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介護・塾など5業種テナント動向を解説 「コロナ禍で事務所賃料見直しの動き強まる」
2022.02.21 13:45
不動産コンサルティングファームのビズキューブ・コンサルティング(大阪市中央区)は、オフォスや店舗を賃借する企業向けに、業界全体のマーケットや賃料動向など解説した「来期計画に役立つ業界別レポート(不動産動向付き)」を作成・公開した。同社ホームページから無料でダウンロード可能。レポートは「介護」「スーパーマーケット」「調剤・ドラッグストア」「学習塾」「小売」の5種類。近日中に「パチンコ」「建材」の2業種を新たに公開予定だ。
経営環境依然厳しく コスト見直し意識高い
「介護」については、2021年の介護報酬改定は0・7%とプラス改定となったものの、(1)感染症対策やBCP策定が義務化されたことで支出は増加傾向、(2)深刻な人手不足を背景に、採用コストや職員の確保に向けた投資・委託費が増加しており、経営環境は非常に厳しい、と分析している。
賃料動向については、「介護報酬改定が収入に直接影響するため、経営努力による収入増加は非常に困難」であり、「『自社でコントロールできない収入が減少し、支出が増加する傾向』の中で、数少ない自社コントロールが可能な項目である賃料の減額に取り組む事業所が増加傾向にある」としている。
「スーパーマーケット」は、新型コロナウイルス感染症による「巣ごもり需要」で、2020年は19年に比べて約1兆7000億円売上が増加している。しかし、緊急事態宣言が解除されると、売り上げは前年同等に戻る傾向にあるため「アフターコロナ」の売上維持が課題となっている。またドラッグストアやコンビニエンスストアが食品取り扱い数を増加させており、異業種間競争が激化している。
賃料動向については、「採用費や人件費、物流費、ポイント還元のための販管費やキャッシュレス決済の手数料負担など、コントールできないコストが増加しているため、経営環境は非常に厳しい」と分析。「数少ない自分でコントロール可能な項目のうち、最も経営にインパクトがある賃料の減額に積極的に取り組む企業が増加している」としている。
「調剤・ドラッグストア」については、調査薬局は店舗数が6万を超えていることに加え2万を超えるドラッグストアの35%が調剤併設型であり競争が激化している。さらにコロナ禍による受診控えで、20年の経営状況は非常に厳しくなっている。一方、ドラッグストア大手4社は20年度の売上が前年比で10%以上増加しており、明暗が分かれている(左グラフ参照)。
賃料動向については、調剤薬局の8割は中小企業であり、オンライン服薬指導など業務ICT化のための投資が難しい点、金銭的な面や人員面からかかりつけ薬局や健康サポート薬局を目指せないところが多い点など、経営環境が好転する材料が乏しいことを指摘。賃料減額に取り組む企業が年々増加しているとしている。
「学習塾」は少子化が続く中でも、子ども1人に対する教育投資額の増加などで売上高は拡大を続けてきた。しかし、20年はコロナの影響で休校・退会などが相次ぎマーケットは縮小した。また、他社との差別化の中で個別指導を打ち出す塾が全体の4割を占めるようになり、1塾当たりの従業員数は増加、労働生産性が低下する結果となっている。
賃料動向については、コロナ禍で塾の授業もオンライン化が進む中で、保護者がその体制が十分に整った塾に切り替えを希望するニーズが増加しており、塾の多くはICT化などに経営資源を投下する必要がある。その原資確保のために、教室・事務所の賃料の見直しに多くの塾が取り組んでいるという。
「小売業」は、20年以降は「巣ごもり需要」で日用雑貨・家電・情報機器・家具などは好調の一方で、アパレル・化粧品・靴・メガネなどの消費は大きく落ち込んだ。消費行動は回復傾向にあるが、インバウンド需要の消滅や家具・家電の買い替え需要の一巡などで、厳しい状況は依然として続くと予想している。
賃料動向については、原材料・仕入れ単価の上昇、在庫を抱えるリスク、ライバル店の増加、消費者人口の減少など厳しい経営環境が続く中で、商品・人・売り場への投資による他店との差別化が必須となっており、その原資確保のための固定コストの見直しが不可欠になっていると分析している。
いずれの業界も、新型コロナやその他の外的要因により、経営環境が厳しくなる中で、固定費の中で大きなウエイトを占める賃料の見直しに着手・検討する企業が増えている。貸主側としては、テナントのこうしたニーズにいかに柔軟に応じられるかが求められると言えそうだ。