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ビル業界の知られざる「匠」 「左右に開く」シャッター開発
2017.12.04 11:01
開閉時の負担軽減、高齢者に人気博す
「上下に開く」のが一般的なシャッターだが「左右に開く」という「横引きシャッター」を開発・販売する希有なメーカーが存在する。社名は「横引(よこびき)シャッター(東京都足立区)」、名は体を表す。
横引シャッターは1986年に創業。大手シャッターメーカーから依頼を受けて修理等を請け負う中央シャッター(東京都足立区)のグループ会社である。「横引き」のシャッターはかつて大手シャッターメーカーが製造していた時期があったそうだが「シャッター下部にタイヤを付けた簡易な構造で、稼働が悪く故障が続出したため、短期間のうちに販売停止になった。誰も取り扱わなくなったため、より使い勝手の良い横引きシャッターの開発に着手した」(市川氏)のが始まりだ。研究を重ね、35年前に上吊り式の横引きシャッターの開発に成功。度重なる改良を加え、多数の特許を取得している。
上吊り式とは、上部に滑車を導入したもので、カーテンをイメージするとわかりやすい。滑車を伝って横に動くため、曲線にも対応できるのが最大の特長だ。しかし、開発当時の販売実績は「惨憺たるものだった」と市川氏は振り返る。「町工場レベルの知名度しかなく、思ったほど販売実績が伸びなかった」(市川氏)である。
潮目が変わったのは大規模商業施設が急増した90年代以降。それまでは「行政施設内にある特殊設備を保護することを目的にフルオーダーで採用された程度だったが、駅ビルや郊外型の大型商業施設が増え、店舗同士の間仕切り壁として横引きシャッターが採用されるようになった。当時の大型商業施設は天井高を確保するため、天井の厚みを減らしていたので、既存シャッターでは天井部に格納できない。加えて各店舗を囲えることが評価された」(市川氏)のだ。
一方、15年ほど前には戸建て住宅のガレージ用に横引きシャッターが採用されるようになった。市川氏によると「特に富裕層が自宅を建てる際に『こだわり』があり、依頼を受けた設計士が横引きシャッターを採用するケースが増えた」のである。加えて、昨今の高齢化社会、リフォームブームも追い風になっているそうだ。
「高齢者が戸建て住宅に1人で住むケースが増えている。上下に動かすシャッターは築年が経過し、動きも悪くなり、何より高齢者にとっては開閉時に肉体的な負担が大きい。ご子息から横引きシャッターにリフォームしてほしいとの依頼が増えている」(市川氏)
シャッター間の継ぎ目が0・1mm~0・2mmと高精密で、力が伝わりやすいので片手でも簡単に開閉できる。高齢者にも簡単に扱えるのが魅力だ。また、同社が開発した横引きシャッターはすべて後付け施工が可能。加えてシャッターの表面に天然木シートを貼付けることで木造住宅の雰囲気をそのまま残すことができる。
市川氏は「1日に何度も開閉するのなら横引きシャッターのほうが楽だが、1カ月に1回程度しか稼働させないのならコスト面で有利な上下シャッターをお勧めする」と述べ、利用状況を鑑みて柔軟な提案を行っている。また、上下のレール位置が1cmでも異なればスムーズに稼働しないのが横引きシャッターの弱点でもあるが、現在は優良な施工会社と協力体制を構築しており、施工後のトラブルは皆無だという。こうした顧客本意の姿勢も横引きシャッターが選ばれる理由の1つになっているのではないか。