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北海道清水町 Airbnbと連携した「まちまるごとホテル」 町長自らも民泊ホストに 人口9千人の町でリアルな移住体験

2024.07.08 11:26

 北海道清水町は、2022年6月に民泊プラットフォームのAirbnb(エアビー)と包括連携協定を締結。町内の空き家や空き店舗などを活用した民泊事業「まちまるごとホテル」を進めている。
 同町は帯広から電車・車で40分、札幌駅から電車・車で約140分。十勝平野西部、北海道のほぼ中心に位置する。国道38号と国道274号の2本が交差し、道東の玄関口とも呼ばれる交通利便性に優れた町だ。人口は約9000人、総面積は約4万225ha。牧場をはじめ広大な緑が四方に広がり、北海道の魅力を凝縮したような自然豊かなエリアである。
 現在、増加する空き家への対応が各自治体で急務の課題となっている。北海道では、札幌以外の多くの市で年々人口減少が進行。空き店舗が増え続け、シャッター街と化す商店街が後を絶たない。
 清水町ではこうした人口減少に伴う経済の縮小に歯止めをかけるべく、滞在時間の長い観光、そして移住につながる関係人口づくりへの取組みとして「まちまるごとホテル」をはじめるに至った。
 清水町にはもともと2~3軒の旅館はあったが、観光需要は北海道の中でも高くはなく、民泊物件は皆無。「まちまるごとホテル」の事業に伴い、令和4年度には11軒、令和5年度からは34軒、計45軒の民泊物件が稼働を開始している。
 大半は既存物件を活用したものだ。改修費用は大家負担となるものの、運営面の整備で一律10万円、リノベーション等によるハード面の整備で今年度より最大50万円の助成金を出している。ほかにもエアビーの仲介手数料を清水町が負担するなど、自治体によるサポートは手厚い。
 民家だけではなく、2023年には良品計画の空間設計事業と連携して清水町の旧教員住宅をリノベーションした。3LDKの部屋を2LDKに、和室を洋風リビングとするなど間取りを大きく変更。自治体の所有する遊休不動産活用の一手としても注目された。
 「まちまるごとホテル」では、宿泊者がよりリアルに移住体験できる仕組み作りに注力した。例えば食事。夕食は宿ではなく、ホストがおすすめする飲食店でホストと一緒にとる。また、清水町に来た記念としてホストがお土産を選んでくれるサービスも付帯。他地域の民泊にはない、ソフト面での差別化は宿泊者から好評だ。
 商工観光課課長の前田真氏は「宿泊者の方々からは、『町の暮らしを肌で感じられて移住のイメージがしやすい』と喜んでいただけています。町長や町の職員である私も民泊ホストのひとり。宿泊料金はホストの皆様にお任せしていますが、町長宅は人口数にあやかって一泊9000円、私は『清水町』の語呂から4320円としました。清水町は土地代が安いので、新築の民泊物件でも一泊1万2000円程度と、お得に泊まれることも人気の理由のひとつです」と話す。
 事業の開始から2年。宿泊客数と宿泊日数は令和4年度で56組516日、令和5年度が197組1115日。エアビーや民間事業者の発信力、宿泊を足掛かりに移住につなげる先進的な地域体験、町長自らがホストとなる特異性が反響を呼び、1年で稼働率を2倍にまで伸ばした。
 さらに、事業の主目的である移住希望者の増加も叶っている。「利用者のうち、年間で2~3名は清水町に移住されています。過去に私が泊めた方も昨年の5月に移住されました。清水町は小売店や飲食店が『十勝清水』駅から半径2km以内に集まっているため、車で移動をしなくても生活に必要なものがそろう町です。こうした町の利便性や、人との距離の近さを気に入っていただけたのだと感じます」(前田氏)  「まちまるごとホテル」では、事業1年目に民泊物件数の確保、2年目に関係人口の増加を目指してきた。そして3年目の現在、既存物件のリノベーションを順次進めるフェーズに突入している。
 軽井沢や石垣島など、観光資源の豊富な街への投資意欲が高い昨今。まだ全国的には知られていない地方の町にも、そのポテンシャルは眠っているはずだ。清水町でも今後、不動産投資家向けのアプローチなどを通し、清水町の魅力発信を進めていくとしている。




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