不動産トピックス
【1/20号・今週の最終面特集】イマドキ空室活用法
2025.01.20 10:54
時流に合わせた業態で通常賃貸以上の収益 女性の経済的自立支援にも寄与
過剰なサービスは極力排除 宿泊の本質に特化した新ホテル
賃貸ビル・マンションの既存物件は、建替え・再開発で新築の競合物件が次々と周囲に増えていくなかで、厳しい競争を勝ち抜かなければならない。だが従来通りの貸し方やリーシングでは、思うように成約に結びつけることが難しい場面も増えてきた。既存ビルを生かした空室の活用方法を探る。
ノーサービスホテル 3施設目が浅草で開業
ノーサービス(東京都台東区)は、一般的なホテルで提供されるサービスを極力排除しつつも居心地の良い空間を提供するホテル「NO SERVICE HOTEL」の運営を行っている。これまでに台東区寿と墨田区吾妻橋で展開しており、今月10日には台東区浅草で3施設目となる「NO SERVICE HOTEL asakusa」がオープンした。
インバウンド客の増加に伴って宿泊需要が伸長しているなか、ホテルでは利用客に特別な宿泊体験を提供する付加価値が重視されている。一方で同社は利用客によっては過剰に感じられるサービスも存在することに着目。マーケティングを担当しているCMOの木村覚氏は「『NO SERVICE HOTEL』は宿泊の本質に特化したホテルで、『このままここで暮らしたくなる空間』を意識しています」と話す。また海外から訪れるインバウンド客は中長期の滞在がメインで、スーツケースを広げられるほどの客室空間を求めればラグジュアリーホテルなどの高価格帯のホテルに選択肢が限られてしまう。結果として多くの旅行者は手狭なビジネスホテルなどに宿泊しているのが現状となっている。「NO SERVICE HOTEL」は旅行者のニーズに対応した十分な室内の広さを確保しながら、必要以上のサービスを提供しないというのが大きな特徴だ。
既存ビルの空室をリノベーションしたビジネスモデルというのも、「NO SERVICE HOTEL」の特色の1つ。内装の設計・デザインを担当しているファウンダーでありCOOの江本響氏は、これまで数多くの住宅リノベーションやホテル・店舗の企画・設計を手掛けてきた。
「築年数が経過したビルの中でも、特にエレベーター未設置の小規模ビルは、上階で空室が目立つ状況です。ホテルは飲食や物販の店舗とは違い、表通りに面していなくても収益の安定性が見込めます。手ごろな広さを求める中長期滞在の旅行者のニーズに合致するため、有効な空室活用の手段といえるのではないでしょうか」(江本氏)
既存ビルの空室生かし拠点数の拡大目指す
今回オープンした「NO SERVICE HOTEL asakusa」は、つくばエクスプレス「浅草」駅より徒歩1分、雷門や浅草寺といった観光スポットの徒歩圏内である台東区浅草1丁目に位置する。既存ビルの空室となっていた4階、5階をリノベーションして各階1部屋ずつが設けられ、4階は最大4名まで宿泊が可能。ファミリー層の宿泊需要にも対応する。前出の木村氏は「商業店舗は一定期間で入れ替わりがありますが、ホテルは長期にわたって営業し街に根付くビジネスモデルで、ビルオーナーにとっては長期にわたり収益を確保できるメリットがあります。エレベーター未設置は事務所や店舗テナントとすればマイナスポイントとなりますが、ホテル利用客にとってはそれほどネガティブに受け止められることはありません」と述べる。
「NO SERVICE HOTEL」は現在のところ浅草エリア周辺での出店展開を行っているが、今後は空室を活用してホテルビジネスへの参入を希望するビルオーナーへのフランチャイズ提案も行うとのこと。
今年度中に5棟の開業、2030年までに50棟の開業を目指している。
内装自由・原状回復なし サロン開業を支援
アントレサポート(東京都千代田区)が運営する月貸しのレンタルサロン「Hanamachi四ツ谷六番町」が好調だ。
所在するのは、JR「四ツ谷」駅から徒歩すぐの「鳳翔ビル」2階。利用料金の中に光熱費やWi-Fi通信費などが含まれており、初期費用を抑えてサロンを開業できるというのが大きな特徴である。また、アントレサポートが運営するレンタルオフィス「IFS四ツ谷六番町」とフロアを共有しており、フロア内のコワーキングスペースやミーティングルームが利用可能。専有個室は1坪程度で、内装は自由に変更でき、原状回復義務がないことから、利用者は思いのままに空間をつくることができる。
「Hanamachi四ツ谷六番町」は2021年8月に開業し、入居者の業態はネイルサロンやマッサージ、ドライヘッドスパで構成される。アントレサポートでは現在のところ、渋谷・虎ノ門・秋葉原と、都内4カ所でレンタルサロン「Hanamachi」を展開している。鈴木正秋社長は狙いについて次のように話す。
「『Hanamachi』は、サロン開業のハードルを下げることで気軽に開業できる場の提供を目的としています。開業希望者にとって店舗を借りることは資金面でハードルが高く、また特定の顧客に長時間にわたって施術を行うことから、自宅に施術スペースを設けるケースがみられます。しかし自宅での開業は予約サイトなどへ情報を公開することができず、思うように新規の顧客を開拓できないまま撤退する例もあるのが実情です。『Hanamachi』は、入居にあたっての初期費用と月々の利用料という透明性の高い料金体系は、サロン開業がしやすいだけでなく、状況に応じて他の道へのリスタートも見通しやすいという特徴もあります」
鈴木氏によれば、レンタルオフィスとフロアを共有していることで、レンタルオフィス利用者が顧客になることもメリットの1つとなっているという。「Hanamachi四ツ谷六番町」は現在空きがない状況となっているが、施設をオープンするきっかけとなったのはコロナ禍であった。
ビルを所有する三甲(東京都千代田区)取締役の松本雄一氏は「『鳳翔ビル』2階には、もともと飲食店が入居していました。しかし、2020年にコロナ禍のあおりを受けて飲食店が撤退。飲食業全体が厳しい環境で新たにテナントを誘致するのが困難になるなか、フロアを小割りして貸し出す方針に転換することとしました」と話す。施設は24時間出入りが可能で、入居者は顧客の施術スケジュールを組み立て、自分のライフスタイルに合わせて仕事することができるのも同施設の強みといえる。
「女性の経済的自立を支援する目的としても、レンタルサロンは有用です。現在は東京都心での展開が中心ですが、飲食・物販のように人が集まりやすい地域に限定されることなく、郊外でも十分ニーズがあるものと考えています。またレンタルオフィスは入居者が自社の成長に合わせて入れ替わりがあるのに対し、レンタルサロンは利用者の入居期間が比較的長く、収益性も高いという特徴があります。今後も積極的に『Hanamachi』のネットワークを拡大していきたいと考えておりますので、ビルの空室にお困りの際にはレンタルサロンとしての運用を検討してみてはいかがでしょうか」(鈴木氏)