不動産トピックス

【10/28号・今週の最終面特集】ビル再生事業の最前線 現状の売買仲介マーケットもひも解く

2024.10.28 10:30

築38年のオフィスビル1棟リノベーション「gran+ASAKUSABASHI-Ⅲ」
 建築費や資材の高騰などで従来よりも気軽に修繕等を行うことが難しくなってきた。改修・リノベーションも同様。しかし事業用不動産(テナントビル)の取得に前向きなオーナーや事業者は多く、ビルの再生事業や再販業者の注目度は変わらずといった状況だ。近況の再生事業について追った。

1棟貸しの収益物件 4階はセットアップ
 築古ビルの再生事業を行うLOOPLACE(東京都千代田区)は、東京都台東区柳橋1丁目に位置する築38年のオフィスビルを1棟フルリノベーション。10月に「gran+ ASAKUSABASHI―Ⅲ(グラン・プラス浅草橋Ⅲ)」としてオープンを迎えた。
 「gran+」シリーズは、LOOPLACEが物件取得から商品企画・設計・施工までをトータルで手掛ける企画物件のシリーズ。築古ビルやリーシング等に課題を抱える中小ビルを対象に取得し、老朽化の不動産を高収益物件へ再生させる。ベンチャー企業やスタートアップ向けのクリエイティブオフィスとしてつくり、他物件と異なる特徴と付加価値も構築する。競争力のある商品(物件)として、同物件を含め16棟提供してきた。
 今回の「gran+ ASAKUSABASHI―Ⅲ」は都営地下鉄浅草線「浅草橋」駅から徒歩4分、JR総武線「浅草橋」駅からは徒歩5分の好立地に建つ。1986年竣工のRC造・地上5階建て。従前アクセサリー系の問屋が入居かつ保有していた物件を取得。延床面積は372・12㎡で、敷地面積は111・80㎡。2面道路の角地にあり、南側のメイン通りに面してフレキシブルスペースをつくった。入口は全開放タイプドアを採用し、空間を演出する広い間口を確保。ショールームやショップ、ラウンジへの利用だけでなく駐車場、荷捌きスペース等の多用途にも対応できる。西面側には駐車スペースを完備。ビル1棟を「広告」として捉え、大きくサインスペースも確保した。入居テナントは自由に企業ロゴや色彩等を表現できる。
 2~5階はオフィスフロア。2~3階と5階はスケルトン天井のシンプルな執務空間で、ゾーニングを自由に行うことができる。自社に必要な機能やレイアウトなどをカスタマイズでき、自由度の高い空間となった。一方4階はオフィス什器やレイアウトを事前に構築したセットアップラウンジ。来客対応やミーティング、社員用ラウンジとして利用でき、会議室、個室ブースのほか、オープンカウンターや大テーブル等を完備した。今回のコンセプトは「柳橋商場」。同ビルが立地する柳橋エリアは、古くから繊維業や工芸品を扱う問屋街として栄えた地域。現在もその文化を受け継ぎながら、クリエイティブ産業や企業のオフィスが集まる場所として発展を続けてきた。その様な歴史からビルおよび4階のレイアウトもイメージ。和のエッセンスを取り入れながら「内と外のあいまいな領域」を表現することで、社内のコミュニケーションなども上手く誘発させる。
 またコンセプトをもとに、浅草に本社事務所兼ショールームも構える合羽橋洋家具の協力で、4階のセットアップラウンジに同社の椅子を採用。室内のモダンなデザインと相まって、資産価値向上につながった。10月23~25日の内覧会では、1階のフレキシブルスペースにも椅子を展示。協力会社と共にビルのPRを実施した。
 不動産ソリューション事業部 中野結唯氏は「『gran+ ASAKUSABASHI―Ⅲ』はカスタマイズ可能な1棟貸しセットアップオフィスの収益物件です。当シリーズではフロア貸しと1棟貸しに分けられ、6対4でフロア貸しの物件が若干多いです。今回は1棟貸しの需要を見込んだ企画にしており、反響も上々です。今後はリーシングと並行して販売も進めていく予定です」と語った。

事業法人の購入相談理由「拠点の統廃合」が最多
 物件取得に前向きな不動産事業者やオーナー等の話しを聞くが、現状の売買仲介マーケットはどうだろうか。三菱地所リアルエステートサービス(東京都千代田区)が定期的に発表している不動産市況レポート(2024年度2Q市況アンケートレポート売買・賃貸を引用)の売買仲介マーケットマーケットでは「好調を維持、一般事業法人は拠点への投資増加」とのことだ。現在の不動産売買マーケットについて拡大からピークと考える回答がアンケート全体の71・3%となり、マーケットは好調と推測される。金利の上昇懸念や建築費の高騰など不透明な要素を挙げつつも「今後も不動産マーケットの状況は変わらない」との見解が一定数見られた。
 またデベロッパー・不動産会社の購入姿勢は、「ホテル」がインバウンド需要により強気で首位となった。次点の「レジデンス」は建築費・土地値等の高騰下でも仕入れの意欲が高く、マンションデベロッパーは「東京から離れ支店・地方エリアに注力」や「民泊事業も見据えて仕入れる」といった工夫、買い取り転売業者についても「不動産M&Aで物件を仕入れる」といった取り組みが見られた。購入姿勢についてホテルを見ると、強気・やや強気は全体の85%。2位のレジデンスは73%。3位が57%のデータセンターで、4位は56%の物流施設。次点にオフィスビルの58%、商業施設の53%と続く。
 一般事業法人の購入相談理由では、長らく首位だった「本業の収益補完」を抑え「拠点の統廃合」が最多となった。生産拠点増強のため工場・倉庫を探索・購入しているというコメントが多く、次点「本業の収益補完」に関しても拠点売却で得た資金を活用し実施など、拠点施策に関するコメントもみられた。拠点投資意識の高まりを感じた結果となった。ちなみに3番目は「既存建物の老朽化」、4番目は「余剰資金の活用」、5番目は「生産能力の拡大・向上」と続いた。
 不動産オーナーの中には、都心の好立地物件を探しているものの現状魅力的な物件が少ないことから多少郊外や主要オフィスエリアから離れた場所の物件を探すケースが増えた。中には当初の想定よりも高稼働・高収益を得られる物件もあるなど、都心に拘らない事例も増えている。


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