不動産トピックス
【10/14号・今週の最終面特集】人気の投資用開発物件紹介
2024.10.14 10:38
郊外で開発続く新築投資物件
販売価格は1棟6億円強~10億円前後 年3~4棟の開発計画
近年大規模再開発プロジェクトが続く都心5区以外で、投資用開発物件の供給が続いている。都心の好立地であると競合は多く、仕入れも困難。だが5区以外の近隣エリアでも立地環境を加味したビルを建設すれば、十分に勝算はあるようだ。直近の投資用開発物件の事例を追った。
東陽町3丁目でオフィスビルSYLA TOYOCHO
日本最大の会員制不動産クラウドファンディング・プラットフォーム「利回りくん」を運営するシーラテクノロジーズの子会社・シーラ(東京都渋谷区)は今年6月、東京都江東区東陽3丁目で初めてオフィスビルを企画・開発した。
手掛けた物件は「SYLA TOYOCHO(シーラ東陽町)」。東京メトロ東西線「木場」駅から徒歩4分の永代通り沿いに立地し、規模はS造の地上10階建て。延床面積は568・92㎡。敷地面積は86・73㎡。1~3階を重飲食も可能な飲食フロアとし、4~10階はオフィスフロアとした。専有面積は1階のみ50㎡で、2~10階は50・01㎡。駅近くと分かりやすいアクセス性から反響は良く、テナントの新築需要にも好まれている。成長中のベンチャー・スタートアップの移転先にも適している。
ビルはデザインコンセプトに基づき、素材同士が調和しながらもシャープにまとまり、街の景観に調和するよう設計した。フロアラインの水平ラインを基調に、フラットなALCとガラスのシンプルな素材で構成。街との一体感を強調した。また道路に面したエントランスにはゲートを設け、街との調和を図りながら利便性も高めた。ガラス面を大きく確保したことで、夜間の見栄えや視認性も良い。中小規模のテナントビルであってもハイグレードな内容に仕上がった。
代表取締役CEOの湯藤善行氏は「これまで当社は東京23区および横浜・川崎の人気エリア、かつ最寄り駅から徒歩7~8分の好立地を対象に30~60戸のワンルームマンションブランド『SYFORME(シーフォルム)シリーズ』を開発してきました。開発地は50坪程度。競合の少ない10~20坪ほどの土地を仕入れ、更に周辺の権利調整を行うことで、まとめて開発することを得意としています。この事業をコンパクトサイズのオフィスビルや店舗ビルの開発にも生かせると判断し、『SYLA TOYOCHO』を皮切りに投資用のビル開発事業を開始しました」と語った。
同ビル以外にも中目黒や神保町、御徒町、川崎、馬車道エリアで現在開発事業が進行中。ターゲットとなるエリアは乗降客数の多い駅周辺の徒歩5分圏内で、歩行者の多い場所を中心に展開していく計画だ。またビルの販売価格は1棟6億円強~10億円前後を想定。年3~4棟の開発を予定しており、自社の会員制プラットフォームに加盟する会員や既に付き合いのある投資家へまずは販売していく計画だ。
新築の商業テナントビルマーキュリー錦糸町ビルⅡ
総合不動産会社のマーキュリー(東京都港区)は、JR「錦糸町」駅南口から徒歩4分で商業テナントビル「マーキュリー錦糸町ビルⅡ」の新築工事を進めている。8月末に竣工を迎え、現在は一部フロアのリーシング中だ。
同ビルは錦糸町エリアでも飲食店や来客型のサービス店舗に人気な繁華街の墨田区江東橋2丁目に立地するテナントビル。規模は地上10階建て。延床面積は1153・47㎡。基準階貸室面積は32坪弱で、1階のみ25坪ほど。主なリーシング対象は飲食店やバー・クラブ、美容クリニックなど。現在リーシングを着々と進めている。
ビル最大の特徴は外観。建物正面に縦長の大きな液晶サイネージを設置し、夜間にはレインボーカラーに煌々と輝く。錦糸町エリアではひときわ人目を引き付けるシンボリックな商業ビルとなり、入居テナントの集客や認知度向上にも寄与する。同社はこれまでも商業店舗やオフィスなどの事業用の投資用開発物件を年数棟ペースで、開発・販売してきた。錦糸町エリアでは2020年に駅北口側で「マーキュリー錦糸町ビル」を建設しており、同地における実績では2棟目。エリアのテナントニーズを把握した上での外観や機能性となっている。
営業部の深水裕貴氏は「開発するエリアや地域に合わせて、1棟ごとにコンセプトや機能性を変化させています。事業用不動産であると、駅近くのアクセス性に優れた好立地や人通りの多い場所を基準に開発しています。『マーキュリー錦糸町ビルⅡ』以外では、中目黒や船橋で竣工しており、渋谷区宇田川町で開発予定です。中長期的な目線で保有する物件もあれば、満室後に売却するなど、市況やニーズに合わせて柔軟に対応します」と語った。ちなみに年内では後1棟の竣工が控えている。
主に不動産投資家や法人オーナーが取得
オフィスや店舗などの事業用不動産における投資用開発物件の需要は底堅く、一定数の需要がある。特にキャピタルゲインとインカムゲインを狙った、資産価値と収益性の高い商業ビルを開発・供給している不動産事業者は複数散見される。現在彼らによる都心の好立地を求めた開発地の取得競争が激しくなっており、30~50坪程度の狭小地であっても取得に積極的な企業は多い。そんな中でここ数年、競争を避けて主要オフィスエリアとは違った地域を狙う不動産開発業者が緩やかに増えてきた。中高層のオフィスビルが林立する地域ではなく、商業と居住ニーズが混じり合う地域で開発する事例である。
例えば、渋谷区の恵比寿や表参道、目黒区中目黒、港区の青山などを対象に、クリエイター・デザイナーをターゲットとした新築中小ビルのケースだ。一般的なオフィスビルの外観とは違い、路面店や2~3階までをショールームの需要も視野に入れて構築するケースが見られる。ビル正面の壁面が垂直のガラスカーテンウォールではなく、屋外階段を造ることで、来館者を自然と低層階の店舗フロアなどに誘導するケースが増えている。また屋外階段の踊り場等が社員同士のコミュニケーションやちょっとした休憩スペースにも使用できるため、昨今のオフィス需要にも狭小物件ながら上手く対応できる。
またデザイナーズマンションに似た外観や木目調の素材をあしらった物件も増えている。他とは違ったオフィス空間や共用部を演出することで、クリエイター・デザイナーからの反響も大きくなる。リーシング対象を絞ることに抵抗のある事業者もいるが、入念にデザインのトレンドを組み込んで構築すれば対象を絞っても上手くいく事例はある。ちなみに貸室内はスケルトンが多く、来客型のサービス店舗が入居を検討している場合に、ビル建設中の段階から一緒に造り込む企業もいる。テナントも決定した状態となり、売却までのプロセスにおいてもスムーズに進みやすいとのことだ。
現在これらの投資用開発物件(主に商業ビル)は規模や立地、スペックにもよるが1棟の販売価格は平均で約5~15億円程度とされる。内外装のデザイン性を統一し、「ブランド化」を行う物件もあれば、あえて統一せずに展開しているシリーズもある。物件の取得先は主に不動産投資家や事業用物件を対象に棟数を増やしている法人オーナー等だ。生命保険会社や信託銀行などもいるようだが、投資家層を中心に取得していることから彼らの好みを掴むことも重要だと思われる。
<物件概要>
名称:SYLA TOYOCHO
所在地:東京都江東区東陽3-5-4
延床面積:568.92㎡
敷地面積:86.73㎡
基準階面積:50.01㎡(2~10階)
構造規模:S造地上10階
竣工年:2024年6月
<物件概要>
名称:マーキュリー錦糸町ビルⅡ
所在地:東京都墨田区江東橋2-6-7
延床面積:1153.47㎡
敷地面積:181.58㎡
基準階面積:104.48㎡(2~10階)
構造規模:S造地上10階
竣工年:2024年8月