不動産トピックス
【今週号の最終面特集】古き良き街に新風 世代・文化を超えたまちづくり
2024.01.15 10:28
女性オーナー・地元企業目線で街を活性
マルシェもできる地域の交流拠点に
不動産価値向上と社会貢献に繋がる事例
昔の趣を残しながら、地域で愛される施設に作り上げること。鍵となるのは「これまでになかった視点」だ。事業承継し、建替えたビルで新しいことを始めるオーナー、既存ビルを地域・社会貢献に活用する事業者を追う。
祖父の想いを継承し多世代が交流する明るいビルに
JR「阿佐ヶ谷」駅、東京メトロ丸の内線「南阿佐ヶ谷」駅から伸びるアーケード「阿佐ヶ谷パールセンター商店街」。700m余り続く通りのちょうど真ん中あたりに、昨年12月、「エンライトビル」が竣工した。
「エンライトビル」の歴史は昭和20年代にさかのぼる。堀内商事の代表・堀内幾三郎氏は現在エンライトビルが建っている土地、ならびに隣と奥の土地を含めた一帯で戦後の人々が飢えに苦しんでいる時代に「阿佐ヶ谷に光を」と、「阿佐ヶ谷劇場」という映画館を経営していた。東京の古典や風水に精通していた堀内氏は「この場所が風水的にも良い」と感じたことから、この地で事業を始めたとも伝えられている。
映画館はその後、レストランや花屋などに姿を変えてきた。が、いずれも人でにぎわい愛されるお店であったという。現オーナーの水野律子氏は臨床心理士として働きながら2020年に母から土地を相続。老朽化が進み、漏電の心配もあったことから建替えを決意した。
「不動産オーナーとして、社会貢献できる方法は何か」。模索した水野氏が出会ったのが、タムタムデザイン(北九州市小倉区)代表取締役の田村晟一朗氏だった。水野氏が直方市主催の「えんぼるスクール」に参加した縁から、田村氏が「エンライトビル」の設計・監理を担当。敷地の中に道があった「エンライトビル」の土地を生かし、商店街に面するA棟から奥のB棟につながる開口を整備。両棟をつなぐ中庭も設けて、一体的に活用できる空間を作り出した。
水野氏は「『エンライト』には、『阿佐ヶ谷の太陽となって日本を明るくしたい』という意味を込めています。起業を目指す方々が一日からテント起業ができるように、中庭も整備して、お試しでビジネスをはじめやすい環境を整えました」と話す。
敷地一帯を活用し、昨年の12月24日・25日にはクリスマスマルシェを開催。地元の人にビルのことを知ってもらうための、参加型イベントだ。出店希望者には事前に、田村氏の小商いをテーマとしたマルシェセミナーも開催。参加者は事業の未来予想図をプレゼンし、経営ビジョンを見据える機会となった。
水野氏は「イベントに出店される経緯はそれぞれ違うが、田村先生の『自分の想いを明確にし、発表して、自分の想いに共感してもらうことの大切さを知ってもらう。それが小商いの原点になる』事を学べたのではないか」と語った。
クリスマスマルシェの出店品目は海洋プラスチックのアクセサリー、花セラピー、占いコーナー、パキスタンの捨てられている皮を利用して革小物・革バッグを作り女子教育を支援するゼロプロジェクトなど。当日は、若者から高齢者まで幅広い層が楽しんだ。B棟に入居予定の事業者も、ネイリストとして出店。商店街を盛り上げた。
今後はA棟のリーシングを進めつつ、B棟の2階で水野氏がサロンを経営する予定。レンタルスペース機能に加え、法律相談会や税理士相談会、占いイベントなども構想しているという。
「法律問題について気軽に相談できる場所を地元に提供したいと思います。『エンライトビル』のマルシェ企画で、若者の編集・発信能力の高さに感動しました。ビルオーナーとして、Z世代の意見を積極的に取り入れることが大切だと考えています。若者のサポートを得ながら、女性やシニア世代も入りやすいビルを目指します」(水野氏)。
女性目線での分析は非常に大切だ。先日、能登半島地震の避難所に、業界団体が生理用ナプキンを届けた。賞賛の意見が多い一方、一部では「食料を優先すべきでは」との声も上がっている。女性の生理的な話をタブー視する風潮、生理的現象への理解度はまだまだ課題だと感じる。
「エンライトビル」では今後、「オープンなスペース」の長所を生かしつつも、「常時オープンになりすぎない防犯対策」を講じることで、女性が安心して利用できる工夫をしたいという。いつも地元の人々で活気づく阿佐ヶ谷パール商店街。女性オーナーのセンスが光る「エンライトビル」に引き続き注目したい。
南大塚にシェアオフィス 水耕栽培ができるラボも
東邦建材工業(東京都豊島区)が運営する「RYOZAN PARK」は、今年3月に「南大塚Urban GREEN」内に、シェアオフィス「RYOZAN PARK GREEN」を開業する。
「RYOZAN PARK」は、『水滸伝』の梁山泊に由来し、優れたもの達が集まる「働く」「学ぶ」「暮らす」「育てる」の新しい形を提案する、都内唯一のコミュニティ。豊島区巣鴨・大塚エリアでシェアオフィス、シェアハウス、レジデンス、プリスクール(保育園)、イベントスペースを運営している。
巣鴨エリアではシェアオフィス「RYOZAN PARK GRAND」などを備える「グランド東邦ビル」、「RYOZAN PARK LOUNGE」を備える「ヴィラ東邦ホワイトテラス」、「RYOZAN PARK ANNEX」を備える「TOHO ANNEXビル」を展開。大塚エリアの「南大塚T&Tビル」にはシェアオフィス「RYOZAN PARK OTSUKA」を整備しており、3拠点が東京都認定インキュベーション施設のシェアオフィスとなっている。
「南大塚Urban GREEN」は1階にテナント、2~3階にシェアオフィス(RYOZAN PARK GREEN)、4~10階にSOHO型レジデンスで構成される複合施設。建築デザインは、東急不動産(東京都渋谷区)が開発した複合施設「ハラカド」も手掛けている建築家の平田晃久氏が担当。目の前には公園があり、この公園との融合を意識したデザインが特徴的だ。
SOHO型レジデンスは2月下旬から、シェアオフィスは3月以降に入居可能となっており、現在ともに入居者を募集している。働く場としての公園や屋上菜園の活用、地方の生産者の元を訪れるなど、都市部にいながら自然と触れ合える機会・コミュニティ形成を図ることができる。
シェアオフィスは個室が3部屋、固定席が3席のほか、実験室のようなラボを整備。水耕栽培等ができる設備を取り入れたほか、打ち合わせができるスペースも用意した。
今後は利用者がコンポストをするなどの循環プログラムを積極的に推進する予定で、インキュベーションマネージャーによる起業相談やジョブマッチング、情報交換の場も用意するかまえだ。