不動産トピックス

【今週号の最終面特集】多角的な視点から考える まちづくり・地域の活性化

2023.06.12 10:38

街のファンを生み出すイベント企画 地元の飲食店と連携したサービスも
農業体験や職業体験 子どもが主役の催し多数
 日本全体では少子高齢化が社会問題となっているが、都心への一極集中の加速など、都市間で格差が生まれていることは事実である。地域の特色を生かして街の活性化を図るためには何をすべきか。その答えは1つではない。人を呼び込み、街の活力を呼び起こす事業者の取り組みを紹介する。

社会問題を抱える中 地場の不動産会社が奮闘
 埼玉県北東部に位置する幸手市は、人口が約5万人。旧日光街道の宿場町として古くから栄え、市内の権現堂桜堤は県内でも有数の桜の名所として、満開の時期になると多くの観光客が訪れる。東京からは50km弱と通勤圏内に位置し、東京都心へは鉄道を利用し1時間余りでアクセスすることが可能。街の玄関口である「幸手」駅周辺はベッドタウンとしての機能を有する一方、市内にはのどかな田園地帯もあり、落ち着いた雰囲気が特徴といえる。近年では首都圏郊外を結ぶ圏央道が開通したことで、街の交通利便性はさらに高まっている。
 不動産の売買・賃貸の仲介・管理などを行うフレンドホーム(埼玉県幸手市)は、同市を含む周辺地域を営業範囲とする不動産会社として1988年に創業。年間の仲介件数は約350件、現在の管理戸数は約1400戸で、市内のシェアは25%を超えるなど、地域密着の事業展開を続け、今年創業35周年を迎えた。代表取締役の鎌田康臣氏は、市の地域特性について次のように話す。
 「埼玉県東部から東京への通勤需要は、東武スカイツリーライン『東武動物公園』駅までが主だった範囲です。幸手市は、わずかにその北に位置しています。隣接する久喜市もまた同駅の北に位置しているのですが、『久喜』駅はJR線が乗り入れておりベッドタウンとしての優位性は久喜市に軍配が上がります」
 幸手市は、将来にわたって出産適齢期の若年女性の減少が見込まれる「消滅可能性都市」に挙げられるなど、少子高齢化が喫緊の課題となっている。若い世代の人口流出が地域の産業振興にも歯止めをかけている現状があり、フレンドホームでは「この街に住み続けたい」と思えるような地域活性化に向けた取り組みを積極的に展開するようになったという。きっかけはコロナ禍であったと鎌田氏は振り返る。
 「2021年に創業時から加盟していたフランチャイズとの契約を終了し、自社ブランドでの事業展開を行うにあたって、マーケティングに注力する必要があると考えました。そこで、当社の管理物件にお住いの方が住宅を購入する際の行動について調べてみると、住宅の購入や新築は他社へ依頼しているケースが多いということが分かりました。住まいはライフステージによって変化しますが、当社はその変化に対応しお客様にリピーターになって頂きたいという思いから、地域との関わりを重視した取り組みを積極的に行うようになりました」
 まず実施したのが、管理物件の入居者に参加を募って行った農業体験会である。管理物件を保有する地主の協力のもと、サツマイモの苗を植え、秋には収穫。コロナ禍でイベント自粛が相次ぐ中で、参加した子ども達にとっては貴重な体験となったようだ。また、地元の飲食店と協力した「おしごと体験会」や、同社の本社事務所の敷地を活用しての「フレンドマルシェ」の開催と、同社の管理物件入居者だけでなく近隣住民も楽しめるイベントも企画。「フレンドマルシェ」では地元で栽培された野菜の配布や、縁日風の屋台が並び、子ども達を中心に楽しめる内容となっており、同社のマスコットキャラクター「ラッフィ」の着ぐるみも登場した。
 同社ではこうしたイベント企画だけでなく、管理物件の入居者限定のサービスとして、地域の飲食店で割引等のサービスを受けることができる優待制度「フレンドMEMBERS」を2021年から開始。このサービスに賛同する店舗は30店を超えており、地元経済の活性化にも貢献している。鎌田氏は「地域貢献を謳っている不動産会社はたくさんあるが、当社は実際に地域活性化に向けて全社員の時間を使って投資をしている。自分たちが地域活性化に向けて取り組んでいることを誇りに思ってほしい」と、日頃から社員に対して伝えているという。創業から35年にわたり地元で積み重ねてきた信頼をもとに、同社は今後も地域活性化の取り組みに注力する。


地域の防犯・防災力向上にも貢献 愛知県岡崎市と連携し空き家流通の実証実験
未活用の山林や田畑引取サービスを展開
 未活用のまま遊休化した山林や田畑などの土地を引き取り、販売を行っているKLC(東京都港区)は、愛知県岡崎市と連携し、市内の活用困難な空き家の流通支援事業に関する実証実験を開始した。
 KLCは2018年より、不動産の引取サービスを開始した。所有者が処分に頭を悩ませている不動産は全国各地に存在する。特に、後継ぎがいない、あるいは引き取り手がいなくなってしまった山林や田畑などの土地は活用されずにそのまま放置され、管理の手が届かなくなってしまうケースが多い。所有者にとっては資産価値が低いこれらの土地は、固定資産税や管理費用などの負担も大きく、早く手放したいと考えるケースも多いという。放置状態となってしまった土地は土砂災害などの危険性が高まる恐れもあり、各自治体にとっても大きな課題となっている。同社の引取サービスはこうした未利用の土地を、引取料を受け取る代わりに同社へ名義変更するというもの。引き取った土地は、有効利用できる買い手への売却を中心に最適な活用を模索する。昨年からは未利用地を処分したい人と未利用地の活用を検討する人をつなぐマッチングサイト「フィールドマッチング」の運営も開始。現在、同社には年間3000物件以上の相談が寄せられている。
 今回の実証実験は、少子高齢化や人口減少で社会問題化している空き家の流通を支援するもので、岡崎市ではこれまで空き家バンクの活用など様々な取り組みを行ってきた。この問題に対しては、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称:空き家法)が整備され、空き家となった建物の円滑や再利用や処分が促されているものの、自治体側としては行政代執行による解体撤去費用の所有者からの回収が見込めない以上は実行に移すことがなかなかできないというのが現状。一方で、近隣住民にとって空き家は老朽化・自然災害による倒壊や、防犯面での不安から一刻も早い解体を望むものの、その費用を税金から捻出することには不満を呼び起こしかねない。今年3月に空き家法の改正法が閣議決定され、より積極的な対応策への法整備が加速する期待がある一方で、自治体・近隣住民の置かれた立場を考慮すれば、より抜本的な構造変化を求める声もある。
 今回の実証実験は今年度中を実施期間とし、従来まで岡崎市が取り組んできた空き家活用を継続しながら、買い手や借り手がつかない空き家に対してKLCが流通実現に向けた提案を行う。同社代表取締役の小林弘典氏は「今回の実証実験を通じて、岡崎市内の空き家の実態について、より精度の高い情報把握が実現するものと考えています。この実例をもとに空き家問題を課題に掲げる他の自治体などとの積極的な連携も視野に入れながら、活用困難な空き家の流通を通じた地域の活性化に貢献できれば」と述べている。




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