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空き物件となっていた元鉄工所を活用 運営者、入居者、地域がつながれる場に
2019.01.28 15:45
草加初となるコワーキング誕生
増加する空き物件の活用は不動産業界が抱えている課題。そのなかで草加市から築古の元鉄工所をコワーキングスペースとして活用する取り組みが現れた。
「草加」駅から徒歩7分の場所にある元鉄工所。この場所に「Coworking space TORINO`S(トリノス)」が開業したのが今年1月。運営するのは2018年8月に設立のネスティング(埼玉県草加市)。第2回の「リノベーションスクール@草加」からの事業化案件として飛び出て来た。
シェアオフィスを含めてコワーキングスペースは草加エリアで初。都内から40分ほどの場所にあるだけに都内への出勤者も多く、また都内から営業や打ち合わせで来るサラリーマン層も多い。「そのような人たちは空き時間をカフェスペースで作業をしたりしていました。ただ仕事をする場所ではないためにどうしても作業効率が悪いところがありました」と語るのは代表取締役の川畑喜史氏だ。
同氏の本業は不動産コンサルタント・行政書士。やはり打ち合わせの合間で作業することもあったが「集中しづらかった」とのこと。そこからコワーキングスペースという発想に至った。
映画館を構想も挫折に 原型を生かしたつくりに
「リノベーションスクール」時代にオーナーに対して提案したのは映画館だった。「地域の人が集まるようなコミュニティを創りたい」という思いからの案だった。しかしながら周辺が住宅街であることや、建物が法律的に映画館として使用することが難しいなどの困難があって断念。それでも活用の道はないかと探って、集まったのがネスティングの創業メンバーとなった川畑氏を含む4人だった。
つくりはかつての鉄工所時代のものを生かす形となった。「最近では倉庫として使用されていたことがほとんどだったが、状態は良好だった。これを生かせるようなものとするために、むしろ内装やデスク、チェアなどに配慮した」という。家具と空間プロデュースは地元の雑貨屋アウトレットチアーズに協力依頼。それぞれに値札がついていて、「気に入ったら買ってもらうこともできる」という。
コミュニケーションを重視 起業相談にも応じ需要獲得へ
利用できる人数はどれくらいだろうか。このスペースではイベントなども開催していく。実際、1月18日にはオープニングパーティを開催。「立席で約40人」が集まったという。コワーキングスペースとしては席数が19席。ゆとりを持った空間のため席数を増やしていくことは可能だが、「増やしていくことよりは会員同士やドロップインで来た人たちともつなげていけるようにしたい」と話す。その先に見据えているのは「コワーキング」の「コ」の部分だ。
「様々な業種やバックボーンの人が交流し合うことで、色々な化学変化が起きると思います。そこから新しい仕事も生まれてきて、それが『トリノス』のなかで回っていく。そのようなシステムをつくっていきたい」(川畑氏)
そのために地域の人たちが気軽に利用できるコミュニティであることも重要だ。会員にならず1日単位のドロップインもできれば、フルタイム会員や午前・午後・夜と利用時間を区切って使用できるプランも用意している。「スキマ時間を使って働きたいという人から、フリーランス、起業家まで応援していきたい」と話す。
会員になることの特権も多い。たとえば打ち合わせ室。「トリノス」にはロフト部分にソファスペースがあり、また奥には個室の会議スペースもある。双方ともに自由に利用可能だが、予約することもできる。また会員には個別に移動式のロッカーも貸し出す。仕事道具を置いておければ執務スペースとして十分に機能する。加えて、起業相談にも対応していく。「ネスティングのメンバーには私が宅建士と行政書士、FPの資格を保有し、ほかにも元システムエンジニアや一級建築士などが揃っています」とのこと。開業直後の現在は個人の利用がほとんどだが、「ゆくゆくは草加市に事務所を置く法人にも利用して頂きたい」と意気込む。
草加のコワーキングスペース「トリノス」。働き方改革が進むなかで、働き方や働く場所は変化してきている。使われてなかった元鉄工所を再生できるか否かに期待がかかる。