不動産トピックス

【今週号の最終面特集】ビルオーナーの手掛ける新築ビル特集

2024.03.18 10:13

テナント専用のリフレッシュゾーン 就業者増減のストレッチ機能に
「ZEB Ready」認証取得 再生可能エネルギー100%で電気賄う 環境配慮に取り組む中規模ビル
 新築オフィスビルのトレンドといえば、環境配慮と多様なワークスタイルへの対応。ZEBやCASBEEといった認証制度・評価システムを取得するビルが増加。テナント専用のサードプレイスを設ける事例も増えている。ビルオーナーが手掛けた最新事例を元に紹介する。

昨年11月26日竣工「MAビル三田」
 三田興産(東京都港区)の「MAビル三田」が昨年11月26日に竣工した。保有物件の中で最も規模が大きく、旗艦ビルとして位置付けている。
 同社は三田エリア及び桜田通り・三田通り界隈の地域貢献や活性化を目的に設立した不動産賃貸業者。これまでも同地の地域貢献等に携わっており、ビル経営や今回の建替えにもその想いが込められている。「MAビル三田」は同地で取得した既存ビルの建替え工事で誕生。都営地下鉄「三田」駅から徒歩4分、JR「田町」駅や都営地下鉄「赤羽橋」駅からも徒歩圏内に位置する。多方面からのアクセス性が強み。規模は地上10階、延床面積2518・72㎡(761・91坪)の中規模オフィスビル。基準階貸室面積は223・70㎡(67・66坪)と、中小企業の新築オフィス需要に応えた。
 特徴は日比谷花壇と提携して構築した屋上庭園やエントランスの壁面緑化。特に屋上庭園はテナント専用のサードプレイスやリフレッシュゾーンとして機能。東京タワーをはじめ、天気の良い日は富士山まで見ることができる。眺望景観と緑豊かな環境で、気分転換やリラックス、社員同士のコミュニケーションに役立てることが可能だ。エントランスの壁面にも一面にわたり植栽を配置。ウェルネスを感じさせるエントランスに仕上がり、屋上庭園と共に統一感も表現できた。

室温上昇緩和と省エネ 都市緑化にも寄与
 屋上庭園を設置することで室温上昇の緩和と省エネ、都市緑化やヒートアイランド現象の緩和にも寄与している。特に環境配慮への取り組みは設計段階で構想していた。高断熱性能や高効率設備機器等の採用により、環境省が推進するZEB4段階のうち「ZEB Ready」認証を取得。また消費電力は再生可能エネルギー100%電気で賄っている。中小規模のオフィスビルでは、このように環境配慮やカーボンニュートラル等へ取り組めている事例は少ない。環境関連の事業を展開する中小企業やベンチャー・スタートアップ等の稀少な受け皿として最適と思われる。
 代表取締役社長の出光正道氏は「環境配慮だけでなく誰でも利用できるように、エレベーター2基は車椅子対応となっています。うち1基は20人乗りと大きく、車椅子と共にストレッチャー対応も可能です。貸室は診療所や来客型のサービス店舗としても利用可能な標準フロア、それとヘビーデューティーゾーンを設けたスケルトンフロアを用意しました。8~10階はオフィス専用ですが、それ以外はオフィス及び店舗等の多様なニーズに応えることができます」と語った。
 同地では中小規模の新築ビルが少ないことから、1フロア1テナントでの入居・使用を好む企業を中心に空きは埋まり、早期に満室稼働となることが予想される。

自由に働く場を変える 柔軟に対応するオフィス
 2022年9月にNIPPO(東京都中央区)は「NIPPO関西支店ビル」を建設した。同ビルは大阪市中央区船越町2丁目に位置する地上13階建て。オフィスと賃貸住宅の複合ビル。延床面積は4956㎡で、地上2~4階が自社オフィス、5~13階は賃貸住宅、1階は駐車場スペースとなった。自社オフィスは支店内のコミュニケーションを円滑にするため、ワンフロアに集約。企画部 企画第一グループの村上渉氏は「ビル3階へ執務スペースを集約し、4階には会議室や応接室等の共用部分をまとめることでスペースの有効活用及び業務の効率化を実現しました。個人での作業・デスクワーク等に適した座席の用意、一方複数人やチームでの業務に適した大きめのデスクを用意して、自由にその時で働く場を変えて勤務することができます。ちなみに建物は『CASBEE Aランク』を取得しました」と語った。
 同社はチームでの業務に適した造った区画(スペース)を構築した。理由は自社社員からのヒアリングで、需要があったこと。他のオフィスも参考にした結果、必要と感じたからだ。個人とチームの業務で、オフィスの使い方や必要な機能・設備も変わってくる。特に会話しながらの作業やリフレッシュも兼ねた使い方ができる空間が今後は必須と思われる。自社社員の満足度向上や日によって出社人数の増減に対応できるストレッチ機能に注目して今回造った。

ZEB Ready取得 50%以上の消費量削減
 また中国電力のグループ会社・エネルギアL&Bパートナーズ(広島市中区)は22年8月、岡山市北区桑田町において賃貸オフィスビル「エネプレイス岡山」を開発した。
 「エネプレイス岡山」は地上9階、延床面積は約5650㎡。基準階貸室面積は約400㎡(120坪)で、無柱のオフィス空間を実現。建物正面に全面ガラスを採用し、自然光による明るく開放感のある貸室となった。同地に本社拠点や中国エリアの拠点を構えたい企業、また市内での新築オフィスへの移転需要にも応えることが可能。敷地内に計75台分の駐車スペースを提供して、営業拠点のニーズにも応えた高い利便性を有している。
 不動産事業本部の小田光祐氏は「最上階の9階には、入居テナントの就業者を対象としたリフレッシュルームや屋外テラスを設けました。『居心地のよい場所(サードプレイス)』をコンセプトに、単なる休憩場所にとどまらず、会話やコミュニケーションが活発にとれる空間設計としています。気分を変えて仕事する、同じビル内で働く人々の交流の場としても活用することが可能です。働く人にやさしい、快適空間を提供します」と語った。
 また同ビルは岡山市内の賃貸オフィスビルでは初の「ZEB Ready」認証を取得。基準一次エネルギーの消費量から、50%以上の消費量削減に適合した建築物のみに認められる。ちなみに「エネプレイス岡山」は52%削減を実現した。テナントは入居することで環境負荷低減にも協力することをアピールできる。
 昨今は中小規模の新築ビルであっても環境認証制度やテナント専用の共用ラウンジ(フリースペース)を造ることが増えた。既存ビルの場合、環境認証の取得は難しくともテナント専用の共用ラウンジを構築する様子が増えている。賃貸区画にできるスペースがあっても減らして造ることが多い。テナントの多様な働き方に柔軟に対応でき、利便性の高さを感じてもらうことで定着に繋げたい思いも見られた。また環境認証制度の取得や日々のランニングコスト(消費電力など)の見える化に取り組む事例も増えている。ビジネス面でも環境対策の重要度が高まっている。

<MA三田ビル 物件概要>
所在地:東京都港区芝5-14-15
延床面積:2518.72㎡
敷地面積:392.20㎡
規模:S造、地上10階
竣工:2023年11月
用途:事務所、店舗、診療所




週刊不動産経営編集部  YouTube