不動産トピックス

不動産ソリューションフェア人気セミナー紙上再現

2015.12.07 16:21

テーマ・これからの不動産に大切なこと~サービス不動産委員会&HEAD研究会 不動産マネジメントTFからのメッセージ~

「箱」から「場」に向かう不動産業界への提言

多様化するテナントニーズに応える個別対応が必要
満足度を得るための顧客志向がビルに付加価値を生む

 単なる「箱」の提供ではなく、付加価値のある「場」が求められている。既存ストックの有効活用が叫ばれる中、テナント・入居者の満足度を獲得するための「ソフトサービス」が必要不可欠。顧客志向を追求する2つの団体が「サービス」について白熱の議論を展開する。

ストック活用時代に必要なサービスの重要性を議論
村田 本日はサービス不動産委員会とHEAD研究会の各メンバーでこれからの不動産について何が大切になるのか、私たちが考えていることを披露させていただきます。HEAD研究会はどちらかというとレジデンス中心。一方、私どもサービス不動産委員会はオフィスビルがメーンです。レジデンスとオフィスという違いはありますが、同じ不動産として大事なエッセンスに多くの共通点があります。まずサービス不動産委員会の活動を報告いたします。
中村 サービス不動産委員会は22年から郵船不動産の旗ふりのもと、サンケイビル、安田不動産、NTT都市開発ビルサービス、その他数社で「サービス不動産」について研究することを目的に活動を開始しました。これからの時代、サービスがビルの付加価値を高めるという仮説のもと、各社の取り組みを共有していくことからスタートしました。具体的な共有テーマは「テナントとのイベント」が挙げられます。各社独自にテナントへのイベントを企画していますが、これらの取り組みを共有してより良くしていくための話し合いを行っています。そして「CSアンケート」について各社がどのような顧客満足度調査を行っているのかを情報共有して、何らかのスタンダードができないかと話し合いを行いました。実際のイベントではテナント参加型のビール試飲会等を実施しており、3日間で約500人が来場しました。ビールメーカーが中心になってイベント運営を行ってくれるので場所を貸すだけでテナントの交流を促進させることができます。続いて地域の夏祭りへの参画です。主催者側の「多くの人を集めたい」という要望と我々がテナントにサービスを提供したいという狙いが一致したことで実現した企画です。よく地域のイベントへの協賛として寄付はするのですが、人的な協力をしないことが多いです。しかし、最近では祭り等へ実際に参加して地域と連携を取ることを重視しています。例えば大丸有エリアでの取り組みですが、子供たちに将来の仕事を体験してもらうというビジネスと地域を結ぶ取り組みに注力しています。また、浜辺のゴミ回収活動として「ビーチクリーン」を企画しました。テナントと一緒に海岸線での掃除活動を通じてコミュニケーションを図ってもらいました。また、テナント担当者のもとへ訪問する際にドアノックツールを持参するようにしています。
村田 「ドアノックツール」というネーミングはとある会員が命名されたのですが、テナントのハートのドアをノックするツールにしようという意味です。その趣旨に賛同した会員で今は共通して使っているのです。こういった形でどんなテナントサービスを行っているのか、どんなCSアンケートのやり方が効果的なのか、毎回テーマを決めて各社の取り組みを披露しあってそのノウハウを共有しています。
奥村 平成26年から参加しています。お客様とのコミュニケーション・サービスの品質をどうやって向上させるか、皆さんの話を聞いていますと非常に多種多様な工夫をされています。例えばお客様に「お近づきになる」ための工夫です。先程のドアノックツールはまさにそのための工夫です。また私がよく使わせて頂くのが、お客様と会う際に相手や自分のオフィスで会うのではなく「外で一緒にお茶でも飲みませんか?」または「防火防災等セミナーへ一緒に行きませんか?」等のアプローチです。一方、精神論的になりますが「クレーム」という言葉を使わないようにしています。私は「ご要望」と言っていますが、日本エイジェントの樋口さんも呼び方を変えていますよね。
樋口 私たちは「お困りごと」です。
宮川 当社では「サービスリクエスト」と呼んでいます。
奥村 このような形で前向きな表現がなされており、お互い参考になります。このような各社の工夫や取組をまとめる作業を昨年中頃から開始し、成功事例を集めた「サービス不動産ガイドライン」の制作に繋がりました。5月の発表以来、かなりの反響がありました。
村田 今日(11月12日)時点で約180社から問い合わせをいただき、できる限りお会いして内容も説明させてもらっています。
奥村 昨年は7社で話し合いをしていましたが今年の参加企業は倍以上、20社が参加しています。9月のミーティングでは約40名に参加いただき、その後の懇親会でも交流を深めました。
村田 ガイドラインはビルオーナーからの問い合わせが多いことは予想していましたが、実はファンドマネージャーやファシリティマネージャー等、同じビル業界でも様々な業務を担当されている方々からの問い合わせが多かったことには驚きました。こうした方々にご参加いただくことでビルオーナーの意見だけでなく、顧客目線のアドバイスもいただけます。ガイドラインの制作期間は約10カ月。単純な事例集ではなく、チェックシート形式でまとめたので、他社とのベンチマーク比較も可能です。優良なサービスを継続して提供していくためには何が必要かということを検討して5項目に絞り込みました。第1に経営層のコミットが必要です。担当者レベルでやっていても会社としての仕組みとしては成り立たないので、経営層がコミットすることがまず必要ではないかと考えました。続いて顧客志向教育です。従業員だけでなく、業務委託者に対する顧客志向教育を継続的に行うことが重要です。3番目に顧客とのコミュニケーションです。4番目はテナントの声を管理して自分たちのオペレーションにどのように生かしていくか。最後はテナントアンケートで年1回顧客満足度を調査するのではなく日常的にお客様の満足度をどう管理していくか。この5つの項目について各社の取り組みをまとめました。例えば、社員のCS教育を行う場合、先輩社員の成功体験を共有させる座談会を開くケースや、テナントとフロントラインで接するBM担当者と顧客志向の目線を合わせてミッションを共有して信頼関係や仲間意識を構築する手法等が網羅されています。奥村さんが力を入れていた項目ですよね。
奥村 そうですね。ネガティブに捉えると建築・不動産業界は受発注が伴いますので、どうしても上下関係ができやすいのですが、なるべく仲間・チーム意識を互いに持つことを進めています。
村田 奥村さんがおっしゃっていて興味深いのは「良いことも悪いことも共有していこう」。クレームでテナントへ謝りに行く時こそBMと一緒に行く等、信頼関係づくりに重要なことだと思います。テナントリレーションも「フェイス・トゥ・フェイス」が基本です。当社では「フェイス・トゥ・フェイス&ハート・トゥ・ハート」をキャッチフレーズにリレーションを行っており、メールを送るよりできるだけ会いに行くことを実践しています。テナントのリフレッシュスペースを開設するビルが増えていますが、単にスペースを作るだけではなく賑わい作りのためのソフトとして当社ではランチコンサートやストレッチ講座等を企画しています。続いてHEAD研究会の紹介をお願いします。
西沢 HEAD研究会は平成20年に東京大学大学院教授の松村秀一教授を中心に結集した一般社団法人です。これからの不動産業界は「箱」の産業から「場」の産業になり、新築を次々と供給する世の中から供給されたものをいかに生かしていくかが問われる時代なってくると考えて各方面の活動を行っています。タスクフォースと呼ばれる11の分科会があり、大学教授や大学院生、設計士、デザイナー、実業家等が所属しております。「リノベーションTF」が最も活動的で北九州市を中心に「リノベーションスクール」を展開しております。特に地方の空きビルの再生を学生から大学教授、あるいはビルオーナーが中心になって徹夜でワークショップを行い、企画案をビルオーナーに提案し、実際にいくつかの提案が事業化しています。続いて私の経営する市萬についてご紹介させていただきます。世田谷の用賀にあり、平成11年に設立しました。不動産の問題解決に特化しており、築年数が古い建物の稼働率を高く維持することが当社最大の強みです。特徴は2つあり、女性の活用とノウハウの蓄積です。社員数24名のうち17人が女性です。次にノウハウの蓄積として特に力を入れているのが空室対策事例集「空無い(あきない)大辞典」です。「飽きが来ない・空きをつくらない・商い」の3つの言葉をかけ、具体例を挙げると「伝わる案内板」では入居者様に対する案内を張り紙にするのではなく、デザインをしっかりしたプレートを作成し、カラーリングもオーナーに選んでもらえます。大辞典に収録しているアイディアは110事例です。
宮川 名古屋からまいりました。住宅、ビル、商業施設の管理をしておりますが、今日は住宅についてお話させていただきます。今、日本全体ではアパート・マンションの入居率は81%といわれております。その中で愛知県下においては83・9%と比較的恵まれた環境で仕事をさせていただいておりますが、弊社管理物件は96%を超える入居率で推移しています。入居率は最もオーナー様の利益に直結することでございます。もちろん賃料を下げないという工夫もあるかと思いますが、最終的には入居率を高めるのが管理会社としての使命かと思います。入居者様と直接触れ合える企画をしようと1年に1回、入居者様に感謝の気持ちを伝えようとクリスマス企画を行っております。クリスマスに当社の社員がサンタクロースやトナカイに扮して、それぞれの入居者様のご家庭を訪問してクリスマスプレゼント券をお持ちしています。そして入居率を維持するためには仲介業者様のお力を借りなければならず、1年の間に成約いただいた仲介業者様を対象に「感謝の夕べ」をやっております。立食形式で当社社員と仲介業者様が顔を合わせることによって非常に緊密な関係が作れ、仲介業者の方にも大変喜ばれている企画でございます。当然、入居者様の満足度を高めることも大事ですが、ともすると仲介業者に顔が向かない管理になりかねません。今年特等でハワイ旅行が当たった担当者様は大変喜ばれてました。
樋口 愛媛で住宅の仲介・管理をやらせてもらっています。大型商業施設に店舗を構えて仲介営業をやっており、松山市内で7店舗。実は中野と品川、東京にも2店舗ございます。当社が大事にしているのは企業理念でございます。「わが社の商品は不動産ではなくてお客様感動満足です」という企業理念を掲げ、会社の方針は「お客様に感動を与えるほどの満足を提供」することです。そうした中で生まれた取り組みが「レスキューセンター」です。「レスキュー隊心得」を作りあげ、困っているお客様をレスキューするため「レスキュー隊」が駆けつけます。使わないのにヘルメットや防刃チョッキを制服として用意しました。こうしたサービスをやっていますとお客様に感謝されることが多く、レスキューセンターに感謝のお便りがどんどん寄せられてきます。実はレスキュー隊の評価は出動回数ではなくてお客様からの感謝のお便りの数等を賞与に反映させております。それから顧客志向で考えると業務効率をアップさせるIT化の取り組みが必要になると思いますが「スタッフレスショップ」という無人店舗を運営しております。ショッピングセンターの5坪程度の空きスペースを有効活用しました。これも顧客志向に基づいた取り組みでお客様に話を聞くと「スタッフがいないからよかった」とおっしゃられます。カップルでご来店されるのでカップルシートを設置する等、ゆっくり部屋探しができるのです。そしてゲーム感覚で部屋探しができるようなシステムにしています。そうすると、お客様の動きが変わりまして、カップルが肩を寄り添い合って部屋を探しているのです。有人店舗ではこうしたことはありません。私どもが取り扱う不動産はアミューズメント性があり、不動産業界の敷居を下げて、よりお客様に楽しんでもらえる工夫ができればと考えています。こうした取り組みが評価されて経済産業省から「中小企業IT経営力大賞」優秀賞を受賞し、ビジネスモデル特許も取得しています。
村田 2つの組織の取り組みを紹介してもらいましたが、共通しているのが顧客志向、お客様の満足度をどうやって上げていくのかという点とハードだけでなくソフトの取り組みでしょう。西島さんがおっしゃられた「箱から場への変換」は同感です。多様化するテナントニーズに応えていくためにはハード面だけの一律な対応だけでなく、ソフト面による個別対応をしていく必要性があると思います。
樋口 顧客志向の考え方にシフトするために大切なのは顧客との接点を多く持つことだと思います。先ほどのビール試飲会の事例は、まさに顧客志向に向けたイベントだと思います。ただコミュニケーションには言われてやる反応的なコミュニケーションと、自ら動く能動的なコミュニケーションがあり、重要なのは緊急度の高い反応的コミュニケーションだと思います。当社の「レスキューセンター」の出動理由には、お客様がカマキリがドアノブにいて怖くてドアを開けられないということがありました。「レスキュー隊心得」に「お客様ができないということは対応して駆けつける」と明記されています。ですから隊員はフル装備で現場に駆け付け、ドアを開けました。間違いなく長期入居に繋がるだろうと思っています。
村田 重要なのは相談が入居者から寄せられるということで疎遠な関係性ならこのような連絡はありえません。従前からコミュニケーションを密にしてお互いの距離が近いので入居者からの声が届くのではないでしょうか。サービス不動産委員会も同じ考えで、サービスは人が提供するもので顧客志向教育をどうやっていくかが大事です。
奥村 例えばお客様から資料をくださいというオーダーが入ってきた場合「ありません」と断ってしまったら話が終わってしまいます。何のためにお客様が資料を使いたいのか、そこまで掘り下げる必要があります。「何に困っているのか、よかったら教えてくれませんか?」という姿勢・気持ちを社員教育でどうやって形成していくか、非常に難易度が高いのですが、意識や姿勢を変えていくことが大切だと思います。
村田 どういう資質を持った人を揃えていくかというのも大事なポイントだと思います。
西島 当社では逆に社員教育ではなくて採用がより重要ではないかと感じています。その答えは女性の活用ではないでしょうか。設備の故障等に対してどうしたら入居者様に迷惑をかけず解決できるか、女性スタッフ同士でロールプレイングをやったり、自分たちで調べたり自発的に対応してくれる。なぜこうしたことができるのか、女性は日々の生活で「お困りごと」を体感しているのです。男性はそういった部分が少なく、女性ならではの原体験がサービスに繋がっていくのではないでしょうか。
村田 コミュニケーションもIT化等のツールを使って「見える化」していくことも必要だと思います。そこについて中村さんは色々ノウハウを持っていらっしゃいます。
中村 コミュニケーションと簡単に言われますが、難しいのは定義付けができていない点です。システムという言葉ですら、組織なのか、制度なのか、誤解を生む経験はよくあります。私どもはコミュニケーションの中身、特に定義付けや認識の共有をいかに円滑に行うかが課題でした。特に技術者は技術があるので言葉による意思疎通が希薄です。テナントからの要望があっても「終わりました」の報告のみで、途中経過等の報告をすることがないという状況もありました。ですから当社ではお客様から来た「問い合わせ」はすべてクレームだと認識してもらうようにしました。そして自分たちで見つけたことは「トラブル」に指定しました。「クレーム」と「トラブル」に定義付けて、報告を怠らないという指導をしています。そして現場には「お客様はトラブルや設備の不具合があっても決して怒っていません。何に腹を立てているのかと言うと連絡の不備や現況が適宜知らされていないということが一番のストレスになる」ことを周知する傍ら、当社では「Eサポート」というシステムを導入しました。これは発信者が常に作業等の進捗状況を確認できるシステムで、効果が上がっていると思います。「見える化」とコミュニケーションの「定義化」がうまくでき、共通認識を持つということが一番のコミュニケーションの基礎だと考えています。
村田 ただ、サービスを提供してどうなるのかという声は意外に多く、空室率がどのくらい下がった等の「見える化」が必要になりそうです。
樋口 サービスを提供するだけでは自己満足になってしまう。真の狙いは何かというと空室対策や入居期間の長期化、退去率の低減といった目的であり、しっかり定点観測をして数値を見ていかないとコストばかり出ていくことになりかねません。レスキューセンターをやる10年以上前ですが、年間の退去率は約20%でした。しかしレスキューセンター開設後は約16%まで年間退去率が低下したのは数字の面でも明らかです。そして平均入居期間は開設前は3・2年ぐらいでしたが、今は3・8年です。こうした成果は管理収入の増加にも直結します。数字で見るとオーナーの役に立ちながら管理収益の増加にも寄与することが確認できるかと思います。




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