不動産トピックス
【今週号の最終面特集】ビルオーナー・不動産オーナーが取り組むアセットの地域活用
2022.06.27 11:57
工場移転後の跡地活用に老人ホーム 社会貢献と生活利便性を実現
UR都市機構から「佐野湊団地」取得 バリューアップ後は稼働率9割強
不動産賃貸業はオフィス・店舗による貸ビル業だけでなく、アパート・マンションといった住居や介護施設の誘致など多種多様にある。特にこれからの賃貸業は近隣の需要を捉えつつ、どの様な形で街の魅力形成や課題解決に応えることができるのか、事前の対策が重要となる。
倉庫業から賃貸業へ不動産事業を骨太に
JR「品川」駅港南口から徒歩5分に「Wビル」を所有・運営管理する渡邊倉庫(東京都港区)。元々は倉庫業が同社の主軸事業であったが、「Wビル」竣工後はオフィスビルをはじめとする不動産の賃貸業が主軸へと変化。ここ数年は更に不動産賃貸業及び不動産関連事業を骨太にするべく、事業内容の強化を図っている。
例えば、収益物件の取得。同社は年に数棟を意識して、アセットを限定せずに有益な不動産を探し取得している。昨年3月にはJR「新横浜」駅から徒歩5分、「横浜アリーナ」近くにオフィスビルを取得。「Wビル」と同様に新幹線の乗降駅近くに建つ物件の取得とあって、新幹線利用の多い企業や業種の入居に適している。
またビル事業に関連する項目としては、2019年から自社で運営するシェアオフィス「リブポート」がある。同年8月から「リブポート浜松町」、10月からは「リブポート品川」を開業し、エリア周辺のシェアオフィスニーズに応えてきた。「Wビル」2階に開設したリブポート品川では昨年新たに区画を増床。最小で6坪~最大20坪までの個室7部屋と既存テナントも使用できるミーティングルーム2部屋を併設した。今後も物件の取得と共にエリアの特性によっては、リブポートの拠点開設を進めていく。
高齢者施設が不足 課題解決が開発の肝
渡邊倉庫には開発部がある。開発部は保有する土地・建物の有効活用を検討・実施する部署。特に遊休地に対する有効的な活用方法を企画し、実現へ繋げていく。直近では京急本線「立会川」駅から徒歩7~8分の南大井4丁目に位置するグループ会社の工場移転後の跡地活用を手掛けている。元々同地の周辺は工場や倉庫が多い地域であった。年月が経つことに変化していき、現在はマンションや戸建て住宅が多く密集する住宅エリアとなった。その様な地域に大型トラックなどの出入りの多い工場が立地していることを同社は危惧し、移転を決めた。
開発部長の筧直之氏は「エリアの特性調査を進める中で、高齢者施設がまだまだ不足しているエリアでありながら、周辺には施設誘致に適した、まとまった規模の敷地が少ない。この課題解決が本プロジェクトの肝になると確信しました」と経緯を語った。
同跡地には、来年5月に老人ホームが建つ予定である。敷地面積1504㎡、規模は鉄骨造の地上6階建て・延床面積は4190㎡。1階には送迎用等の駐車スペースと、200坪強の店舗区画を設ける予定だ。高齢者施設と店舗の複合用途とした背景には、周辺に住宅が増える一方でまとまった土地の確保がしづらいエリアだったことがあり、同社は従前から近隣の買い物需要にも着目していた為、今回の跡地活用を契機に、社会貢献と近隣住民の生活利便性向上を同時に叶えるプランとなった。
筧氏は「解体工事が完了し、いよいよ新築工事に取り掛かりました。設計はスターツCAM(東京都中央区)が担当してくれています。不動産を通じて地域貢献をしていく、当社が今後も展開する不動産事業においての指標となる事例が形成できたと思います」と語った。
URから大型団地取得 300戸超は当時初
情報都市(大阪府泉佐野市)は大阪府の泉佐野市を中心に、不動産の仲介・売買・保有運営・管理・再生事業等を手掛けている。
2015年にはUR都市機構(横浜市中区)から賃貸住宅団地「佐野湊団地」を取得。以後、大規模なバリューアップを含めた団地再生を続け、現在は高稼働に繋げている。元々同社は地元・泉佐野市を含む「りんくう地域」を中心に不動産事業を展開。不動産事業を通じて地域への社会貢献や活性化等も一緒に行ってきた。りんくう地域は、大阪府の泉佐野市・田尻町・泉南市などが該当する大阪府の副都心のひとつ。市内や関西空港へのアクセス性に優れており、ビジネスと共に暮らしにも適した環境である。
その様な地域にUR都市機構が保有・管理していた住宅団地を、同社は国内で初めて買い受けた。取得した団地は「佐野湊団地」の1号棟と、2号棟。総戸数は329戸で、当時300戸を超える物件をUR都市機構から取得した民間企業は情報都市だけである。
取得後に機能面改善 総工費は2.2億円
「佐野湊団地」は1978年6月竣工の14階建て。南海本線「井原里」駅より徒歩12分に位置し、団地を中心に店舗等の生活関連施設が整備されている。生活する上で利便性が高く、単身者やファミリー層にも対応した多彩な部屋を設けている。しかし取得時は、空室をおよそ140戸抱えていた。立地や物件の持つポテンシャル等は高かったものの、設備や意匠性といった機能面では陳腐化が進行していたからだ。同社は取得後すぐに機能面の改善として、設備をはじめとする団地の改修に着手。特に2020年11月からは総工費2・2億円の大規模修繕工事を実施し、昨年7月に完了。明るく、かつ清潔感も感じられる外観に生まれ変わった。
居室は異なったタイプが存在し、どれもバリューアップ済み。例えば、フローリングの部屋が2部屋ある「Aタイプ」。Aタイプはフローリングや壁紙が部屋ごとに違い、選択肢の多いことが特長。一方「Cタイプ」は、和室2部屋とDKに分かれている。家賃設定はリーズナブルで、生活空間を分けたい人や和室の部屋がたくさん欲しい、割安な部屋に引っ越したい人にはお勧めだ。またDKと和室間の引き戸を外して広いLDKとしても使うことができる。この他にS、B、Dの部屋があり、どれもバリューアップによって今までの団地のイメージから一新した室内に仕上げた。
広報企画室の河島光佑氏は「取得当時は58%であった入居率は、今年6月時点で約97%まで達しており、タイプによっては空きがありません。更に団地の入り口やエレベーターの周囲には防犯カメラを設置し、入居者のセキュリティも確保しました。安心して長く住める取り組みも行っております。ビル専用の特設ページや、SNS、パノラマカメラの導入により、遠方の方でもご覧いただけます。バーチャル体験マップもご用意しておりますので、ぜひご覧ください」と語った。