不動産トピックス

【今週号の最終面記事】街づくり新機軸

2022.02.21 13:41

空き家を活用した地域活性事例 人を呼び込む仕掛け作りに迫る
 まちづくりの計画の中で、地権者の不安を取り除く意味においてもコンセプトが重要だ。明確なコンセプトのもと地域活性化に寄与する取り組みを追っていく。

 不動産開発・店舗プロデュース等を営む白青社(熊本市東区)は、昨年秋より、空き店舗の窓を活用した無人店舗の仕組み「マドカイ」を提供している。
 「マドカイ」は無人店舗に並ぶ商品を窓から眺め、欲しい商品のQRコードを読みとるとECサイトで購入ができる仕組み。一般的に店舗を開業する場合は、工事や内装に莫大な費用が掛かる。対して顧客が店舗に入らずECサイトでのみ買い物を行う「マドカイ」は、大幅な開業コストの削減を実現する。不動産オーナー側は空き店舗の有効活用ができること、入居者となる店舗側は開業コストの削減と人を置かずに購買促進・宣伝効果が得られることが大きなメリットとなる。

物件に合わせた店舗づくり城下町の活性に寄与
 「マドカイ」はシャッターを下ろしていた商店街の呼び水として、地域活性化に貢献している。昨年3月21日~4月11日の期間、「マドカイ」の実証実験が行われた。実験の舞台となった熊本市古町エリアは、「熊本」駅と熊本城の間に位置する城下町。かつての職人街の風情が残り趣を感じられる。一方で、近年は「熊本」駅や周辺の大きなアーケードに買い物客が流れていく様子が目立っていた。
 実証実験ではそれぞれ電気屋と床屋が営業していた1階区画のファサードを活用した。電気屋はファサードごと変えてフルリノベーション。店舗を構えたのは山鹿灯籠などの手仕事品を作る和紙工芸の職人。店内には紙で製作されたモビールなどを配置した。商品のスケール感がつかめないというネット通販の難点をクリアし、かつECサイトで自由に買い物ができる。
 床屋は店を閉めていたものの、店主家族が継続して住んでいることもあり大掛かりな工事を回避。期間限定の企画型店舗とした。入居したのは熊本の老舗書店・長崎次郎書店。販売商品は「書評で選ぶ本」。店内にはカバーがかけられた本を並べ、QRコード読み取って書店員が選んだ本の書評が読める仕組みとした。「何の本の書評であるか、購入してからのお楽しみ」というからくりは、大きな反響を呼んだ。
 町の歴史に触れながら遊び心を感じられる「マドカイ」は、近隣住民や観光客など多くの人々の心を掴んでいる。今後は新たに歴史的建物を活用した「博覧百貨」を始めていく。
 「無人店舗の仕組みを活用して、歴史的建造物を地域の旗艦店へと利活用し地域のデザインプロダクトを展示販売する『博覧百貨』の展開を進めています。歴史的建造物の所有者の方々は建物の活用方法に悩みを抱えるケースが珍しくありません。工芸品など地域特有の商品をディスプレイすることで、観光需要を取り込んだ新たな地域のランドマークとして期待できると考えています」。
 2021年グッドデザイン賞を受賞し、熊本市長定例会見にてマスコミに向け受賞の報告があるなど、大きな反響を呼んだ「マドカイ」。今後の展開にも注目したい。

空き家を共同生活の場に 富山でシェアハウス運営
 シェアライフ富山(富山県富山市)は、空き家を活用したシェアハウス・民泊等の運営・管理を行う。代表取締役の姫野泰尚氏は2年間の海外生活を経て2008年に帰国。日本でもシェアハウスに住みたいとの思いから、2009年に富山県で初となるシェアハウスを立ち上げた。当時は全国的にも珍しかったシェアハウスだが、立ち上げ以降問い合わせは少しずつ増加。地域の空き家オーナーからの活用相談をきっかけに、ニーズを拾うべく拠点を増やした。2014年にシェアライフ富山を設立し、現在はシェアハウスを11拠点、民泊6拠点の運営・管理を行う。
 シェアハウスの魅力について姫野氏は「まず一番は『家に帰ってもさみしくない』ことだと考えています。入居者一人一人様々な入居理由がありますが、根幹で共通している部分だと感じます。また、私自身の経験から、共同生活は自分の人生に変化を生み、また日々互いを理解し、尊重しようとする生活の中で人間的な成長にもつながると実感しています」と話す。
 12拠点目として、今年から富山県立大近くの物件でシェアハウスの運営を始める。県内で日本茶販売を営む藤岡啓一氏が取得した、地上3階建ての物件を活用する事業だ。元は店舗兼住居だった同物件。2、3階は6~12帖の居住スペースを全7室設け、店舗仕様だった1階は共用スペースとした。約60m2の共用リビング・キッチンは、各部屋に行くまでの動線上に位置する。帰ってきたときに、人の目線や声を感じられる工夫だ。加えて大学のキャンパス付近ではあるが、学生だけでなく社会人も入居対象となる。シェアハウス関係者による地域連携への思いが背景にある。
 「『世代を越えてコミュニケーションを取り合うことが、入居者にとって今後の人生のヒントを得る機会になってほしい』との藤岡様の願いと、今後”多世代型モデル”に注力したい弊社の思いが重なりました。藤岡様と射水市、富山県立大学、当社の4者間で、シェアハウスが学生と射水市の地域交流の糸口になればとも望んでいます。これまで、富山県立大学の学生と、太閤山地域(富山県立大学の立地するエリア)が連携した取り組みはほとんどなかったとの事でした。ここを拠点に街づくりの面でも新しいことができるのではないかと期待しています。居住者の生活を何よりも第一とする上で、共有スペースを活用したイベント開催や商店街の方々を招いて語り合う場の提供などを行っていきたいと考えています」(姫野氏)
 空き家をコミュニケーションの絶えない人との繋がりの場にすることが、地域活性への大きな糸口となるに違いない。

シャッター街再生に奮闘 大きな要素は「若者の力」
 静岡県富士市の吉原商店街。1960年代に建てられたビルが林立し、シャッターを閉める店舗が目立つ。富士山まちづくり(静岡県富士市)代表の佐野荘一氏はこの問題に向き合い、商店街の中でもとりわけ老朽化が目立っていた「丸一ビル」を取得。リノベーションを施し、2015年に複合施設「MARUICHI BLDG.1962」として生まれ変わらせた。この事例以降、若者を中心に街づくりの動きが活発に。同商店街では70近い新規出店が続くなど、波及効果が表れた。
 富士山まちづくりは、出店希望者や遊休不動産の活用に悩む事業者の相談を受ける、まちづくりコンサルタント事業も行う。数々の地域の現状を見てきた中で、若者世代の協力の大切さを実感しているという。
 「多くの街では、空きビルの活用やまちづくりを行うにあたり空き物件のオーナーへの説得に苦労する場合が多々あると思います。吉原商店街の場合、『物件を売りたい、貸したい』といった申し出があれば新規事業者とのマッチングや資金確保のためのネットワークを活用し、空きビルの再生が少しずつですが進んでいます。『MARUICHI BLDG.1962』の場合も若者の存在が大きく、入居者のひとりは家賃設定やリーシングまでビル自体のコンセプト作りにも関わってもらいました。こうして一歩ずつ進んできましたが、シャッター街の再生に特効薬はないと考えています。若者が行動を起こしやすい環境づくりを、20年程前から少しずつ整備しながら基盤をつくってきました。商店街エリアに新たな価値を見出し、その魅力を向上させるために試行錯誤することがまちづくりで大切だと思います」(佐野氏)
 吉原商店街では最近不動産投資への需要もみられるようになりつつある。変化しつつある街なみは、長年積み重ねてきた地域活性への取り組みの成果だ。


地域の景観に溶け込む工夫を
白青社 荒木信也氏
 古町のまちづくり団体の方からご相談を受けたことが「マドカイ」のはじまりです。計画を進めていく中で熊本市の実証実験に応募することになり、予算や地権者の方の都合を考えた上で何を行うか決めることに。空き店舗には居住者のいる物件もあったので「無人でかつ店舗に商品を置かずにネットで買い物ができる」仕組みが生まれました。照明のオンオフのタイマーなども活用し、地域の景観に溶け込む努力をしました。その甲斐あってか、地域の方々から親しまれています。また無人ですが、窃盗被害などのトラブルは起きていません。2週間で10万円以上の売り上げを出す店舗もあるなど、効果の大きさを実感しています。

来客ターゲットの重要性
富士山まちづくり 代表取締役 佐野荘一氏
 街づくりでは「来てほしいターゲットを絞ること」が大切だと考えています。「誰でも来てほしい」を売りにすると、大手の商業施設などが競合相手になってしまいます。そうなると当然資金力で勝負をしなければならない場面も出てきます。小規模の事業者であればなおのこと、集客ターゲットを明確にすることが、一貫した事業の展開に繋がるのだと感じます。




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