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<既存ストックを活かす>銀座奥野ビル306号室プロジェクト
2017.03.27 16:48
東京・銀座に存在する「奥野ビル」は昭和7年に戦後復興の象徴として、日本の集合型住宅のはしりであった「青山同潤会アパート」の設計で知られる川元良一氏の手により高級賃貸アパート「銀座アパート」として建設された。昭和32年、周辺の再開発の影響を受け建物はそのまま貸事務所へと用途変更された。
そんな築84年を経た建屋に今もたった1つだけ、建設当初のアパートの内装をそのまま残す部屋がある。306号室だ。そして、この部屋を残すために集まった有志が賃料を折半しながら建設当初のまま維持保管するために平成21年に立ち上げたのが非営利団体「銀座奥野ビル306号室プロジェクト」である。プロジェクトの代表を務める黒多弘文氏は「306号室を賃借していた方が2年間部屋を使用しないことになり、そのままの状態を維持しながら『気の合う仲間が集うサロン』として活用することに興味を持った7名で保存活動がスタートした」と、その成り立ちを説明する。
作家や建築家、ビジネスマン等、それぞれ本業を持つ有志たちの集まりであり、サロンとして使用する時間もほんのわずかなものだった。しかし「この部屋にいるとまったく関係ない外部の方がふらっと立ち寄り『見学させて欲しい』と依頼されることが多々ありました。アパート時代からサロンとして使われていた部屋がいくつかあったそうで、私たちも芸術家向けの画廊という要素だけでなく、様々な分野の方が訪れるサロンの様な空間にしたいと思い、告知もなくただ鍵を開けて誰でも入れるように開放するようになりました」と黒多氏は振り返る。
「現状を維持し、利益を上げない」ことを旨とする同プロジェクトは設立当初から他の入居テナントの中でも異質の存在に感じられていた模様だ。改修もせず「時間の流れ、今から変わりゆく姿」を大切にするプロジェクトメンバーは利益を求めず大掛かりな広告やPR活動もせずただひたすら306号室を愛おしみ続けてきたが、その結果、ドラマや映画、雑誌などの撮影場所に使われるようになり306号室及び「奥野ビル」が取材を受ける機会が増加した。平成25年頃から中央区が毎年10月に開催する「中央区まるごとミュージアム」ではスタンプラリーの開催場所となり観光スポットとしての認知されるようになった。
設立から8年が経過した現在の会員数は25名。20代~60代まで幅広い世代が集っている。会員数の増加につれて当初の設立メンバーの負担額は低減されてきた。が今後もこの癒し・楽しみの空間を維持し次の世代への引き継ぎを円滑に進めるために、それぞれが知恵を絞り合っている。