不動産トピックス
【今週号の最終面特集】新領域を開拓する不動産次の戦略
2024.04.01 10:34
地域特性を捉えた不動産の運用に注力 環境配慮・まちづくり等にも貢献
主力事業とのシナジーに期待 年間3~4棟の開発・取得
不動産賃貸は収益をもたらすビジネスモデルであると同時に、自社の事業方針を表現する舞台でもある。特に昨今はSDGsが企業運営におけるキーワードの1つとなっており、社会に対してどれだけ貢献できるかを伝える手段として、不動産は大いに活躍してくれる。
「TQ」ブランドを立ち上げ賃貸不動産事業を積極展開
東急建設(東京都渋谷区)は2024年2月より、渋谷区宇田川町でオフィス・店舗ビルの開発計画「(仮称)宇田川町42計画」に着手した。建物の竣工は2025年春を予定している。
東急建設では2021年に長期経営計画を策定し、主力となる国内での土木・建築・リニューアル事業をコア事業とし、また国際事業・不動産事業・新規事業を戦略事業と位置付けて収益の多角化を図っている。その一角を担う不動産事業では、2022年10月に賃貸不動産ブランド「TQ(ティーキュー)」を立ち上げ、ブランディングを進めてきた。従前より同社は賃貸収益の獲得を目的に不動産の保有を行っているが、「TQ」ブランドの立ち上げを機に主力業務である建設とのシナジーを生み出す不動産開発を積極的に推進し、長期保有だけでなく売却を見据えた事業戦略を展開しているという。同社不動産事業部 不動産グループの熊野宣弘氏は「物件規模は中小規模クラスを対象とし、年間で3~4棟の物件を開発・取得していきたいと考えております。現在『TQ』ブランドで運用している物件は10棟で、そのうちオフィスビルは9棟、レジデンスは1棟。オフィスが中心のアセット構成となっていますが、機会があれば商業施設や物流施設、ホテルなどにもバリエーションを増やしていきたいですね」と話す。
「TQ」ブランドは「TOP QUALITY すべての空間に、イノベーションを。」をコンセプトに、総合建設会社としての特性を生かし「快適性・機能性・デザイン性」、「安心と信頼」、「環境対応」を兼ね備えた空間を提供する。直近では「TQ」ブランドの開発案件第1弾として、京都市中心部の地下鉄「烏丸御池」駅近くで開発を進めてきた賃貸マンション「TQレジデンス烏丸御池」が竣工を迎えた。物件は無料インターネットやフロアセキュリティなど高品質な機能・サービスを充実させるとともに、高い断熱性能や省エネ性能によって環境認証「ZEH―M Oriented」「BELS認証5つ星」を取得している。
渋谷区宇田川町での開発は、前述の京都に続く第2弾の開発案件となる。建物は地上4階建てで、延床面積は1277・28㎡。敷地は「渋谷」駅より徒歩7分の井の頭通りに近く、周辺部を含め既存物件の建替えが進んでいるエリアだ。建物は一部の柱や梁等の部材に木材を使用し、ガラスファサードを配置することで、外部からも木材利用を視認することができる外観となる予定。木材利用のほか省エネ効果の高い設備機器を導入することで、環境認証「BELS」でZEB Ready(基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減)評価を取得。また、「DBJ Green Building認証」や「CASBEEウェルネスオフィス評価認証」といった、建物利用者の快適性や健康に関わる認証の取得も計画しているという。
建物1階は店舗フロアで、木造部分の貸室は約20坪、そのほかのRC部分の貸室は約60坪で最大3分割まで対応。2~4階はオフィスフロアとなっており、熊野氏は「『TQ』ブランドならびに当物件のコンセプトにご理解いただける方に入居してもらえれば」と話す。同社によれば、今後も既存物件のリノベーション・バリューアップも積極的に行っていくとのこと。総合建設会社の実績やノウハウを生かし、環境や安心安全に特化した不動産事業を展開する。
「高尾」駅前のビルをリノベ 個商いの店舗が集まる拠点に
京王電鉄(東京都多摩市)は、東京都八王子市の京王高尾線「高尾」駅前に立地する既存ビルをリノベーションし、「KO52 TAKAO(ケーオーゴーニー タカオ)」として4月11日にオープンする。
都内有数の観光スポットである高尾山は、登山客が年間で300万人にのぼり、2007年にはミシュランガイドで富士山とともに最高ランクの星3つを獲得。近年は外国人登山客の数も増加傾向にある。東京都心の新宿と八王子・高尾を結ぶ鉄道ネットワークを持つ京王グループでは、登山の玄関口となる「高尾山口」駅のリニューアル工事や温泉施設・宿泊施設の開業、登山客向け臨時列車の運行など、高尾山周辺の観光開発を積極的に手掛けてきた。一方で今回のプロジェクトは高尾エリアの地域住民の暮らしに焦点を当て、エリア全体の価値向上を目指し計画された。
建物は築22年、地上5階建ての商業ビルで、かつて居酒屋が入居していた2~5階でリノベーション工事が行われた。コンセプトは「個商いが地域と出会うビル」としており、個人事業主や新たに開業を目指す人にとっては「自分のお店を構えやすい場所」、地域住民にとっては「居心地が良く、常に発見のある場所」を提供し、交流を促進することで地域での豊かな暮らしを提供する狙いがある。
プロジェクトに携わった京王電鉄の開発事業本部・菊池祥子課長は「施設名の『KO52』は、京王高尾線『高尾』駅の駅番号が由来です。そのほかにも、個商いの『個(KO)』や、『どうぞご自由に(52=ごじゆうに)』といった意味も込められており、地域に開かれた施設となることを目指しています」と話す。
外階段から上がることのできる2階は、高尾でクラフトビールをつくる高尾ビール(東京都八王子市)の醸造所兼タップルームやコーヒースタンド、イベントスペースで構成される。高尾ビールの池田周平代表はデザイン会社などでの勤務の後に脱サラしてビールづくりを学びに渡米。2017年に同社を立ち上げた。2021年に「高尾山口」駅前で開業したリノベーションホテル「タカオネ」。京王電鉄が企画・プロデュースしたこのプロジェクトではオリジナルビールの制作で携わっており、これが縁で「KO52 TAKAO」では池田氏が出店者同士や地域住民らをつなぐ「カンリニンさん」という役割で、施設や地域におけるコミュニティづくりを先導する。
3階は10㎡前後から最大27・40㎡の小区画10室を設け、様々なジャンルで出店を希望する個商いの店舗を集積。また4階は2区画、5階は3区画の店舗スペースを設けた。登山者が多く訪れる高尾エリアならではの店舗としてアウトドアや登山、トレイルランニングなどのアイテムショップなども入居を予定している。4月のオープン後は建物全体を活用した地域住民なども参加するイベント企画や、2階のイベントスペースを活用した入居テナント主催のイベントなどを予定。京王電鉄ではこうしたコミュニティを京王沿線に拡大していきたいとしている。