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三井不動産 ラボ付き賃貸オフィスに参入「三井のラボ&オフィス」事業を開始
2019.06.03 18:17
ライフサイエンス領域での課題解決に寄与
三井不動産(東京都中央区)は5月30日、ライフサイエンス分野の実験設備を併設した賃貸オフィス事業「三井のラボ&オフィス」を開始すると発表した。ニーズがあるとされながらほとんど未開拓といっていい「ラボ&オフィス」の賃貸事業。三井不動産は今回の事業展開で、国内不動産における新市場開拓をねらう。
まずは都心近接型 20年12月までに2施設
「三井のラボ&オフィス」は、ライフサイエンス領域のイノベーション創出に必要とされる「本格的なウェットラボ」と「オフィス」が一体化した施設の賃貸事業。三井不動産はこの事業で「都心近接に整備された賃貸ラボ施設」、「オープンイノベーションを創出するしくみ」、「都心近接地にありながら充実した研究環境」の実現を目指す。
事業の第一弾として、今年9月に東京都江戸川区北葛西に所在する「第一三共葛西研究開発センター」内に「(仮称)三井リンクラボ葛西」を開設。2020年12月には第二弾となる(仮称)三井リンクラボ新木場」を開設する計画。
都内で行われた発表会で同社常務執行役員の植田俊氏は「私どもは『コミュニティの構築』『場の整備』『資金の提供』を、ライフサイエンス領域におけるオープンイノベーションの進展とエコシステムを構築させるための3本の柱として取り組んできた。日本のライフサイエンス領域における研究開発環境の課題解決に貢献するとともに、イノベーションを創出する支援を加速させたい」と新事業を紹介した。
関連の社団法人を通じ企業・大学と関係構築
同社は2016年、医薬関連企業が集積する東京・日本橋エリアを拠点に、産官学連携によるライフサイエンス領域でのオープンイノベーションを促進して新産業創造を支援する一般社団法人「ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK―J、東京都中央区)を設立。コミュニティの構築に取り組んできた。現在LINK―Jの会員は東京大学など国内外のアカデミアを含め342社にのぼっている。
LINK―Jの活動を通じてライフサイエンス領域の機関や企業との関係を密にしてきたが、その過程で賃貸ラボ&オフィス、なかでも都心近接型の施設を求める声が多く寄せられていたという。今回の新事業立ち上げはこの要望への回答という面ももつ。
「ライフサイエンス事業で培ってきたさまざまな経験を活かして本格的な賃貸ウェットラボ&オフィス事業を開始する。我が国がライフサイエンス産業におけるアジアでナンバーワンの地位を確立するとともに、日本が世界に冠たるライフサイエンス立国となるよう不動産会社として貢献する」(植田氏)。
大学・研究機関の至近に「シーズ近接型施設」も
さらに同社では今回の「都心近接型」ラボ&オフィス事業に加えて、「SEEDS近接型」も展開する方針だ。教育機関などでの初期研究、いわゆる「SEEDS研究」を支援するための賃貸ラボ&オフィスを都心に限らず展開していく構想で、千葉県柏市の「国立がん研究センター東病院」からほど近い複合施設「柏の葉スマートシティ」への開設を検討中という。
米国では専従リートも 待たれる国内市場拡充
同社によると、米国では賃貸ラボ&オフィスの総面積は300万坪を超え、1兆円をこえる専業のREITが存在し、成熟した賃貸市場ができあがっている。一方、国内には賃貸ラボ&オフィスはほとんど事例がなく、一部で製薬会社などが賃貸ラボ事業を行う程度だ。同社ではこうした既存施設を「ライバルとは考えていない」とし、自社事業を「不動産会社の立場でオープンイノベーションのプラットフォーマー」と位置づけ差別化する。
植田氏は「今回の新事業はベンチャー企業のようなマインドで立ち上げており、精いっぱいやりたい。当社のコアコンピタンスである不動産業の延長線上で、事業機会の獲得については従来持っているネットワークをフルに活用し、スピード感を持ってやっていきたい」と語った。
今回開設されるラボ&オフィスの概要は以下の通り。
「(仮称)三井リンクラボ葛西」 第一三共が持つラボ団地「第一三共葛西研究開発センター」内5号館の2~4階を賃借して開設するマスターリース事業。総貸付面積2247㎡。一区画は約30坪。
「(仮称)三井リンクラボ新木場」 土地所有者から土地を賃借して建物開発し、入居テナントへ賃貸。総貸付面積7540㎡。一区画は約30坪からフロア全使用まで対応。
いずれも給排水・吸排気などをウェットラボに適したものにするほか、打ち合わせや会議を行うスペースも確保する。什器や備品類はテナントが用意し、三井不動産は建物賃貸のみを行う予定。現在のところ、ミドルからレイターステージのベンチャー企業、異業種企業、東京に拠点がない製薬企業などをテナントとして想定する。