不動産トピックス

【今週号の最終面特集】進化する!シェアリングエコノミー最前線

2023.11.27 11:41

スキル要らずや配信者向けサービスまでが多様化 「人」のシェアリングは業務効率化に貢献
 シェアリングの概念はここ数年で大きく浸透し、人々の生活を豊かにする手段として、欠かせないサービスとも考えられている。人手不足対策から収益化まで、不動産事業者にとってもその活用メリットは大きい。

2兆円以上の市場規模 需要も多様化する期待の業界
 シェアリングエコノミー協会が情報通信総合研究所と共同で実施した日本のシェアリングサービスの市場調査によると、2022年度シェアリングエコノミーの市場規模がコロナ禍で過去最大規模となる「2兆6158億円」、2032年度には最大「15兆1165億円」に拡大することが分かった。
 特にモビリティのシェアリングに関しては、人々の関心意欲の高まりを感じている。カーシェアやバイクシェア、そしてLuup(東京都千代田区)が提供する電動キックボードなども、今や街中で頻繁に見かけるようになった。電動キックボードにおいては、今年7月の法改正施行によりルールが変更。ヘルメットの着用が努力義務になるなど、事故のリスクに関する懸念の声が上がる一方、規制の緩和が普及を後押ししている感も強い。
 近年はあらゆるニーズを拾い、多様化の傾向もみられる。不動産業界一つとっても、レンタルスペースやコワーキングスペースといった認知度の高いサービスから、「軒先貸し」などと呼ばれる私有地貸しまでその種類は幅広い。

地域特化型バーチャルオフィス 新規需要をくみ取り高稼働
 「住所貸し」のサービスも、ここ数年で認知度が高まっている業界の一つだ。
 Lucci(東京都目黒区)は、東京都目黒区でバーチャルオフィス「NAWABARI」の運営を行っている。
 同社は2011年6月より飲食事業を主に展開。2014年にバーチャルオフィス市場に参入した。バーチャルオフィスの先駆者として業界をけん引し、近年はライブ配信サービスの「17LIVE」や、会計クラウドソフトの「弥生」とも提携。高質なサービスの提供につなげている。
 バーチャルオフィスは都内や観光地といった知名度の高い場所で登記をしたい事業者、特定商取引法に基づく住所欄に自宅住所を記載したくない個人事業主からの引き合いが主。現地で働いていなくても、電話の転送や郵便物の受け取り代行をしてもらえることがサービスの醍醐味と言える。ただ荷物の受け取り手数料などが加算され、利用前の想定より高額な月額料金が発生するケースも少なくない。安い利用料金を謳っているバーチャルオフィスの場合、「自己発送の商品の返品に対応しない」といった制限を設けることもある。
 「NAWABARI」ではビジネスプランを月額1650円、登記なしの個人事業主プランを1100円で提供。相場より安いだけでなく、届いた郵便物にGPS機器が混入されていないか専用の機器でチェックする等サービスも手厚い。荷物の転送料は利用者のデポジット金から差し引かれるため、「想定よりも高額になった」という心配もない。
 代表取締役社長の出水洋樹氏は「当社はサービスの開始当初から、お貸しする住所を1拠点に絞ることで拠点運営の経費を抑えております。その結果、業界最安値水準の料金にてサービス提供を実現しております。加えて、お預かりしている荷物は会員毎のマイページで写真とともに確認可能です。ご本人様が荷物の転送、取り置き・廃棄を選択できるため余計な転送を省きコストカットにつながっています」と話す。
 バーチャルオフィス業界最古参のLucciは、9年という長い運営歴を強みに利用者数を伸ばしている。先述の、郵便物の中身をGPS探知機で検査するサービスを利用することで、ファンレターやプレゼントへの不審物の有無も確認可能。万全なストーカー対策により、近年は配信者やインフルエンサーの利用も増加傾向にある。今後はさらに会員向けサービスの拡充を図っていく方針。出水氏は「バーチャルオフィスを借りても稼げなければ意味が無いと考えています。今後は、会員向けにより一層提携サービスの拡充を強化し、売れる商材や代理店権利のご案内、補助金情報配信など、会員の事業活動が有利になるサービスを目指していきたい」とした。

「そこにいること」がスキル スキマ時間活用で人件費削減に
 SpotWORK(東京都中央区)は、仕事のシェアリングサービス「SpotWORK」を提供している。 このサービスは「短時間」かつ「誰でもできる」仕事と、「ちょっとした隙間時間を活用したい」人をマッチングするプラットフォーム。特別な資格もスキルもいらず、重要なのは「そこにいること」。一口で言うと「人」のシェアリングサービスである。
 同社は2020年10月、モバイルバッテリーの偏在解消を目的に設立。以降は不動産の撮影、ビルや駐車場の清掃、展示物等の調査といった多様なニーズに対応し、事業者の人件コスト削減、人手不足の解消に貢献している。
 COOの大音龍樹氏は、「例えば、通勤経路内のコンビニにモバイルバッテリーを戻す。通勤途中に『ふらっと立ち寄る』だけで、その日のお昼にデザートが買えるぐらいの報酬が貰える。そういったお小遣い稼ぎの感覚で仕事ができるのが、SpotWORKの特徴です」と話す。
 例えば不動産仲介会社からの依頼。物件サイトに掲載する建物の外観や周辺施設の写真は、仲介会社の社員自ら撮影することが大半だ。業界的な人手不足も相まって、これらは大きな業務負担となっている。
 SpotWORKでは1案件につき500円~、交通費の別途支給も必要ない。ワーカーは仕事の完了報告とともに、撮影した写真をSpotWORKに提出。納品された写真はAIで自動審査し、一定の基準を満たしていない場合は再撮影。依頼者には、安定した質の商品を提供できる。さらに、人手不足が深刻化している不動産管理事業にも訴求。管理会社からの依頼で、駐車場やビルの清掃案件が増えている。駐車場の場合、1案件につき800円~。派遣社員を雇うのに数千円の賃金が発生することを考えると、大幅なコスト削減となる。
 「マニュアルはお客様にご用意いただきますが、伝わりやすいマニュアルに仕上げるためのサポートをしています。何をすればいいのかが明確なので未経験の方でも安心して仕事に取り組めます。ビル清掃の案件の場合は、執務スペースなどはファシリティ業者、共用通路などをSpotWORKに依頼する、といったハイブリッドな活用がなされています。管理事業者は余剰で人員を配置できる余裕も生まれるため、より高質なファシリティ業務を提供することにつながります」(大音氏)
 依頼主にはイニシャルやランニング費用は発生しない。案件がマッチングした時のみ、費用が発生する。この費用にはSpotWORKのシステム利用料25%が含まれている。現在、SpotWORKの登録者は約2・5万人。事業者の登録数は15社と、順調に規模を拡大している。
 「ワーカーの方は30代までが7割を占めています。学生から社会人、主婦、個人事業主まで属性は様々です。ワーカー・依頼者ともに満足度は高い。案件数はワーカーの需要に追い付いていません。『そこにいる』ことがスキルになる、という認識が広がっていけば幸いです」(大音氏)




週刊不動産経営編集部  YouTube