不動産トピックス
第18回不動産ソリューションフェアセミナー再現
2016.11.07 17:44
昨年に引き続き行われた外国人投資家パネルディスカッション。「日本の応援団」を自認する彼らだが、その視点は日本を外部から見ているからこそ出てくる厳しい意見。今でこそ、不動産市況は活況だが、将来は見通せない。果たして日本の不動産に未来はあるのか。外国人投資家の彼らが出した答えは何か。希望の見えるパネルディスカッションを再現。
外国人投資家パネルディスカッション「世界の変化が日本の不動産に与える影響」
J.マイケル・オーエン この1年、自分のビジネスはどう変わったか。
フレッド・ウルマ あまり変わらないです。なぜなら、海外の投資家のお金を使って日本の優良不動産を買うのが私たちの仕事ですが買うことができない。売る不動産がない。値段を張れば買える、という状況ではなくなっているのが現状だと思います。
セス・サルキン 確かに売り物が少ないし、値段も高い。当社は開発が本業なので建設費高騰がネックです。が、当社の開発はホテルが主なので、需要の高さも相まり場所によって事業性は十分に確保できます。なので、今後も場所を精査したうえで、買っていこうと考えています。
スティーブ・バス 不動産よりもキャピタルが多い時代になっていると思います。キャピタルが重いので、不動産が高くなり買える不動産が少なくなってきました。キャップレートも低下しています。当社もファンドマネージャーとして中国、韓国、日本の投資家の資金を投資していますが、買主・売主として立場は強いですが現状の所有物件を売って新しい物件を買うのはチャレンジです。利回りが低ければ経済成長に基づく賃料の上昇を見るのですが、それが期待できなければ投資しにくいです。日本にとってこれがキーポイントになってくると思います。
オーエン それに関連して、外国人投資家一般論でいいのですが、日本に来る外国人投資家は何に期待して参入してくると思いますか。
バス 日本のメリットは多いです。アジアの他国と比べて透明性が高いです。平成12年初めにリートが初めて上場し、そのあと様々な情報が出てきました。また法律が固まっていることもメリットのひとつです。マーケットを読むことはできます。しかしデメリットは成長性が低いことです。これだけがネックです。
サルキン 海外の投資家は騙されていると思います。「アベノミクス」を信じ込んでいます。実際に不動産において物販は厳しいです。オフィスにおいては少子高齢化の問題で需要を期待することができません。住宅も都心一等地であれば別ですが、賃貸マンションは場所によってはかなり悪くなっています。「日本はこれからあがるだろう」という期待感は強いですが、それが本当か否かは別問題です。
ウルマ 面白い考え方があります。今なぜ海外の資金が日本に注目しているか。日本の経済成長に期待しているのではなく消去法です。米国経済は今後衰退が進んでいくのではないかと考えられています。欧州経済はすでにおかしくなっている。最近、ギリシャの話題が出ていませんが、より酷くなっています。「ポルトガルはどうなっているか」とも問わなければならない。では日本はどうか。2020年の東京オリンピックに向けて、政官民が初めて同じ方向を向いて、東京のインフラ・公共設備を再構築しようという社会活動なのです。3週間のオリンピックはただの「花火大会」で、そのイベントに向けて様々な再開発が進み、街がキレイになっている。そうすると東京は世界一の大都市で、世界一の公共のインフラを有する底地、という言い方ができると思います。あと、東京は「テロに遭いにくい先進国」と見られています。パリでは警官が機関銃を所持しています。こういう状況は外国人投資家にとって投資意欲を呼び起こしますが、しかし先ほど言ったように売り物がない。
オーエン 東京の価格が高騰したおかげもあって、大阪・福岡・札幌など、外国人の投資は広がっていますが、投資すべき街・投資したくない街といった線引きはありますか。
バス 東京中心になると思います。経済の中心地ですし、日本の人口が減少するなかで東京は流入も多く人口数も上昇しています。その点で地方よりも強い根拠を持っています。地方は気をつけなければなりません。人口が減少している地域もありますし、経済基盤が弱体化しているところもあります。ケースバイケースですが、よく検討しなければなりません。東京、地方大都市、そのあとの地方になりますが、最後の地方に投資する場合には検討を重ねなければならないと思います。
サルキン ホテルに限って言えば、全国の主要都市が対象になります。ホテル以外であれば、大阪・京都の一等地以外はやりません。
オーエン プラス東京ね。
サルキン もちろん。東京は一番やりたいところです。
ウルマ さっきの話に戻ると思いますが、不動産は畑の真ん中にAクラスのビルつくって道が舗装されていなかったら体を成していない。公共の交通インフラが整備されていることが絶対条件となる。そうすると、北海道の東京はどこか、東北の東京はどこか、関西の東京はどこか、九州の東京はどこか、ということになると思う。そのなかで福岡は非常に面白い。「博多」駅から空港が非常に近く、高速道路も整っている。高速バスがあり、電車もある。そして地下鉄もある。まだ福岡を有望視している人は少ないと思います。だからこそ、市場は浅い。
オーエン ひとつ厳しい質問をするけれども、豊洲の問題を見ると海外で日本の「絶対安全」などの神話が崩れ始めていないかと思いますが、どう海外の投資家に説明します。
バス 日本は成功・失敗が大きいです。ただ全体を見ると評価は良いと思いますよ。ただ海外の機関投資家のスタンスはあると思います。もちろん、日本の応援をしますけど、投資家のスタンスもあるので「日本に投資したい」という人に勧めますが、投資意欲を持たない人を説得することはできません。
サルキン 30年ほど前、初めて日本に仕事で来ました。そのとき世界的な知名度は低かったが、その代わりに知っている人のなかでは日本のブランドは非常にクリーンで安全、透明性が高く政治リスクが高いという信頼がありました。今、日本の知名度は世界のなかで高くなりました。インバウンドがここまで伸びていることがその証左です。しかしながら、豊洲や北海道のチョコレートメーカーや伊勢の和菓子のメーカーなどの偽装事件が広がったことは日本のブランドに傷がついているということでしょう。海外では知られていないので限定的かもしれませんが、こういう問題は最低限に抑えないといけません。
バス いや、それは賛成できません。当社は中国、韓国、ほかのアジア諸国に投資していて、確かに日本は傷がついているかもしれませんが、知名度は圧倒的です。
サルキン いや、私は30年前の日本と比較しています。だから、残念だと言っているのです。
ウルマ 豊洲の問題は、技術的な問題ではなく、企画者たちの問題です。つまりゼネコンなどの問題ではなく、指示を出した企画がおかしいのです。実は昨日、オーエン氏らと話していて「あの問題はどうなるのか」と話題に及びました。あれを場外ホームランで挽回しようと思ったら、豊洲に全魚河岸の補償料と工事代金をプラスして、外資系のカジノに売れば全プレイヤーに対して支払うことができるのではないか。それで築地にそのまま残して、豊洲でカジノをやれば、全員に倍返しするくらいの資金が入ってくるのではないか。オリンピックの話に戻すと、「地球温暖化で東京でマラソンをやったら熱中症で大変なことになるかもしれない」という話があります。これをニューヨークの人に言ったら「ホノルルマラソンみたいな朝4時からマラソンをやれば、どれくらいの人が生放送で見ることができるかを考えたら」と言われるでしょうし、「シンガポールのF1は暑いから夜に行うのではなく、全世界の放映時間が夜やると世界の人が見ることができるからその時間に行う」と指摘されるでしょう。そのような切り替えに対して日本人はまじめすぎる。算数の応用問題は非常にうまいが、社会政策などは決められた路線でいかなきゃ、と思うところがある。豊洲は真面目な日本人だから、2年後はうまくいっていると思いますよ、カジノが来なくても。
オーエン カジノのほうがおもしろいと思う。アベノミクスは不動産にとって良い結果か、悪い結果か。あるいは最初から幻だったのか。
バス 不動産価格はあがってきました。資産のインフレ、その面だけは成功したと思います。他はまだまだです。
サルキン またホテルの話ですが、ひとつの目玉は今、ホテルが不足していることです。アベノミクスの一環ではホテルの容積割増制度が発表されました。今、仲介会社から物件を紹介されるとき、必ず新聞記事が添付されます。「この物件は300%割増適用できます」ということです。実際問題として、国交省の発表によると、最低敷地面積は5000㎡です。東京にそのような物件があると思いますか。これは完全に三井不動産と三菱地所のおみやげです。普通のランカーは全く適用できません。この前、国会議員7人にこの問題を説明したら、どなたも存知あげなかった。こういうのを見ると政官民の一貫性はまったくないと見えます。また5000㎡の物件がないですし、あっても斜線制限、日照権の緩和がまったくないので、このアベノミクスのホテルに対する政策は全く無意味です。
ウルマ 私はアベノミクスはうまくいっていると思います。昔は「3本の矢」と、最近あまり聞かなくなりましたが。少し経過してから、海外に行くと「『3本の矢』は『100本のつまようじ』にしてくれ」と。去年は「1000本の針」にしてくれないかと。鍼を打つように体に1000本くらいの針を打てば、どこかで効くのではないかと。アベノミクスの批判者が間違えてはいけないのが、あの政策は当初は正しかった。しかし、その後に全世界が崩壊した。全ての国が通貨を下げようとして、今やドイツまでがゼロ金利です。もしドイツがプラス金利で米国がもう少し金利を上げていれば、今はもっと大変なことになっていた。「所詮日本は世界3位」と言われていますが、実質世界2位です、地位的に言うと。2位の国が自分の国内だけの政策で国が潤うと勘違いしている。日本の政策は世界の波に乗らなければならない、それが世界とともに失敗の方向に行ってしまったというのがあると思います。GPIFが株を買って損しました、と。でもそれはGPIFのせいではなく、株価市場が全て下がっている。安倍政権が全てを救えるわけではない。三井不動産・三菱地所の株は51%外国人が所有しているらしい。裏を返せば、外資系の会社ということです。それは何らかの理由があって持っているわけです。今、世界全体が収縮しているなかで、アベノミクスも連動して収縮している。
オーエン でもあのタイミングでGPIFが投資したのは彼らの責任ですよね?
ウルマ 振り返ってからしか言えないじゃないですか。それは「たられば」ですよ。
オーエン 「たられば」で私のお金も減っていますので、「たられば」でいいです。少し不動産に直結する質問に戻りますが、よく外国人投資家やリートが価格を上げていると言われますが、ここ1年を見ていて、日本のファミリーオフィスのような企業が不動産を高値で買っているように感じます。実際に不動産を積極的に買ってきた層はどういう人たちでしたか。
サルキン ひとつは地方の事業会社です。話題になっているのはJR九州のIPOです。目論見書を読みましたが、大半の事業は九州ですが東京にもホテルをつくっています。九州に限界があるから、東京でも事業をやらなければならない、と目論見書に書かれています。京阪鉄道も東京・銀座に不動産を買いました。地元に限界を感じている事業会社はどんどん買っていると思います。
ウルマ 一番買っているのは電鉄系だと思います。私鉄だろうがJRだろうが、上場している以上トップラインを伸ばしていかなければならない。人口減少の中で乗客数が増えると考えるのは無理です。東京は去年10万人人口を増やしましたが、国全体では10万人減っています。電鉄系がホテルや老人ホームを積極的に開発し、また電力の買取価格が下がってもソーラーパネルを行う事業者が出てくるかもしれない。今回、それこそアベノミクスですが、コーポレートガバナンスを導入したのは世界的に評価していますし、「ウーメノミクス」という女性を労働市場に戻すというのも社会的な意義があることとしてやはり高く評価されています。もともと電鉄系は資産を持っていますので、それを担保に使って資産を伸ばしていこうという目論見があるのではないでしょうか。
スティーブ 海外の年金世界で見ると、ローリスク・ローリターンのコア型の投資家が増えてきました。利回りは下がったが、リスクも下げたのだと思います。
オーエン バス氏とサルキン氏は双方ともに開発を始めたじゃないですか。開発しはじめた理由はいいものをつくるというものもあると思うのですが、それは既存でいいものがないからですか。
バス その理由は物件が少ないからつくったほうがよいということです。また付加価値をつけることで、コア型より多少リスクは高まりますが、間違いのない価値をつけていく。
サルキン 当社は20年以上前から開発を行ってきました。大きな理由は日本国内の企業と大きな差別化をしていかなければならない。安定物件を取得できない中で、差別化できる開発を継続的に行ってきましたし、今後も行っていく必要があります。
ウルマ 欧州や米国にいくと、古いビルが非常に立派で長期維持している。また60年経ったオフィスをホテルに変えたというような事例がある。これは日本の場合、オフィスの避難階段とホテルのそれの幅が違う。だからオフィスからホテルに変えるときに耐震補強工事をして避難階段を改修するとなると、新規に開発したほうが見積り段階で安くなる。既存のものを有効利用するとなると20年前と今日の需要と供給が違ってきているのではないか。あと10年すると、東京の高層のアパートでワンフロアに20のベッドルームがあってシャワーがあって、そこにシェアキッチンとシェアリビングがあるようになるのではないか。米国では「ウィー・ワーク」という、ベンチャーや零細が会費を払ってオフィスの利用権を使う。だからハードの変革もいいが、エンドユーザーが何を望んでいくのか。それを踏まえて不動産を開発・改良・供給する人がどのように考えていくのか。だから、セスも「ライフスタイルホテル」を考えているんですよね。
オーエン 海外の不動産トレンドで日本に来ていないが、これから影響を与えるというものはありますか。
サルキン 海外に行きますと普通のホテルは150ドル~250ドルの間です。そういうホテルは日本にない。なぜないのか。日本の投資家は変動リスクを嫌う。なぜビジネスホテルをつくるのかというと、オペレーターは20年間の定期借家契約で固定賃料を払ってもらえる。ただ海外のそういうホテルは運営委託契約でないと行わない、つまり固定賃料は払わない。だから日本に上陸できない。日本の投資家で3つ星や4つ星で運営委託で変動リスクを負える会社はゼロに近い。当社が行っているのは新しいコンセプトです。客室はシティホテルよりも狭いが、ビジネスホテルとの違いは1階にコワーキングスペースがある。カウンターで飲み物や軽食を買うことができて、オープンなスペースで仕事をしてもいいし、食事してもいい。ウルマ氏が話したシェアリング経済に変わると思う。
バス オフィスワーカーは今、職場行って机があるが、これからはホットデスクになる。空いているデスクに座ってノートパソコンを持って仕事するようになる。オフィスの需要は今後減るでしょう。このようなことは不動産業界にインパクトを与えるでしょうね。
オーエン これからの1年、都市型リテールは伸びますか。
ウルマ 苦戦するでしょう。インバウンドの円高によって日本で純正な高級グッズを買おうという意欲は、123円のときと、100円のときとでは違う。またアベノミクスのときに投信で200万儲かりロレックスの時計を買った主婦は、もう買い終わっている。
サルキン 投資商品としては都市型リテールはニーズが高い。売上は下がるが、一等地は限られている。賃料は下がるだろうが、銀座などを考えると、ここが欲しい富裕層は山ほどいる。非現実的な投資事例も多くある。なのでポテンシャルはまだ高いと思う。
バス 久しくリテールに投資していないが、これから投資することを考えるとリテールは進化しないといけない。何を提供するかは昔よりも難しくなっている。何かビジョンを持っていないといけない。
オーエン 最後に自分が50億持っていたら何に投資します、日本で。
バス 自分のファンドに投資します。今、有料老人ホームを開発していまして、それは合理的なリターン出るのではないか。
サルキン 東京都内の宿泊特化型施設開発です。
ウルマ 50億じゃできないでしょ?できるの?私は50億あったら、50億お金を借りて100億で縦型のシェアアパートを開発します。そうすれば話題になって、それを150億で買う人がいるでしょう。50億が150億になって税金で半分払って、あとは貯金します。
オーエン そんなにうまくいくものではないと思いますが。