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GL企画 旧来のイメージから変わる「パチンコ店」が土地活用の好手に
2016.12.19 16:12
オーナー・地域にメリットをもたらす医療ビルとのミックス
オーナー・地主にとってテナント誘致は悩みどころだ。ましてや、かつてほど賃料負担能力のあるテナントも少なくなり、都心においても「坪4万円以上を出すテナントは数少ない」と言われるほど。今後、人口減少が進むなかでビル・アパート経営もかつてに比べて安定していると言いがたくなり、不動産業界にとっては長い冬になる可能性も否定しがたい。また建築費用も高騰するなかで、自己資金で建物を建築するのは大きなリスクにもなりうる。
そうしたなかで店舗開発を行うGL企画(東京都渋谷区)が提案しているのが「ICS事業(異空間コラボレーションシステムビル事業)」。駅前立地であることなど一定の条件を満たした未活用の土地に、低層階をパチンコ店(通称「P店」)、高層階は医療・福祉関連施設で構成するテナントビルを建設するというものだ。代表取締役の山田春國氏はこの事業のポイントを次のように説明する。
「『医療ビル』は地域への貢献性が高く、興味を持っているオーナーも多くおられます。ですが、医療テナントは保険料収入が基本となるため賃料負担能力が他種のテナントに比べると低い。まして独立開業したばかりという医療テナントを受け入れるのであれば、相場よりも割安な賃料を設定する必要があります」
対して「P店」の賃料負担能力は極めて高い。山田氏は「もちろん業界内で上位20位以内のP店に限定される」と前置きしたうえで、「更地から店舗開発を行う場合には、オーナーに対し建物建築分の建設協力金を渡し、オーナーは初期費用ゼロで上物を建てることも可能です」と話す。賃料負担能力はむしろ他のテナントに比べて非常に高く、たとえば7階建てのビルで1~2階を「P店」、3~7階を医療テナントとした場合、「P店のテナントだけでキャッシュフローがプラスになるほどの賃料が払われるケースもある」(山田氏)という。オーナーにとっては垂涎の提案だろう。さらに「P店」の場合は通常、20~30年の定期賃貸借契約を結ぶ。しかも、途中で退去ということになった場合は、建設協力金の返済が不要になる契約がほとんど。
が山田氏は「オーナーにとって非常にメリットは大きいものの、提案に際し大きな壁を感じることも少なくない」と明かす。それは「P店」に対するイメージの悪さだ。山田氏は東京郊外に広大な土地を持つ大地主に対して提案を行った時のことを例にとって次のように説明する。
「最初はほとんど門前払いに近い形でした。しかし、非常に魅力的な土地であり、オーナーにとっても非常に高い収益を生み出すことができると考え、その後も様々なコネクションを使って説得を重ねています。地主様側も当初よりは徐々に軟化してきてはいますが、未だに首を縦に振ってはいただいていません」
このようなケースは珍しくないという。地主にとって大きな収益を生み出すことは重要だが、一方で気になるのは周辺の眼だ。「閑静な場所だったのに、急に軍艦マーチを店外に響き渡らせるようなテナントを誘致してほしくない」とクレームが出ることを非常に恐れいている。
しかし、それは現代の「P店」でも同じことなのか。山田氏は「そのような『P店』は一昔前のものです」と話す。
「P店」が絡む法律は風俗営業適正化法の「風俗第四号営業」。国家公安委員会の管轄となる。厳しい目を光らせながら、地域との調和を強く要請される。近隣からクレームが出ることもタブーで、「今の『P店』は店外に鳴り響くような音楽を鳴らすこともなく、さらには看板などにもブランド名が入るのみで、『パチンコ』という文字を外す場合が多くなってきています」と言う山田氏は、「P店」業界の地域貢献について次のように説明する。
「『P店』は周辺地域のイベントなどに積極的に協賛するとともに、店員は清掃活動などにも参加しています。かつては『店員の柄が悪い』と噂されもしましたが、今では全員徹底的な研修を受けてからホールに入るため、ホテルマン並の接遇でお客さまをもてなしていることは業界内では当然のこととなっています」
このような変化を山田氏は目の当たりにしてきたからこそ、「『P店』は地域環境に積極的に溶け込もうとし、地域の活性化のために一番動く優良テナントとなっている」と強調する。
ただ、「P店」と医療テナントをミックスした医療ビルの場合、医療テナントへの来訪者のための入口をどうするかという問題もある。山田氏は解決策として「2方向に店構えができることが条件のひとつ」と話す。
イメージが先行するのは「P店」にとって永遠の課題となるだろう。が、オーナーにとって合理的な判断を下そうと考えたとき、都心エリアである必要もない「P店」としての活用はポテンシャルが高いのではないだろうか。