不動産トピックス

【8/12号・今週の最終面特集】オフィス仲介×敷金 最新動向

2024.08.12 14:01

「敷金で福岡グロースプロジェクト」始動 不動産管理の三好不動産賛同 テナント仲介業に活用
 行政と民間が協力してのビル建替えや再開発などが進む福岡市。新築オフィスビルが誕生するたびに、市内の空室率上昇が危惧される。現状のオフィス市況に着目し、地元の不動産事業者と敷金減額サービスを展開する企業が協力。テナント仲介業への参入と共に、既存ビルオーナーへPRを行う。

日商保提供の敷金無料 敷金フリーオフィス
 敷金減額サービスを展開する日商保(東京都港区)が中心となり、先月17日に賛同企業等と「敷金で福岡グロースプロジェクト」を発足。不動産管理業を行う三好不動産(福岡市中央区)が賛同し、海外企業の誘致も視野に入れて展開していく。
 同プロジェクトは日商保が提供する敷金無料の「敷金フリーオフィス」による企業の成長支援と、空室率改善によるオフィス流動化や物件価値向上への取り組み。「アジアのリーダー都市」を目指す福岡市への企業誘致も後押しし、福岡経済の更なる活性化を目指す。活動内容は主に3つ。1つ目は独自のデータ分析によるオフィス提案で、移転の早期化を図る。2つ目は「敷金フリーオフィス」と敷金返還サービスの提供を通じた、市内企業への成長支援。3つ目はデータを用いたリーシング支援によるマッチングの早期化、および空室率低下によるオフィスビルの物件価値向上。前述の2つは入居テナントに着目した支援内容で、3つ目は不動産オーナーが対象の支援内容。テナントとオーナーの双方にメリットのある、バックアップ体制を構築する。
 日商保の敷金フリーオフィスおよび敷金減額サービスは、オフィス入居時の敷金を「保証」と置き換えることで、半額~最大ゼロ円に削減できる。サービス利用料は削減した敷金額の年5%で、利用前に日商保独自の審査通過とビルオーナーの許諾が必要。一方ビルオーナーは入居テナントが賃料を滞納した際に、日商保から支払いを受けることができる。現金として敷金を預かることなく、損失発生に備えることができる。

敷金平均455万円 企業成長の足枷に
 テナントからのニーズも高い。オフィス入居時に預けることが商慣習となっている敷金だが、首都圏では賃貸契約時に賃料の半年~12カ月分が必要なケースもある。例えば、20名規模のオフィスであれば敷金はおよそ800万円と高額になる。敷金フリーオフィスを活用すれば預託するはずの敷金を優秀な人材の採用やマーケティング、新規事業への投資資金等に活用できる。移転後に早期での事業拡大や成長にも繋がる。
 22年5月27日~6月2日に掛けて行った「全国の企業経営者・経営層1000名に聴いた『コロナ禍でのオフィス利用と企業経営に関する調査』」では、敷金の平均額は455万円。中には2億円も支払っている企業もいた。経営者の64・6%が「敷金は高い」と感じており、45・6%は「そのお金があれば更に成長できていたと思う」と回答。資金調達を行った経営者ほど、敷金を事業成長に生かせる資金と捉えている。また経営者の39・3%は「そのお金があれば社員をもっと雇用していたと思う」と回答。これら結果から敷金が企業成長の足枷になっていることが浮き彫りとなった。
 日商保の代表取締役社長 豊岡順也氏は「『企業から提出された財務データ』と『過去の成約データ』から、入居企業と物件の相関性を分析し、最適なオフィス物件を提示することが可能です。企業と物件のマッチング早期化により、入居企業はオフィス移転を効率化・短期化することができます。更に初期費用が大幅に抑えられることで、成長資金として活用できる手元資金を増やすこともできます。当社の審査は、決算書による過去の財務データ(定量データ)と定性データを組み合わせ、その後3年間の成長性も評価できる独自の与信エンジンを使用しています。デフォルト率1%未満の高精度も特徴です」と語った。
 同プロジェクトの対象地域は福岡市。地方都市の人口が減少する中、福岡市は2015年と20年の人口増加率で政令市中トップ。また雇用保険適用事業所数の前年度比増加率で表す「開業率」においても、21年度では政令市など21大都市の中でトップの6・3%。4年連続で首位。現在福岡市天神では、再開発促進事業「天神ビッグバン」が進行中。ビジネス環境の整備・進化が続く一方、福岡ビジネス地区のオフィスビル空室率は5%弱。相次ぐ新築ビルや建替え計画によって飽和状態が続いている。日商保の試算では現在市全体で、推計約1000億円ものオフィス敷金の預託が把握された。敷金フリーオフィスを広めることで、移転企業の人材採用や成長・拡張等を支援し、マーケットの安定にも貢献できるとの認識だ。

福岡の天神ビッグバン オフィスは飽和状態
 同プロジェクトには早速、地元不動産会社の三好不動産が賛同した。2004年から飲食店舗などを中心にテナント仲介事業を行っていたが、7月17日からはオフィス仲介業務にも本格進出。日商保と業務提携し、オーナーとテナントの双方に敷金フリーオフィスを提案しながらリーシングを展開する。三好不動産の代表取締役社長 三好修氏は「当社は福岡市内の新築ビル建設による新たなオフィススペースの供給により、福岡へ進出する内外の企業の増加を見込んでいます。当社のネットワークや熊本県菊陽町に進出したTSMCがらみの住宅の売買仲介に付随した情報から、海外企業の誘致も視野に、『敷金減額サービス』の普及で福岡のオフィス市場の活性化を目指します」と述べた。
 第1弾案件は三好不動産が管理する「AUSPICE福岡天神」。アスコット(東京都渋谷区)が事業主の中規模テナントビルで、福岡市地下鉄空港線「天神」駅から徒歩5分、西鉄天神大牟田線「福岡(天神)」駅からは徒歩8分に立地する。規模は地上10階建てで、延床面積は2137・94㎡。1階が店舗148・80㎡で、2~10階はオフィス仕様の197・65㎡。三好不動産と日商保の協力で、同ビルの早期満室稼働を目指す。

仲介に任せきりは注意 保証会社の選択入念に
 日商保と他の家賃保証会社のサービスで大枠に違いはあれど、敷金を有効活用できる点で大きく違いはない。昨今は他のオフィス仲介会社でも家賃保証サービスの活用をビルオーナーや不動産オーナーへ勧めるケースが見られる。前述の課題もあり、敷金が移転の妨げになっていることを年々オーナーも認識し始めている。そのため大手オフィス仲介会社から、店舗等のテナント仲介業を営む街中の不動産会社に至るまで、家賃保証会社と提携し一緒にテナントリーシングへ取り組むケースが増えてきた。1社限定で提携するケースに対し、複数社と付き合いのある企業も多い。テナント仲介業を行う事業者と家賃保証会社の関係性は年々親密になっている。
 注意点としては、専任の仲介会社などが勧める家賃保証会社をオーナー自身が何も確認せずに受け入れてしまうこと。保証範囲や限度額、オーナーとの付き合い方など、当然各社で違いがある。滞納等のトラブル発生時に迅速かつ親身になって対応してくれれば良いが、中には事務的かつ保証の対象外になりそうな状態でも不動産オーナーへの報告が少ない場合もあるようだ。オーナーも家賃保証を活用する場合は、選定は入念に行う必要がある。またテナント側が入居時に「この家賃保証サービスを使用したい」と言ってきた場合でも同様だ。オーナーとの相性だけでなく、審査方法でも保証会社で若干違いがある。自社に適した保証会社と、保証サービスを選ぶことが大事だ。
 オフィス仲介会社の中には、首都圏の本社と都市部の支店で利用・活用する家賃保証会社が違う場合も見られた。保証会社の担当エリア外であることや提供できるサービス・その他付随のサービスにも違いがあることが要因と思われる。事業用家賃保証の浸透が年々進んでいる。


<物件概要>
●名称:AUSPICE福岡天神
●竣工:2024年7月31日
●延床面積:2137.94㎡
●敷地面積:397.57㎡
●規模:地上10階
●用途:1階店舗、2~10階オフィス
●所在地:福岡県福岡市中央区天神4-7-5




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