不動産トピックス
クローズアップ サウンドマスキング編
2010.09.06 14:32
周囲の音が気になる、電話の声で集中できない、あるいは重要な会議やプライベートな相談の内容を隣室に漏らしたくない・・・。こうしたオフィス空間の悩みを解決する手段として、サウンドマスキングという技術がここ数年、注目されてきている。サウンドマスキングとは、音に音をあえてかぶせる(マスクする)ことで、聞きたくない音や、聞こえてほしくない音を聞こえなくする技術のことである。
コクヨエンジニアリング&テクノロジー 天井に穴を開けず既存のオフィスにも設置可能
コクヨエンジニアリング&テクノロジー(東京都品川区)は、日本でいちはやくサウンドマスキングに注目した企業である。
「国土の広いアメリカでは、昔から従業員に個室が与えられていました。しかし、1970年代に、ドイツからオープンオフィスという概念が導入されたのです。オープンオフィスというのは、オフィス内では従業員どうしのコミュニケーションがあった方が作業効率が上がる、という考えでした。ところが、これを採用したところ、今度は周りの話し声や電話の音に邪魔をされ、集中力が削がれるという新たな問題が発生したのです。このような問題に対する解決策として、アメリカではサウンドマスキング技術を採用する企業が増えたようです」(技術統括センター 空間創造推進部 松崎伸樹氏) この技術を積極的にアピールしている同社では、ユーザーのきめ細かい要望に応えるサービスを揃えている。
「当社の場合、天井内にスピーカーを設置するので、部屋全体に均一にマスキング音をふりそそがせることができます。天井に穴を開けないので原状回復費用もかかりません。また、『サウンドマスクパーティション』といって、銀行の相談カウンターでの使用などを想定した技術を開発しました。これは、パーティション(衝立)の内部からマスキング音を出すことにより、部屋内部の特定のスポットを効果的にマスキングするというものです。大がかりな工事が不要なので手軽に導入できるというメリットもあります。こうしたシステムはすべて、コクヨショールームで実際に体験できます。音の効果は実際に体験をしてみないとわからないので、ぜひショールームにお越しください」(同氏)
ヤマハ 人の声によるマスキング音を研究中
古参の楽器メーカーとして、防音や音響機器などに関する技術の蓄積があるヤマハ(静岡県浜松市)も、サウンドマスキングの研究に取り組んでいる。同社の技術のユニークさは、マスキング音を人の声から作り出す点である。
「従来のサウンドマスキングシステムは、空調音に似たホワイトノイズを出したりするのが主流でした。しかし、あくまでもノイズには変わりなく、人によってはどうしても不快に感じることがあります。人の声を元にマスキング音を合成することによって、不快感を減らし、また、比較的小さな音でもマスキング効果が得られる可能性が出てきます。まだ開発段階なのではっきりしたことは言えませんが、例えば病院で、医者が患者に病名や症状などの機密性の高い説明をするとき、その医者の声を元に合成した音をかぶせ、内容を周りに聞きとらせにくくするといった使用方法も考えられます。従来の技術が『塗りつぶし』だとすれば、当社の開発中の技術は『モザイク』や『カモフラージュ』のようなものといえるでしょう」(アビテックス営業部 柳田晴彦氏)
ネットプラン オフィスセキュリティの一環として提案
オフィスの引越しやネットワーク工事、ビルのリニューアルなど、オフィス空間の設計を総合的に行うネットプラン(東京都江東区)も、数年前からサウンドマスキングシステムの取り扱いを始めた。同社が取り扱うのは、コクヨエンジニアリング&テクノロジー、岡本製作所(横浜市西区)のほか、セイ(横浜市都筑区)が輸入する海外メーカーの「カルマ」。新宿西口にあるショールームでは、同社の提案するオフィスインテリアのほか、サウンドマスキングシステムも体験できる。
「サウンドマスキングという技術自体、まだ知名度が低く、参入している企業は少ないのが現状です。当社が扱っている各社の製品を比較すると、外部入力の有無や、導入コストの高低、スピーカーを設置する場所などで違いがあります。設置を考えている企業は各々のニーズによって選択されているようです」(営業支援部 湯浅勇氏)
アメリカに比べて日本での知名度が低い理由をこう述べる。
「音漏れによる情報漏えいという点に関して、これまで社会全体として鈍感だったという点があげられるかもしれません。ただ、個人情報保護法の施行などを受け、情報のセキュリティが重要だという意識は確実に高まってきたといえます。当社でも、サウンドマスキングは、入退室管理システムなどと同様に『オフィスのセキュリティ』というカテゴリー内に位置付けいます」(同氏)