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空き家活用プロジェクト 空き家活用セミナー開催 欠かせない地域ニーズのヒアリング更なる法整備を必要とする声も
2018.07.02 17:40
空き家が社会問題としてクローズアップされるが、活用次第では新しい価値を創出する。そのような活用を進めていこうと先月26日、NPO法人の空き家活用プロジェクトがセミナーを開催した。
空き家活用プロジェクト(東京都)は6月26日、「すみだ産業会館」にて最新空き家関連セミナーを開催した。
第一部では同NPO法人理事長の清水貴仁氏が「地域活性化のカギを握る空き家問題」と題して講演。現状の空き家問題、加えて墨田区内の現況について解説を行った。
清水氏は「墨田区は東京都全体と比較して、不動産流通に乗っておらず使用もされていない空き家率が10年以上高い状況が続いており、大きな課題である」と指摘。実際、昨年の調査報告によると、空き家候補889戸の物件のうち、利活用見込みがある物件は全体の90%を占めるにもかかわらず、その大半が利活用されていない可能性が高い。所有者意向調査では貸し出し等の検討が可能と回答する傾向が多くあるにも関わらず、実績が伴っていない原因は、空き家利活用の手段が浸透していない現状があり、そのギャップを埋めていく必要があると指摘。
清水氏の講演を終えた後、ジェクトワン(東京都渋谷区)代表取締役の大河幹男氏が「『まちづくり』から考える空き家活用」、ルーヴィス(横浜市南区)代表取締役の福井信行氏が「空き家を使えば暮らしはもっと楽しくなる」と題して、自社の取り組みなどを紹介した。
第二部ではジェクトワン・大河氏、ルーヴィス・福井氏、また墨田区で商業コーディネートを行うモアナ企画(東京都墨田区)代表の三田大介氏が登壇して「『すみだ』に眠る空き家の活かし方」と題してトークセッションを実施。
このなかで見えてきたのは、各社第一線での取り組みを行っているからこそ浮き彫りになっている課題だ。空き家対策特別措置法が制定されてから2年以上が経過しているなかで、昨今、メディアでも「空き家問題」をクローズアップする機会は増えたが、「空き家数の推移に対して事業者による活用件数は少ない」(大河氏)という指摘もあがる。
このような活用の難しさは木造物件ならでは、というところもある。償却年数が短く「資産ゼロになる」との指摘も多いからだ。ただ福井氏は「当社が東向島で行った『東向島の家』は十分に収益物件として成立している。金融機関が償却年数を過ぎた物件への融資を控えるケースがあることも背景にある」と話す。
墨田区では既にモデルケースもできているようだ。三田氏は「曳舟にある『ふじのきさん家』は防火耐震化のモデルにもなっています」と紹介する。同物件ではハードだけでなく、ソフト面での工夫も取り入れる。「たとえばカフェをつくることで、ふだん孤食となっている近隣の高齢者の利用も多い」。このようなコンテンツは欠かせない。大河氏も「地域のニーズが何かは外せない。『空き家サポート事業』においては、ニーズがあれば非住宅として活用していくことも多い」と話す。
ただ事業として展開していくことのハードルも高い。ジェクトワンの大河氏が「現在検討中の案件ですが、耐火性・耐震性を保持していく上で費用負担や法令との矛盾が生じるケースもでている」と吐露する。空き家活用を進めていく上で、法令の柔軟な運用も今後課題となってきそうだ。
昨今、空き家へのアプローチは各事業者取り組む。特に電鉄会社ではメーン事業である鉄道の利用客数を維持していく上でも優先順位が高い。空き家活用による社会課題解決とビジネス機会創出に向けて、より多くのモデルケースが求められている。