる設置型ベビールーム「mamaro」展開
 個室型スペースの提供により、子育て世代の支援を行う事業者がある。Trim(横浜市中区)は2017年より設置型ベビールーム「mamaro」を展開している。2015年に設立。授乳室の場所をアプリのマップ上で検索できるシステム「べビ★マ」を開発し、「mamaro」をローンチ。商業施設をはじめ市役所やガソリンスタンド、神社など全国各地で280台余の設置実績を積み重ねている。
 「mamaro」は授乳やおむつ替えなどができる、高さ2000mm、奥行900mm、幅1800mmの鍵付き完全個室型のベビールーム。室内には13・3インチのモニターが設置されている。商業施設の案内情報や子育て製品のサービス情報を流すなど、授乳中でもコンテンツを提供できる。「べビ★マ」に次ぐアプリ「Baby map」とも連動しており、全国の「mamaro」の設置場所や空き状況も検索することも可能。また個室内にはセンサーが設置されており、長時間利用を検知すると施設の管理者にメールアラートを発信。個室内での体調不良や非常時への対応性にも優れている。
 開発の経緯を代表取締役社長の長谷川裕介氏は、「全国の子育て世代の助けとなるべく『べビ★マ』を開発し、展開を進める中で、授乳室の数がニーズに追い付いていないことに気が付きました。当初はあったとしても共用型の授乳室が主であったため、利用者の方からは『カーテンで仕切られただけの授乳室は授乳中に誰か入ってこないかと不安になる』との声も上がっていました。そういった点を鑑みて、場所を取らず、かつ利用者が安心して使えるようなベビールームの必要性を感じ、『mamaro』の企画・開発を進めました」と話す。
 「mamaro」の外観は柔らかな丸いフォルムとなっており、どのような空間にもなじみやすい。また設置する施設にもメリットは多い。その一つにモニタリング機能が挙げられる。施設管理者はモニターを通して利用頻度を把握できるため設置場所の検討や、施設のマーケティングなど商業的な観点から生かすことも可能だ。加えて躯体にはキャスターがついているため、レイアウト変更の際にも移動が容易。施工コストは従来型の授乳室の10分の1程度と安価に抑えられる。

子育て世代の働きやすさにも直結 ビル共用部等への展開に意欲
 昨今は社員の働きやすい環境の整備が企業に求められている。その意味では空いたスペースを活用し、社員の福利厚生の一環として「個室型の授乳室」が普及する日も近いのではないかと感じる。
 「子育て世代の職場復帰や社会参画への理解が深まってきていると感じます。しかし、産後うつ病のケアをはじめ子育て支援として行き届いていないこともまだまだ多いことは事実です。特に日本は母乳率が約3割と海外に比べて低いことが課題とされています。子育て支援への体制を整える余地はまだまだ見られます。これからは各オフィスに、また各施設に1台は授乳のできるスペースが必要な社会が求められると考えていますので、オフィスやビルの共用部などに積極的に展開していきたいと認識しています」(長谷川氏)。
 今秋には新作の「mamaro2」も提供を開始する予定となる。高さ、奥行き、間口を先行している「mamaro」よりも広くし、ベビーカーを一緒に入れることができる、ゆったりとした空間を実現する。また個室内の赤ちゃん用ソファ「mamaro sofa」に寝かせると、付帯する体重計で赤ちゃんの体重を計測。専用アプリでの管理を通して子どもの成長を確認するためのツールとしても期待される。
 スペース活用と同時に社会貢献にもつながる、「mamaro」の今後の展開も追っていきたい。

リスク抑えて独立開業しやすく
WBP 代表取締役 山本豊氏
 WBPは今年1月設立の企業ですが、私自身は美容業界に20年以上身を置いて、また美容店舗の経営も10年以上行っています。店舗を経営していて感じていたのが、美容師が独室したくてもできない、ということでした。美容師はキャリアを積むと独立していくことが一般的です。美容店舗も増加していて、直近で美容室件数は25万軒以上あります。競争も厳しいことから、初めて開業する美容師にとってはハードルが高いものでした。そのような現場を見ていたことが、「サロンビレッジ」をスタートさせるきっかけとなりました。また美容師の定休日には外部のフリーランス美容師に貸し出して収益化できるマッチングシステムを開発中です。様々な仕組みを導入していくことで、美容師の売上や収益でサポートできる体制も築いていきたいと考えています。

ブランディング効果にも期待
Trim 代表取締役社長 長谷川裕介氏
 導入第一号は自動車のディーラー事業者様でした。車のご契約の際に説明に時間をかけるため、子どもをあやせる場所が必要というニーズでした。ここを第一拠点に、利用者の口コミで広がり段々と認知されていくようになりました。現在は導入先の約4割が商業施設ですが、ニーズは幅広く、社員の子育て支援の一環としてオフィスの食堂に導入されているケースもあります。オフィスへの導入は、福利厚生の充実に加えブランディングにも一役買うのではないかと感じています。




週刊不動産経営編集部  YouTube