不動産トピックス

クローズアップ 空きスペース活用編

2013.06.24 17:07

 ビルの収益力向上の正道は、貸室の稼働率と賃料のアップだろう。しかし景気の先行きが不透明な今、これを実現するのは容易ではない。そこで少し視点を変え、空きスペースや空室の活用を検討してみてはどうだろうか。募集中の物件のほか、利用中の物件であっても収益化は可能だ。

ドラマチック スペースと利用者のマッチングサイト
 ドラマチック(東京都台東区)が運営するサイト「MaGaRi(マガリ)」は、貸したいスペースを持つ人とスペースを使いたい人とのマッチングを行っている。
 現在登録されているのはシェアオフィスやカフェ、アトリエ、ギャラリーなど約50物件で、オフィスの空きスペースを起業家のワークスペースとして賃貸したり、ビルの1室をアトリエとして共同使用したりといった使い方が多いが、カフェ物件などは営業時間外にイベントスペースとして活用することもある。いわば空きスペースだけでなく、空き時間もシェアするという考え方で、これはあらゆる物件に応用できそうだ。空き地やビル1棟まるごとといった物件もあり、シェアできる空間や時間は、考え方ひとつでさらに拡がるだろう。
 こうした物件を利用するのはアーティストやクリエーターなどが多いが、こうした層への訴求は立地や設備ではなく、建物の雰囲気や歴史に左右されることも少なくない。さらにイベントやシェア型のスペースであれば、その場所を使用することの意味や他の利用者との協働が問われることもある。なかでも空室の多い築古のビルは自由度も高く好まれる傾向にあり、まさに空きスペース活用として有効といっていいだろう。

KIRIAGERU リノベ+レンタルでビル活性化
 空きスペースといってもその条件は様々だ。立地や設備、内装のテイストなど物件ごとに異なる空間を、全て同じ条件で貸し出すのは簡単ではない。KIRIAGERU(東京都渋谷区)が駆使するのは、内装のリノベーションを行った上でレンタルスペースとして賃貸するスキームだ。
 同社が展開するレンタルスペース賃貸サービス「糀屋箱機構」では、直営11スペース、運営受託6スペースの全17スペースを運営している。いずれも渋谷や青山、原宿といった、都内でも感度の高い人々が集まるエリアを中心に立地しているが、これは同社が運営するスペースを理解するうえでも欠かせない要素といえそうだ。
 そのスペースの特徴を挙げれば、まずはデザインだろう。例えば直営スペースのひとつである「Creator’s District 1002」は、白を基調としたシンプルな内装となっている。モルタル仕上げの床に粗く仕上げた壁と天井に、地上10階の窓から遠く新宿の景色を望む開放的な物件だ。同ビル内の「Creator’s District 802」は一転してポップな雰囲気。芝生のような緑色の絨毯に、壁一面を覆うホワイトボードが目を引く。入り口を振り返れば黒く塗られた壁がまったく異なる雰囲気を醸している。絨毯の上にはテーブルや座卓などが置かれ、靴を脱いでゆっくりくつろぐこともできる。他の物件もコンクリート打ちっ放しのプリミティブなものから木の質感を生かした温かみのあるものまで、いずれも個性的な内装となっている。
 こうした内装は、それ自体が強みであり他物件との差別化につながっているといっていいだろう。実際に撮影スタジオやアパレル系の展示会場などとしても頻繁に使用されているが、こうしたニーズは内装に拠るところが大きいといっていいのではないだろうか。もちろん会議やミーティング、パーティー会場などとしても使用されており、一般的な多目的ルームの要素も持っている。同社が借り上げて運営するほか、オーナーとの共同事業として運営することも可能。取り壊しが決まっているビルや募集中の部屋でも運営できるという。同社代表の糀屋総一郎氏は「運営の仕方によっては家賃より高収入を得られる可能性もあります。ビル内の空きスペースの活用の一つとして考えていただければ」と話す。他ビルとの差別化にもつながるスキームといえるだろう。

another sky ビルを撮影スタジオとして活用
 another day(東京都台東区)が提供するのは撮影スタジオやロケ地。ビルや倉庫、住宅などを撮影用に賃貸することで空きスペースの活用に繋げている。しかしこのスキームは、厳密にいえば「空きスペース」である必要はない。普段はカフェとして営業している店舗や稼働している工場など、通常の業務を行っている物件も少なくないという。特にオフィスビルなどは、あえて稼働中の物件を使いたいというオファーもあるようだ。
 同社ではこうした物件をサイトで紹介し、実際に撮影に使用された場合に賃料が発生する仕組み。CMやテレビドラマ、映画や雑誌、ポスターまであらゆる撮影を想定しているが、物件に損傷を与える可能性があるものや撮影内容などによっては断ることもできる。一度の撮影による収益は大きなものではないが、映画などで長期間にわたって使用されれば高額な賃料が発生することもあるという。登録されているのはテナント募集中の物件が多いが、収益のプラスになることを狙って登録するオーナーも少なくない。自身が保有するビルがスクリーンに映るかもしれない、そんな夢もある活用法である。




週刊不動産経営編集部  YouTube