不動産トピックス

【今週号の最終面特集】街にシナジーを創出 地域貢献につながる不動産活用

2023.12.25 10:13

学生寮やワークスペースの開設で地域課題に訴求
物件の価値向上 コミュニティ活性の利点も
 建物の老朽化が進み、次の一手を考える際。街に足りない機能を加えることで、物件はもちろん、エリアの価値向上にも期待できるだろう。その地域ならではの目線から、新しい不動産展開を始めた事例に注目したい。

学生寮を自社開発 保有不動産で地域貢献
 東京ガス不動産(東京都港区)は11月20日、学生寮「カレッジコート国分寺」を竣工した。延床面積2957・12㎡、敷地面積546・76㎡、地上14階建ての全121戸。JR中央線・西武国分寺線「国分寺」駅の南口から徒歩4分に立地する。
 国分寺は大型スーパーや商業施設、飲食店などがそろう住宅地。加えて「東京経済大学」や「東京学芸大学」、「一橋大学」といった名門大学が1~3km圏内に立地する、文教地区としても有名だ。
 東京ガス不動産ではこれまでに、都市型賃貸住宅「ラティエラ」を28棟約1600戸提供してきた。今回、学生向けのアセットを採用したのは、国分寺のエリア特性を踏まえたことによる。
 東京ガス不動産 開発本部 開発推進部の大野木徹也氏は「築28年の『東京ガス国分寺ビル』を、既存建物利用の終了及び土地の有効利用を目的に取り壊すことになりました。国分寺には学生が集まる一方で、学生向け賃貸住宅が足りていないという地域的な課題があります。この課題解決の一助になればと、保有不動産を活用。当社初となる学生寮の開発に至りました」と話す。

実績多数の運営会社とタッグ 寮父・寮母駐在が安心感に
 「カレッジコート」は、毎日コムネット(東京都千代田区)が運営を手掛ける食事付き学生寮。今回は東京ガス不動産が開発主体となり、運営・管理を担う毎日コムネットに1棟貸しを行う事業形態とした。
 「カレッジコート国分寺」は全室家具・家電付き、トイレ・バス別で1室18㎡~21・69㎡。賃料は8万6800円、食費は2万9800円。加えて年間で22万8000円の管理費がかかる。近隣マンションの相場と比べると、安いとは言えない。それでも全国で展開している「カレッジコート」シリーズの46物件はほぼすべて、受験が終わる3月には満室を実現。その大きな要因は「安心感」に特化したサービスに求められる。
 毎日コムネットの不動産ソリューション事業部 開発課 シニアコンサルタントの三井隆志氏は「『カレッジコート』には全拠点、寮父・寮母が住み込み。食事はすべて寮内で作り、寮父・寮母は食事の受け渡しの際に、学生さんと会話をするようにしています。学生さんを孤立させない環境整備こそが、親御さんたちの安心感にもつながっています」と話す。
 食事の献立はHP上で公開し、保護者が確認することができる。さらにオートロックや24時間の防犯カメラと機械警備も実施。万全なセキュリティ体制が後押しし、入居者の半数以上は女子学生という。

化粧品を再利用して建材に ESG型不動産開発の新展開
 今回「カレッジコート国分寺」では、「新宿パークタワー」に入居する化粧品メーカー・日本ロレアルと協業。廃棄予定のパウダーファンデーション822個をタイル建材としてアップサイクルし、食堂の壁面に使用している。
 化粧品の再利用などで知られるモーンガータ(東京都練馬区)の2021年の調査によれば、化粧品の中身の廃棄量は国内メーカー上位5社だけで年間2万トン。化粧品の再利用は急務とされてきた。こういった社会課題に訴求したのも、「ESG型不動産の開発」を掲げる東京ガス不動産ならではだ。
 「アップサイクルしたタイルは、来年1月に竣工予定の2棟目の学生寮『ラティエラアカデミコ三鷹』や、次年度以降竣工予定の『ラティエラ』でも使用する予定です。豊洲でも大型再開発を控えていますが、街の課題解決や社会貢献につながる不動産開発を、今後も進めてまいりたいと思います」(大野木氏)。
 現在、予約を含めて6割程度が成約している状況。来年3月の満室を目指してリーシングを進めている。少子化が進む一方で、女性活躍の機会が増えている昨今。学生寮の需要はまだまだ伸びそうだ。

和歌山の保有ビルにコミュニティ拠点を整備
 パーク建物(和歌山県和歌山市)は、和歌山市内を中心に不動産賃貸業を営んでいる。今年6月、南海「和歌山市」駅から徒歩10分に保有するオフィスビル「パーク県信ビル」の低層階に、コワーキングスペース・シェアオフィス「Park Biz WAKAYAMA」を開設した。
 「パーク県信ビル」は、1964年竣工の地上7階建てビル。銀行本店ビルとして活用されていた。面する道路が緊急輸送道路に指定されたことが契機となり、旧耐震のビルの改修工事を検討。新規事業を模索した結果、和歌山市の募集しているサテライトオフィス整備事業の補助金を活用したワークスペースの開設に至った。
 代表取締役社長の木綿紀文氏は「地方では、都心ほどコワーキングスペースへの認識が広がっていません。『什器やコピー機などが入っていて、それらが適宜使えるオフィス』と単純に捉えている方がほとんどではないでしょうか。今のオフィスには、コミュニティの機能が必要だと考えています。これまでに多くの実績を持つATOMica様と協業し、人と人とがつながる場の整備をしたいと始めました」と話す。
 設計は隈研吾建築都市設計事務所が担当。銀行本店時代からあるステンドグラスは「Park Biz WAKAYAMA」の窓ガラスに採用。幻想的な空間に仕上げている。
 コンセプトは「Like a Park」。公園のように自由な使い方ができる空間を目指している。1階のコワーキングエリアには34席の執務スペースとラウンジ、フォンブースのほか、パーク建物が直営するカフェテリアを開設。一日利用で1650円、月額8800円など複数のプランを用意した。2階のシェアオフィスエリアには6・5~20・7㎡の個室を17室整備。うち2室の会議室は、1時間2200円で使用することができる。
 運営を行うATOMica(宮崎県宮崎市)のプロジェクトマネージャー安里喬泰郎氏は「コンセプトにある通り、小商いをする人や主婦(夫)まで、多くの方々が出入りする場を目指しています。『県内にお勤めの方』、『出張先のワーカー』のほか、占い師の方といった個人事業主様の需要も徐々に見られ始めています」と話す。
 ATOMicaでは各拠点にコミュニティマネージャーが常駐。現地で採用されたコミュマネは、拠点の利用者同士がつながる仕掛けを作っている。例えば「Park Biz WAKAYAMA」では、今月21日に「MEET@!~1:1でじっくり交流の会~」を開催。イベントを通じて趣味仲間を求めたり、同じ価値観の人と繋がれることが最大の魅力だ。
 新たな価値を提供する「Park Biz WAKAYAMA」。近隣のワーカーにも良い変化が見られているという。
 「2007年に和歌山―大阪間の高速道路が開通し、大阪方面からのアクセスが良くなりました。その結果、和歌山にオフィスを構える事業者が減っているのが実情です。コワーキングスペースに有人のカフェを併設したことで、和歌山を仕事場として使っていただく機会や、イベントを通じたコミュニティ形成につながっています。保有する不動産を活用しながら、さらに地域の活性に寄与していきたいと考えます」(木綿氏)。

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