不動産トピックス

【2/17号・今週の最終面特集】環境性能と働きやすさ これからのオフィスビルのあり方

2025.02.17 11:28

先進の環境性能と快適性を両立 国産木材をデスクなどで積極的に使用
 コロナ禍によってリモートワークが一般化した一方、その収束後は事業活動の基盤が再びオフィスに戻っている。そこで各企業が取り組んでいるのが快適で働きやすい空間づくり。社員が働きやすく、環境にも優しいオフィス事例を紹介する。

部署・年代の境界なくし社員の交流促す空間づくり
 自動車部品や電子部品等の製造大手・NOK(東京都港区)は、2020年9月、東京都港区芝大門に新本社ビルを竣工させた。建物は「大門」駅や「浜松町」駅など複数の駅が利用可能な立地で、規模は地上8階地下1階。延床面積は約6500㎡で、設計施工は竹中工務店(大阪市中央区)が手掛けた。現本社ビルの竣工以前から同じ地に本社オフィスを構えていたが、建替えの時点で旧本社屋は築50年程度が経過していた。建替えのきっかけは2011年3月の東日本大震災であったという。
 「震災の発生後に旧社屋の内壁に亀裂が確認されたため、建物の耐震診断を実施したところ、建物を継続して使用した場合に業務に支障が出る恐れがあると判明しました」
 業務本部総務部の河合毅部長はこう語る。その後社内で旧社屋の建替えに向けた分科会が発足。この分科会は当時経営企画室副室長であった鶴正雄現社長をリーダーとするメンバーで構成され、竹中工務店も検討に参加し新社屋建設に向けての方針が検討された。そこで生み出された新本社ビルのコンセプトは「Borderless」。部署や年代、国籍などのあらゆる境界をなくし、社員間のコミュニケーションを活性化させる空間づくりを目指すことになった。
 新社屋の外観は接道面と隣接する芝大神宮に面する3面をガラス張りとし、重厚感の中にも窓枠の縦のラインが空に向かって伸びる開放感を表現している。建物が寺社に隣接していることもあり、日本文化との調和も意識している点がデザインのポイントとなっている。1階の来訪者向けエントランスは重厚感のある内装デザインが特徴。4階から7階の4フロアは執務スペースとなっており、フロアごとに異なるテーマを設定して内装や室内のレイアウトに変化を持たせている。また開口部に設置したブラインドは一般的な降下式ではなく下部からせり上がる方式のクライマーブラインドを採用した。これについて河合氏は「従来の降下式は室内に入り込む日射が場所によってムラが生まれやすいことから、クライマーブラインドを採用することで効果的に光を採り込み、自然採光を活用しながら経済性と快適性を両立しました」と話す。このほか、空調は風の流れを感じないふく射式空調と外気取り込みと湿度調整をした床吹出し空調を併用し、室内の快適性の均一化を図っている。業務本部総務部の園宮卓弥氏によれば「ブラインドや空調、照明といった設備機器は自動制御でコントロールされており、年間を通じて快適な執務スペースを実現しています」とのことである。
 執務用のデスクの天板など、室内は国産木材をふんだんに使用してあたたかみのある空間を創出。積極的な木材活用が評価され、新社屋は2022年に港区の「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」で優秀賞を受賞している。またNOKでは固定の座席を持たないフリーアドレス制を採用しており、社員が日々使用する集合デスクはサイズの異なるデスクを不規則に配置し、あえて動線を複雑にすることで社員同士の偶発的なコミュニケーションの活性化を狙っている。園宮氏は「部署やセクションによって大まかにエリア分けされているものの、時には役員や部長クラスと隣り合って仕事をすることもあり、程良い緊張感を味わえるのがフリーアドレスの利点ですね」と話す。また各階にはラウンジスペースが設けられ、社員の憩いの場として利用されている。特に2階はセキュリティエリア外にラウンジスペースが設置されていることから、社員のほか、来客との簡単な打ち合わせや、大規模災害時には一時避難施設としても機能する。

国際的デザイン賞を受賞 日々進化するオフィス
 社員の働きやすさだけでなく環境配慮や周辺環境との調和などにも着目して設計された「NOK本社ビル」。昨年9月にはドイツの国際的なデザイン賞「ICONIC AWARDS 2024」の建築部門において最高賞を受賞した。新社屋の運用が開始され4年あまりが経過するが、この間にはコロナ禍が発生。これを受けて執務スペースにウェブ会議用のブースを設置するなど、オフィスを使用する社員の声などを元に日々進化し続けている。業務本部総務部の根本由紀子氏は「旧社屋は、いわゆる『昭和の事務所』といった雰囲気でしたが、新社屋になり社員一人ひとりが活躍するオフィスに生まれ変わりました」と話す。同じく業務本部総務部の池田浩治氏は「執務スペースは部署やセクションごとに大まかにエリア分けされていますが、一昨年にはフロアシャッフルを実施して気分を一新するとともに不要な書類の処分などに努めました。この時は段ボール100箱分の書類を廃棄して全社的に情報のデータ化を進めることができました」と話す。こうした働き方の多様化に対応したオフィスづくりは、現代のオフィス空間をつくる上でもはや標準的な考え方として定着したといえるだろう。


改正建築物省エネ法で省エネ計算需要増加か
認証取得の流れが加速
HorizonXX 環境・省エネルギー計算センター 代表取締役 尾熨斗啓介氏
 2050年カーボンニュートラルの実現に向け、建築物の省エネ化が加速している。本年4月に施行される改正建築物省エネ法では、本年4月以降に着工される建築物は用途・規模を問わずすべて省エネ基準への適合が義務付けられることになる。従来、省エネ基準への適合が義務付けられているのは非住宅で300㎡以上の中規模・大規模建築物に限られていた。今回の改正法の施行によってすべての新築建物や既存建物の増改築についても省エネ基準への適合が義務化されるため、注意が必要だ。
 省エネ基準への適合判定は基本的に新築を対象としている一方、既存の建築物は省エネ性能表示制度を活用することで、物件の市場における優位性を担保することに役立つ。省エネ性能表示制度としては、BELSが一般にも広く知られている。BELSは昨年4月から、省エネ基準に満たない物件も評価が可能となり、エネルギー消費性能と断熱性能を多段階で評価する。また省エネ性能だけでなく総合的な環境性能を見える化する評価制度としてCASBEEやDBJ Green Building認証が挙げられる。
 環境・省エネルギー計算センター(東京都豊島区)の尾熨斗啓介社長は「賃貸ビルでのグリーンビルディング認証取得は、ビルに入居するテナント、テナントの取引先、融資を行う金融機関、金融機関に投資する投資家など、それぞれの立場からのESGに対するニーズに対応するもので、今後必要不可欠になっていくものと予測します。既に大手不動産デベロッパーでは、BELSの上位概念にあるZEBに取り組んでいます」と述べている。




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