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貝印 サードプレイス提案サービス「the 3rd kitchen」展開 職場での調理環境提供を通しオフィスの価値見直しに寄与

2021.11.22 11:05

 刃物メーカーとして知られる貝印(東京都千代田区)は、調理器具や食に関わる幅広いネットワークや知見を生かし、サードプレイス提供サービス「the 3rd kitchen(ザ サードキッチン)」を9月30日から開始した。
 貝印は1908年に岐阜県関市で創業した総合刃物メーカー。生活に密着した刃物を中心としてカミソリや包丁など1万アイテムにもおよぶ商品を販売する。同時に約1500に及ぶ料理教室とのネットワークを持つなど、料理研究家やシェフとの幅広い繋がりを保有。包丁にはじまる多様な調理器具の開発や消費者データなどの知見、食に関わるネットワーク等を生かし新しい事業サービスの開発を行っている。
 「the 3rd kitchen」は、その最新サービス。提供の経緯をビジネス開発本部次長の山田顕諭氏は、自身の子育ての原体験が大きくかかわっているとしたうえでこう話す。「働きながら小さい子供を育てる、というのは容易ではありません。具体的には、『惣菜のパターンが決まっていてマンネリ化する』、『出来合いの惣菜を食べさせることに罪悪感がある』、『子供が濃い味のおかずを食べたがらない』といった悩みを抱える子育てワーカーが少なくありません。共働きの家庭が7割を占める現代で、料理教室とのネットワークを保有する当社のノウハウを生かし、仕事と家庭の両立を支援したいという思いから開発しました」。
 「the 3rd kitchen」は、直訳すると第3のキッチン。例えば昼休みといった勤務中の隙間時間を活用し、会議室などオフィスの一部を利用して夕飯を作って帰宅時に持ち帰ることができる。利用者とオフィスの制約条件に基づいて、カスタマイズされたレシピやカット食材などを提供可能とした世界初の事業となる。
 食材と併せて調理手順や片付けの内容が明示された専用スマホコンテンツを活用することで、料理初心者でも手軽に調理できることも魅力。メニューは貝印とゆかりのある料理研究家が監修。味・栄養バランスともに優れたレシピとなっており、料理を食す社員や社員の家族の健康面にも配慮されている。会議室など指定されたオフィスの一室にカット食材等が宅配される。冷蔵庫をはじめ調理家電や料理に必要な機器の提供も行うため、事前の設備投資も必要ない。
 この「the 3rd kitchen」の大きな特徴として挙げられるのが、いつもの職場で調理ができる環境を提供する「第三の場(サードプレイス)」としての役割を担っている点。夕飯づくりにかかる心と体の負荷を減らすだけではなく、従業員間のコミュニケーションの活性化にも役立つ。これまでの単純に仕事をするというオフィスから、新しい役割を付与することに貢献するサービスとして、期待が高まる。
 コロナ感染者数が減少し、元の日常に戻る期待が高まる昨今。オフィスの考え方はより多種多様となろう。模索を続けている企業は少なくない。リモートワークに可能性を見出して在宅勤務を選べる体制を整える企業も在れば、集合型のオフィスに戻すことを考え始めている企業も在るだろう。「出社することの意義」に焦点を当てながら、企業の規模や特性に合った適切なオフィスの広さ・作りなどを見直す機会となっていることは確か。サードプレイスの存在は、「出社する理由付け」において重要な役割を持つと山田氏は指摘する。
 「働き方が多様化している中で、在宅勤務による仕事の効率化にはまだまだ課題が残ります。子育て世代のワーカーにとって食事の準備・片付けや買い出し、献立を考えることに至るまで、家事の中でも料理による心理的・身体的負担は特に大きいです。また在宅勤務によるプライベートとの線引きの曖昧さから、ストレスを感じているワーカーは少なくないと感じます。『the 3rd kitchen』のような第三の場が、子育て世代をはじめとするワーカーの出社意欲を促す場所になると考えています」。
 「the 3rd kitchen」は東京23区の一部からスタートし、一都三県へと提供の拡大を目指していくという。会議室やオフィスの共有部を活用したサードプレイスの存在が、オフィスの重要な付加価値となりそうだ。




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