不動産トピックス

【今週号の最終面記事】事業用物件で進む木材利用最新動向に迫る

2023.05.15 10:35

狭小地の活用に低層の木造ビル
新工法+補助金等の組み合わせ 建設コスト圧縮
 これまで木造ビルは、建築コストから割りに合わないと諦めるケースが多かった。だがウクライナ情勢の影響等もあり、建材価格が高騰。代わりに木材の利用が進むこととなった。今年4月には、名古屋で地上3階建ての純木造ビルが竣工。新工法を活用した新たなモデルとなった。

地上3階建ての貸ビル 金山ウッドシティビル
 studio KOIVU一級建築士事務所(名古屋市熱田区)は、JR・名鉄「金山」駅南口から徒歩3分に木造ビル「金山ウッドシティビル」を建設。4月21日に竣工を迎え、テナントの入居開始は5月からとなった。
 施工主は同社に所属する建築家で、日本福祉大学の健康科学部福祉工学科の准教授でもある坂口大史氏。建設地はお寺の借地で、代々坂口氏の家族が暮らしてきた。50年近くにもわたって暮らしていた同地に、木造ビルの建設を計画し始めたのは2019年頃。コロナ禍を経て、3年掛けて実現。約14坪の狭小地に、地上3階建て、延床面積99・96m2の純木造ビルを建設した。1階には同社の事務所が入居。2階、3階がテナントフロア。約5坪の部屋を各階2部屋用意した。
 ビルの特長は、外壁の木製ルーバーと特殊施工。新たに開発した工場施工型のCLT耐力壁(壁倍率16倍)を用いた新工法で設計した。耐力壁にはタフネスコネクター、ホームコネクター、キューブコネクターを活用。工場で事前に壁を制作し、現地では壁を据え付けるだけ。現場での施工手間や施工誤差を極限まで少なくし、狭小地でのビル建設や工期短縮の面で最適な手法である。坂口氏は「ESG投資やSDGs等の注目から、木造案件は近年増加傾向にあります。事業用物件であればオフィスビルに加えて、ショールーム、クリニック、倉庫等にも活用可能です。階数は地上5階までが目安で、駅前商業ビルの建替えや高さ制限のある土地活用に適していると思います」と語った。

建材建築費5割補助 鉄骨造より多少割安
 これまで木造ビルの建設・普及が進まなかった背景には、建設コストが挙げられる。木造は一般的なビル建設よりも若干割高で、耐久性の面から地上10階以上の建設も難しい。コロナ禍の影響によって、木材価格が高騰した「ウッドショック」も関係していた。特に21年3月頃から、住宅の柱や梁(はり)、土台などに使う木材の需給がひっ迫。背景にはカナダで発生していた害虫被害、海外での木造建設ラッシュ、流通面でのコンテナ不足などがあったようだ。しかし最近になってウッドショックが落ち着いてくると、今度はウクライナ情勢の影響等もあり、建材価格が高騰。現在は建設コストにおける、逆転へ繋がっている。
 「今や木材価格が割安となり、当社の新工法も加えることで、同じビルを木造と鉄骨造で建てた場合の建築コストを比較すると、一般的な鉄骨造で建設するよりも安く済むことがわかりました。更に昨今は木材利用の助成金・補助金も充実しています。『金山ウッドシティビル』では愛知県産の木材を使用したことで、愛知県の木材利用における補助金を活用でき、建材・建築費の5割が補助されました。また、林野庁の補助金では愛知県の補助部分を除いた建築工事費(設備費等一部除外)に対して30~50%の助成が申請できました。新工法+補助金・助成金の組み合わせで、木造ビルのコスト圧縮が実現した形です」(坂口氏)
 設計面での工夫として、ビルの中央にはコア機能と階段をつくり、共用部をできるだけ少なくしている。この設計により、できるだけ貸室スペースへ面積を割り振ることができた。貸ビル業も意識しての手法を採用している。同社は今後、同地を中心に「ウッドシティ」をコンセプトにした都市木造ビルを複数棟建設していく想定だ。同ビルのように計画段階の土地が複数件あり、順次5階建て以内の木造ビルを「2~3年の期間で1棟」のペースで建設していく。今回の入居テナントも今後の建設を意識して、木造ビル建設に関連する企業やメーカーを誘致した。もちろん名古屋に限らず、都内や他エリアでも展開していく姿勢だ。

都市部よりも地方都市 低層や中小規模が多い
 木材利用が進んでいるとは言え、現時点では極めて限定的。規模も低層や中小規模が多い。木造と鉄筋コンクリート造を混ぜたハイブリッド型の建築方法が多く、一般的な鉄骨鉄筋コンクリート造の高層ビルよりも規模はスケールダウンしている。現時点では都市部よりも地方都市や郊外での建築に木材利用が進んでいるようだ。
 著名な事例では、現在熊谷組(東京都新宿区)と住友林業(東京都千代田区)が札幌市で建設中の耐火木質ビル「(仮称)KAGAプロジェクト」がある。事業主は東京都渋谷区の不動産事業者でBeppo Corporation。地上10階地下1階建てで、延床面積は1102・42㎡。札幌市中央区南1条通に面しており、観光やビジネス需要を想定して構築。1~2階はカフェ、3~8階はオフィス、9~10階は住居になる予定だ。ちなみに木材活用による環境配慮に加えて、若者へのIT関連の支援等を通じ、街の新たなコミュニティ創出を目指す。
 ビルの7~10階には「木質ハイブリッド集成材」を利用する。1時間耐火で大臣認定を取得している「鉄骨内蔵型」の耐火集成材。鉄を熱から守る構造で、コスト削減と高い汎用性を実現。従来の木質ハイブリッド集成材梁とも異なり、デザイン上の制約が少なく意匠性も向上する。竣工は今年6月を予定する。
 また富士リアルティ・湘南乃工務店(神奈川県藤沢市)は、藤沢市辻堂新町にて湘南地域初となる木造5階建ての中高層複合ビル「this is me」プロジェクトを進めている。
 同ビルは、JR東海道線「辻堂」駅北口から徒歩13分に位置。地上5階、延床面積590㎡超の木造中高層複合ビル。国産・地域産木材利用の5階建ては、建築規模、商業用途、高さなど様々な要素で初の試み。外観デザインは、地元藤沢市出身のデザイナーを起用。木と自然の融合をコンセプトとした、斬新なデザインを採用した。1階はカフェ。2階に託児施設。3~5階に美容エステが入居予定。屋上には江の島の展望が楽しめるテラスカフェの設置を予定する。
 構造には2×4(ツーバイフォー)工法を採用。過去の震災での高い耐震性と、評価の高い耐火性を考慮して採用。また使用する木材は、国産・地域産木材を活用。建材の約1割強に丹沢産材を使っている。建材を作るための工程を伐採地に近い場所で行うことで、CO2の発生を抑制。また建築地に近い生育地の木材は、気候・土壌耐性上、シロアリや腐朽などへの耐性が高いことが実証されている。建築の耐久性向上に大きな役割も担う。「this is me」も今年6月に竣工予定だ。
 またJR東日本グループのJR中央線コミュニティデザイン(東京都小金井市)は、JR「国立」駅南口で木造商業ビル「(仮称)nonowa国立SOUTH」を開発中だ。
 同ビルは、駅隣接地に地上4階の木造(一部鉄骨造)ビルを建設。延床面積は約2450㎡で、物販・飲食・サービス店舗などが入居予定。設計施工は大林組(東京都港区)が担当し、今年3月に着手。来年3月末の竣工、並びに春の開業を目指す。工法は大林組の技術である「オメガウッド(耐火)」を採用した木柱と、鉄骨梁を組み合わせたハイブリッド木構造である。




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