不動産トピックス
【今週号の最終面特集】デジタル×不動産 最新動向
2023.05.01 13:51
テクノロジーを駆使した不動産サポートサービス ChatGPTや高性能データベースが業務効率化に
不動産業界でもDX化が叫ばれて久しい。最近は、人海戦術や、話題のChatGPTを駆使するサービスも台頭。業務効率化や、人手不足の課題解決にも期待される。
ChatGPTを搭載 ローン計算や不動産用語を解説
Realty Bank(札幌市中央区)は3月中旬から、不動産業界のAIアシスタントチャット「不動産AIチャット」のプロトタイプ版の公開を開始した。
同社は、代表取締役の川上将司氏が2021年に設立。AI技術を用いて部屋に家具家電を不動産広告写真上に配置する内覧サポートシステム「デジタルステージング事業」を主軸に展開。現在、470の不動産仲介・管理会社等で導入されている。
ChatGPTとは、アメリカの人口知能の研究機関・OpenAI社が昨年11月に発表したAIチャットボット。従来のチャットボットと比べて自然なやりとりができること、自動的な学習が可能となることなどが強みとされる。その精度の高さから各業界における反響は大きく、一部の行政では活用に前向きな姿勢を見せている。
「不動産AIチャット」ではこのChatGPTを内蔵。LINE上で、AIが不動産にかかわる様々な質問に回答する。
川上氏は「私は当社を立ち上げる前、国内の不動産会社に勤めていました。海外の不動産業界との違いを学びたいという思いから、2021年にアメリカの不動産会社に転職。アメリカではテクノロジーが不動産の日常業務に活用されていることに気づきました。それを受けて、日本でもテクノロジーが不動産業務の一端を担えるような環境を作りたいと模索。ChatGPTのAPIが公開されたことを受けてチャットツールの開発に至りました」と話す。
「『不動産AIチャット』では、基本となるChatGPTの機能に不動産の利回り・ローンなどの計算要素を取り入れて、不動産用語を3000語程度覚えさせています。通常のChatGPTは計算に弱いという特性がありますが、当社でチューニングを行ったことで、かなり正確な数値を算出することができます。不動産関連企業の営業ツールのほか、新人研修などにも活用いただいています」(川上氏)。
ChatGPTの認知度が向上すると同時に浮き上がる課題。その一つがAIの誤回答。流暢に明確に解説をしてくれるChatGPTだが、ときに回答の精度が低いことも事実。この現象を改善する方法として上げられるのが、「AIが答えやすい質問の仕方」だ。
「ChatGPTは質問の仕方によって得られる回答が異なります。そこで、『不動産AIチャット』では数種類のフォーマットを用意。調べたい用語や数字を入れるだけで、より正確な回答を得ることができます」(川上氏)。
リリースから1カ月。「不動産AIチャット」の利用登録者は4月末時点で900人程。LINEで質問できる手軽さが後押しし、着々とユーザー数を伸ばしている。
昨今は不動産管理会社や仲介会社等で人手不足が深刻となり、業務効率の改善が急務となる。一方、未だ書面でのやり取りを続けている企業は多く、業界的にデジタル化の進度は早くない。
殊に、物件の取引に関しても例外ではない。例えばアメリカでは、不動産取引の際にMLSシステム(Multiple Listing Service system)というデータベースシステムが用いられている。MLSでは物件価格や相場価格、過去の所有者、3D内見まであらゆる情報を閲覧することが可能。Web上で多くの取引が完結する環境が整っている。
「日本では、内内の情報での取引を行うことが良しとされてきました。この背景を考えると、まずはチャットでの物件案内や日常業務サポートなど、取り組みやすいところから始めていくことが望ましい。『不動産AIチャット』では今後、家賃査定や価格査定、行政公開情報等の機能を強化した正式版をリリース予定です。来年3月末までに、1万人の登録を目指していきます」(川上氏)。
昨今話題となっているChatGPT。日本の不動産テック業界にも新しい風を吹かせそうだ。
事業者の半数以上が認知 ChatGPTの推進に期待
スペースリー(東京都渋谷区)が不動産事業者500名に対して行ったアンケートの調査結果によると、ChatGPTの認知度は61・5%と高い一方、不動産業務における利用率はうち15・1%程度。利用予定者を含むと37・3%と、3社に1社がChatGPT利用を推進していることが分かったという。活用ノウハウや情報が広がるにつれて、深度も深まっていくと考えられる。
538種の開業情報と既存店舗をデータベース化
一方、独自路線でユーザーニーズに応える事業者もいる。ITと人海戦術で、街中を調査して空き地や解体現場などのデータを数値化するサービス「macci(マッチ)」を提供しているReview(リビュー:大阪市中央区)。
これまで、日本国内300万件以上の飲食店や理美容、介護施設などの既存店舗や開業情報など、Googleなどのサービスでは検索表示されないデータを集め、提供してきた。
これに加えて、ホームセンターやペットショップといった物販や、生活インフラ、冠婚葬祭、スポーツジムやゴルフ練習場の趣味・娯楽など、157ジャンル538種の情報を追加。4月17日、ローンチした。毎月、随時更新して情報の精度や鮮度を保つ。藤本茂夫社長は「当サービスの大きな特長は、飲食店や美容など幅広いジャンルの情報が、1つのサービスで網羅できること。開業閉業など、地図サービスや口コミサイトがカバーできないリアルタイムな情報をキャッチできること」と話す。
検索方法は「macci」にログインして、「街データ」あるいは「開業」データを選択する。ジャンル、エリアなど知りたい情報に絞るとマップ上か、一覧で該当施設が表示される。電話番号や法人名の有無で絞り込むことが可能だ。このほか、開業日検索では、直近6カ月、直近3年などセグメントもできる。
検索結果は、個々の住所や電話番号といった基本情報から、WEBサイトやSNSなども格納しており、事業者が法人の場合は法人名や所在地も表示される。データをcsv保存できるほか、店舗情報に対してタスク入力をして、商談内容や進捗状況を記載することもできる。
さらに顧客管理、売上管理を行うCRM機能も搭載。目標売上予算や件数を、事前に登録しておくことで月別、担当者別の売上推移を確認することもできる。「ハウスメーカーや通信会社などが営業ツールとして使用したりマーケティング調査に活用したりしている。顧客の中心が大手なので、データを拡充させたことで大小を問わず、幅広い領域で役立つよう市場を創っていきたい」(藤本社長)。
開発に際して、同社では全国各地の保健所などから1件ごとの情報を取得し、元データとして作成した後、インターネット上のデータとの照らし合わせや、現地調査をするなどして、基本データを完成させた。そうすることで、リアルタイムな情報を提供できるという。
使用については、無料プランと月々3万円からの有料プランを設定している。通常、無料プランには制限がかかるが、リリース記念として、1週間有料版を試すことができる。