不動産トピックス

【3/10号・今週の最終面特集】不動産の有効活用 事例紹介

2025.03.10 10:31

建物の特性に合った提案で既存物件の付加価値向上
自社保有ビルでレンタルオフィスをオープン 管理運営面で直営の強み生かす
 既存建物の有効活用は、目的や方向性によって対応策が異なってくる。いずれの場合も改修工事を伴うことを前提として考えるべきであり、投資に見合った事業計画を練ることが重要となる。ケースによっては用途変更を伴う大がかりな工事が収益拡大につながる有効打となりうることもある。

一般的なレンタルオフィスに比べリーズナブルな価格帯実現
 オリンピア興業(東京都中央区)は先月1日、新宿区新宿1丁目に自社で保有する「新宿第七葉山ビル」1階において、レンタルオフィス「METSレンタルオフィス新宿御苑」をオープンした。
 オリンピア興業は1950年創業。東京・赤羽で映画劇場を運営し、その後は赤羽をはじめ新橋や新宿などの都内主要エリアで賃貸ビル・マンションの開発や取得を進め、2012年より新宿を皮切りに自社保有ビルにおいて「METSオフィス」ブランドでレンタルオフィス・バーチャルオフィス事業を開始した。サービスオフィス事業グループのグループリーダーを務める内藤竜太郎氏は「当初、新宿3丁目の保有ビルの空室対策の一環としてレンタルオフィス・バーチャルオフィスを開設しました。当時はまだ珍しい業態ということもあり、競合相手も少なく安定した営業成績を残してきました。この結果をもって当社が保有する他のビルでも順次オープンし、新宿御苑前の『新宿第七葉山ビル』では2016年に『METSオフィス』をオープンしました」と話す。
 同ビルでは3階フロアにレンタルオフィスを開業後、1階フロアをコワーキングスペースとして活用してきた。内藤氏によれば、「利用状況を鑑みて、1階のコワーキングスペースを個室主体のレンタルオフィスに改装して再オープンしました」とのことだ。従前からの3階フロアは最大12名程度まで収容できる複数名用の部屋を中心に構成されている一方で、今回オープンした1階は1名用の個室が中心。全14室中で11室が1名用となっており、ベンチャー・スタートアップなどからの引き合いも多く、既に1名用はすべて成約済みという。1階フロアはこのほか、スタッフ常駐の受付カウンターや打ち合わせコーナー、会議室を設けており、利用者のニーズに柔軟に対応する。
 「最大の特徴は自社保有ビルで運営するレンタルオフィスであるという点です。現在、レンタルオフィスの運営事業者は数多く存在しますが、その多くはテナントとして賃貸ビルに入居し、利用者に転貸するというビジネスモデルです。この場合、運営事業者の倒産などで利用者が予期せぬオフィス移転を余儀なくされるリスクがあり、当施設ではそのようなリスクはありません。また当社の直営であることから利用料金も一般的なレンタルオフィスに比べリーズナブルな価格帯を実現しています」(内藤氏)
 オリンピア興業ではこれまで60~70室のレンタルオフィス運営実績や、3000を超えるバーチャルオフィス会員のネットワークを持つ。今後はこうしたネットワークを生かした新たなビジネスモデルの構築に取り組むとしている。

確かな現場監理で快適な空間づくり
 サン・グリーン・アソシエイツ(東京都豊島区)は、住宅や中小規模ビルのリフォーム・リノベーションを得意とし、これまで数多くの事例を手掛けてきた。
 住宅リフォームでは、キッチン・バス・トイレといった水廻りにおいては配管の導線設計などから現状の問題点を抽出し、工事後に水漏れトラブルなどが起きないよう配慮した工事に努めている。代表取締役の君塚将氏は「リフォームやリノベーションを行うにあたって、工事の方向性や方針を施主と直接話し合いながら決定し、当社スタッフが現場監理を行うことで、快適な環境づくりを提案する点に強みがあります」と話す。
 賃貸ビルでも内外装の改修工事の実績を豊富に有している。建物の特性や周辺環境を考慮した高いデザイン性という点でも、同社の高い技術力が評価されている。
 「改修工事のプランニングは、まず現地調査から始まり、今後建物をどのように運用していきたいかというオーナー側の意向に沿った設計・デザインを提案します。フットワークの良さと迅速な対応力も、クライアントから高い評価を頂いております」(君塚氏)
 ビルの大規模修繕は10年おきに実施することが望ましいとされる。テナントニーズの変化に対応できるビルづくりを実現するには、大規模修繕に合わせ同社のデザイン性にあふれたリノベーションの実施も大いに有効となるだろう。


築39年の店舗併用住宅をリノベーション 複数の建築デザイン賞を受賞
 既存不動産の活用事業を展開するJapan. asset management(東京都品川区)がリノベーションを手掛けた複合宿泊施設「波と月」が、「日本空間デザイン賞2024」の複合商業施設空間部門で銅賞を受賞。また、「いばらきデザインセレクション2024」の空間・建築部門で知事選定を受けた。
 同施設は茨城県大洗町の築39年の店舗併用住宅をリノベーションしたもので、以前は商店街の一角で酒屋兼住宅として使用されてきた。その後、建物の所有者変更に伴ってリノベーションによる建物の利活用について検討を開始。1階はカフェ&ダイニングとし、2階は民泊施設として使用する居室に変更。民泊利用者は建物裏手の勝手口を玄関として使用することで、1階の店舗利用者との動線を分けた。また、2階の一部は床を撤去して吹き抜け空間とする減築工事も行われている。
 このプロジェクトの特徴は、検査済証がない建物であったことから、確認申請が不要な店舗200㎡未満の範囲内で用途変更がおさまるよう企画・設計が行われている点である。代表取締役の内山博文氏は「当社の特徴は、大きなコンセプトを決めた上で最終的なデザイナーを選定することです」と述べる。昨今の建築に関わるコストの上昇は新築のみならず既存改修の領域においても事業の実現可能性を下げる要因となっている。特に検査済証や図面などがない状況でのプロジェクトは不確定要素が多く、従来以上の厳格なコストマネジメントが求められる。改修・リノベーションを行う際には、単にデザイン性の向上を追求するのではなく、設計段階から高いレベルでのコスト管理に努める必要があるだろう。




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