不動産トピックス

【今週号の最終面特集】なぜ日本不動産人気?アジア系投資家の目線

2021.09.21 14:30

利回り低下傾向もアジア圏で以前割安感 安全通貨としての円や所有権も人気の要因
 海外投資家、それもアジア系投資家からの日本不動産への投資需要は旺盛に推移している。CBREやJLLがまとめているレポートではコロナ禍中にあった2020年以降も海外の機関投資家からの投資額は引き続き堅調に推移してきたことが報告されている。それでは海外個人投資家の動きはどうなっているのだろうか。パンデミックなどの影響が若干見られるもののニーズは依然堅調。また在外の投資家は入国制限などの影響を受ける中で、在日の中華圏投資家への影響は軽微にとどまっているようだ。

投資家意欲は高い状況 入国制限がハードルに
 中華圏の投資家向けに日本不動産を紹介するプラットフォーム「神居秒算」を運営している神居秒算(東京都港区)。2017年より運営をスタートさせて、中華圏最大級の日本不動産プラットフォームに成長。20年にはGA technologies(東京都港区、GAテクノロジーズ)グループへと入った。
 代表取締役の趙潔氏は中華圏の投資家の日本不動産への意欲について「中華圏の投資家や中国にある移民会社、海外不動産販売会社と情報交換をしていてコロナ前と変わらずあると考えています」と話す。その理由のひとつには日本と中国の所有権の異なりが挙がる。中国では土地を購入して所有権を得ることはできず、土地の使用権が認められているという状態。土地、建物ともに所有権が持てることも人気の要因となっている。また他の海外不動産に比べて安値圏だ。たとえば中国の上海・北京の郊外に投資物件を購入しようとすると日本円で3500万円以上から。日本の場合、都内23区の物件に投資することが可能だ。中華圏からの距離が近いことからも投資先としての魅力となる。
 ただしパンデミックで移動ができない影響もある。趙氏は「来日することが難しくなっていることで投資物件の取引件数は減少傾向にあります」と指摘する。加えて、他国と比較して物件価格は安値圏であるものの、「日本国内のマーケットは高値圏にあり、賃料は上がっていないことから利回りが低下傾向にあることから一部では投資を先送りするケースもある」という。1000万円前後の価格帯の低い物件への問い合わせが増加するなどしながら、投資時期も探っている層が多そうだ。
 マインドは高いものの一時的に若干の弱含みも見られる市場。今後好転する兆しはどこか。
 「やはりパンデミックでの移動制限の解除、日本へ入国する際の制限が解除されることが大きなポイントになると考えています。不動産販売会社へヒアリングしますと、直近ではカナダの物件が多く売れているとのことでした。昨年9月より入国ができるようになったことを背景に、中華系の富裕層が子弟を留学させる際の居住目的の物件や投資目的の購入が多くなっています。カナダのある郊外ではそのような需要を背景に、年始から20%ほど値上がりをしています。中国の新しい政策案によって海外への投資を活発化していく見込みもありますので、入国制限の解除と合わせてタイミングが合っていけば日本への投資も早期に回復すると考えています」(趙氏)

在日の投資家は購入進める 実需を兼ねるケースも多く
 中華圏からの投資需要。在外の投資家だけでなく、在日の起業家やビジネスマンからの需要も見逃せない。
 コーヨー(千葉県松戸市)は不動産仲介や管理などを行うとともに、自社でも松戸市・東京都台東区で不動産賃貸業を行っている。海外投資家向けの不動産コンサルティングも行っていて、アジア系投資家、中華系投資家の動向にも詳しい。
 東京支店長の中島賢氏は中華系投資家が日本不動産への投資に積極的な理由について「通貨としての円が彼らにとって安全通貨であることやアジアの他の都市と比較して日本の不動産価格の割安感、所有権が確立されていること、留学先や将来的な移住、そして賃貸ニーズがしっかりしていること」と挙げる。
 パンデミックのなかで入国に制限がかかっていることから、海外在住の投資家が買いづらくなっている。中島氏は「そのなかでも、日本に住まわれている中華系投資家が不動産購入のプレイヤーとして存在感がある」と指摘する。同氏は「在日中華系投資家が7に対して、在外の投資家は3といった肌感覚です」とも話す。勢いに対しては変化が見られないようだ。
 日本の不動産価格は全体的に高値安定の市場となっている。ある国内の不動産流通販売会社の担当者は「これ以上価格が高くなるかはともかくとしても、金利環境などを考えても当面不動産価格が値崩れを起こす兆候は見られない」と話す。そのなかでも買おうとする姿勢は日本人との目線の違いや、購入目的が多様であることも関係してくるようだ。
 「アジアの他の都市圏に比べて、たとえば日本の東京の不動産価格が割安であることはポイントのひとつです。一方で在日系の中華投資家の場合、実需も兼ねて購入するケースが多く見受けられます。たとえば日本に来日されてビジネスで成功された方が、低層の自社ビルを購入されて自社で使用しないフロアを賃貸する、というケースは散見されます」(中島氏)
 アジア圏からだと、韓国投資家も日本不動産に興味を示す層が多い。九州であればゴルフも日帰りで行き来することができる。日本不動産を仕込む機会にもなっているそうだ。旺盛な需要は中華圏から様々な国へ波及していきそうだ。

投資金額は慎重な傾向もプレイヤーとして存在感
 今後、海外投資家の日本不動産への投資動向はどのように推移していくだろうか。「神居秒算」などのプラットフォームを通して、中華圏投資家に対して物件の認知を広げいくことになるだろう。それと並行して中島氏が指摘するような日本に在住する中華圏の投資家の存在も大きい。
 社会状況としては趙氏が指摘するように、まずは新型コロナのパンデミックの収束や入国に際しての制限がどれくらい緩和されるかが重要になってきそうだ。投資金額も全体的に慎重な傾向にあるようだ。「神居秒算」では1~2億円ほどの一棟ビルや1500~2000万円以上の区分マンションへの問い合わせが以前は多かったものの、現状では「投資金額としても全体的に慎重になっている印象」だという。
 新型コロナによって投資が集まるアセットタイプについても変化が生じている。コロナ収束後の投資アセットの変化は予想できない。ただ、中華圏投資家やアジア圏投資家は在日・在外問わず日本不動産の動向に注目し続けそうだ。


中華圏富裕層へのアプローチ強味
神居秒算 代表取締役 趙潔氏
 「神居秒算」は中華圏の不動産投資家に対して日本国内の不動産投資用物件を紹介する中華圏最大級の日本不動産プラットフォームです。これまで15万棟以上の日本の分譲マンションデータと20年間の取引データを網羅したデータベースを活用して、投資家への有益かつ効率的な日本不動産情報、仲介会社への中華圏投資家への販売チャネルの提供を行ってきました。現在はこれ以外に、国内の不動産仲介会社向けに自動翻訳付きリアルタイムチャットや日本語から中国語への物件情報図面作成ツール「図面くん」などを提供し、言語や商習慣の壁を乗り越えるサービスを提供しています。日本と中国にオフィスを構え、マーケティングチームは上海のオフィスに在籍しているため中華圏への広告・PRも積極的におこなえる体制を整えています。

購入後のサポートが課題に
コーヨー 東京支店長 中島賢氏
 中華系ならびにアジア系の投資家からの日本不動産への需要は増しています。投資目的であることはもちろんですが、実需用としても強いニーズがあります。ただし商習慣や文化の違いなどから、購入後の仲介や管理、さらにはその後の売却や更なる購入についてはサポートを強化していくことが必要だと思います。様々な投資家などとコミュニケーションをとっておりますと、中華系の投資家を専門に管理している会社などは非常に少なく、投資家側が苦労しているケースが多いと聞きます。今後より日本不動産への投資を促していくうえではこのような課題を解決していくことは必要です。またそのような課題を解決するソリューションを展開する企業への需要が増えてくることも予想します。




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