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ビル業界の革新する「異能(イノ)ベーター」 建築士編

2016.06.20 17:09

自ら設計した建物の「その後」を調査 福祉施設の運営上の問題点を解消する
 「自分で作った建物の『その後』を調査する」稀有な建築士だ。
 99年に設計事務所を立ち上げ、戸建て住宅や店舗を中心に設計デザインを手がけていた伊藤朱子氏。5年ほど前から福祉施設の設計に携わり、現在は立教大学コミュニティ福祉学部の兼任講師でもあり、東京都市大学大学院で福祉施設の開業後の研究を行っている。
 「自分で設計した建物の『その後』を調査する建築士はいないのでは。使い勝手の悪い部分が見つかったり、予期せぬ問題が発覚する可能性もある。自分が手掛けた仕事にダメ出ししたい人間はいないですよね」と伊藤氏は苦笑するが、竣工後に調査することで課題を抽出し、次のプロジェクトに生かすことができる。伊藤氏によると「福祉施設は住宅やビル等の一般的な建物に比べて建築法規や施設設置基準が厳しく、設計の現場では遵法性を維持することに腐心し、特段使い勝手や空間性まで考えて計画された施設は少ない。例えば、採光のために窓を設けないといけないが、窓から見える風景まで計算されておらず、居住者にとっては快適な環境を提供しているとは言い難い」と指摘。こうしたハード面における問題点をあぶり出し、運営に生かしていくのだという。
 伊藤氏が手がけた福岡県飯塚市の「特別養護老人ホーム」を現在検証中だが、設計時では想定しなかった課題が噴出。「この空間を有効活用すれば作業効率が上がる」(伊藤氏)といった改善点を運営側に提案している。特別養護老人ホームは社会福祉法人が運営することが多く、スタッフレベルまで運営ノウハウが浸透しておらず、膨大な日々の業務に追われているのが現状だ。伊藤氏が施設の運営状況を踏まえた調査を行うことで、運営面での問題点も発見でき、より効率よく施設を使うための提案を行うのである。
 「介護士は人手不足で、ギリギリの状態で施設を運営しているのが実態。より効率的に施設運営を行うようになれば、介護スタッフにも余裕が生まれ、施設利用者の満足度向上にも繋がると信じている」(伊藤氏)
 福祉の現場では、施設づくりは設計者・ゼネコンに丸投げだ。オペレーションを踏まえた施設づくりが今後は求められるのではないだろうか。伊藤氏の研究結果が今後の施設作りに生かされる時代は近いのでは。




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