不動産トピックス
今週の一冊
2013.09.16 11:58
若者が集まることで街に活気が溢れる
若者のためのまちづくり
著者 服部 圭郎
出版 岩波書店
発行 平成25年8月21日
価格 840円(税別)
貸ビル市況が好転しつつあるとはいえ、長期間空室を抱えるオーナーは多い。賃料を見直しても、立地条件や設備面で競合ビルと差別化できないため、入居テナントを誘致するのも難しい。競争力の低下した築古物件は殊更だろう。
そうした中、ビル単独で競争力を向上させるには限界があると感じたビルオーナーが、街全体の魅力を向上させるための「まちづくり」に注力している事例は意外に多い。本書に出てくる吉祥寺の事例が、まさにそれだ。 本書は、若者たちが自然と足を運べる、活気溢れるまちづくりの重要性を説く。現在の日本のまちづくりの主流となっている自動車優先のまちづくりの弊害は説得力がある。
一方で、若者に愛される街づくりに成功した国内外の事例も紹介しているが、行政だけの取り組みは皆無である。都市空間クリエーターの浜野安宏氏の著書「人が集まる」(ノア出版)の一節を本書は引用している。いわく「都市や界隈は一人の人間によってデザインされることはない。いいかえれば都市時代に住んでいる人びとのみんながその気にならなければ居心地のいい都市、豊かな界隈は生まれない。自分のものという意識(帰属意識ではなく、自分たちが創りだした、自分たちが共有して育てているという意識)がなければ、いい都市生活をだれかに望むだけでは何も得られない」。
ビルオーナーがまちづくりに果たす役割は大きいと感じさせてくれる一冊だ。