不動産トピックス

不動産ソリューションフェア人気セミナー紙上再現

2015.12.14 14:23

グローバル競争が激しさを増す不動産市場より高度な経営戦略が求められる

 東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、コンスタントにオフィス床が供給される予定の東京不動産市場。人口減少・少子高齢化などの深刻な問題を抱える中で、不動産は今後どのような役割を担うべきなのか。市場の現状と、不動産経営者が取り組むべき方策について、今回再現するセミナーをもとに分析して頂きたい。

テーマ・世界不動産市場及び日本不動産市場の展望

金融危機以降の賃料変動と今後の予測

世界の不動産と日本の不動産が置かれている状況
 不動産の賃貸市場について、まずは世界的な主要都市と東京、大阪を比較します。それぞれの市場の一番良い優良なオフィスの賃料をみると、世界で一番高いロンドン、香港と比べると東京をもってしても今は半分強くらいとなっています。大阪に至っては経済規模が大阪よりも小さいシンガポールの半分くらいとなっています。これが何を意味するかというと、安いということもあるのですが、何より多国籍企業の目からすれば特に東京へ進出してオフィスを構えるということに関して賃料による過度な負担はない、ということです。以前は東京が一番高いような時代もありましたが、その時よく言われていたのが「東京はオフィスコストが高い」、「労働賃金も高い」、「オフィスを構えるのが大変」ということです。そういった時代もあったのですが、今はオフィスコストからみると東京はそれほど高くはなく、むしろ進出しても良いのではと思われる状況にあります。
 世界の主だった都市のここ数年の賃料変化を見てみます。東京もそうでしたが2007年、2008年前後に賃料のピークを迎えています。その時の数値を100として指数化してインデックス化し、その変化を見てみますと、概ね2007年の後半か2008年の前半にピークを迎え、その後リーマンショックでおしなべて下がっています。それがその後どう変化したかというと、それぞれ全く違います。
 例えば香港ですが、金融危機、リーマンショック後下がったもののいち早く回復の軌道に乗っています。というのは、当時世界経済をけん引したのは中国や東南アジアといった新興国でした。香港は中国の出入り口として機能していますので、その経済の良化が香港のオフィスマーケットの賃料を押し上げたということです。2011年以降、初回のユーロ危機もあってヨーロッパの国々と関連深い香港は賃料が下落しています。ただ、逆にまた最近上がってきており、現在がおよそ89%ということです。
 ロンドンも金融危機以降早期に回復したところで、2011年のユーロ危機の際にフラットな時期を経たものの、2012年にはロンドンはオリンピックもあって回復しだして、また上昇しています。ロンドンだけ見ると2007年のピーク時を超えて104%になっています。ニューヨークも規模の大きな経済圏ですが、少しずつ上がって来ました。アメリカでは金利を上げるということも報道されていますが、基本的に経済良くなっています。現在83%です。
 東京はどうなのかというと、徐々に下がって2011年に東日本大震災という予測できなかった自然災害に見舞われたということもあり若干回復がずれたということもありますが、我々の調べによりますと2012年の後半から2013年、2014年と少しづつ上がっています。今も上がってはいるのですが、前回のピーク時から比べると66%と他の都市から比べるとまだまだ低いです。これは海外投資家が見ると東京は上昇の余地が残されているのではと魅力的に見えます。
 我々は今の賃料のありどころを示す「不動産時計」というイメージ図を発表しています。12時をピークとすると、3時のところで下落のピークとなり、その後回復に向かって、6時のところが賃料の底です。そこから賃料上昇に転じ、9時になれば賃料上昇幅のピークを迎え、その後12時にむかって上昇幅を減じながらも上昇を続けて最終的にはピークに戻るという時計です。これを世界の都市にあてはめてみますと、東京は今9時前、8時半といったあたりで、上昇率のピークを迎えつつあるという状況です。大阪も去年の末ぐらいにやっと6時を過ぎ、いまは7時のところにあります。主要都市ですと香港やロンドンは上昇率のピークにあります。ニューヨークも8時過ぎにある。逆にシンガポールをみるとピークを過ぎて下落に入りました。シンガポールは経済はそれほど悪くないのですが、ビルの新規供給も多いので下落に転じています。
 次からは東京のマーケットにフォーカスします。東京のAグレードオフィスの都心5区の平均で見ると共益費込みで平均賃料は坪3万4688円です。これは第3四半期末なので9月末現在の数字で、前四半期比で概ね0・7%の上昇となっています。前年同期比では4・3%です。空室率も3・3%と低く、4~5%がバランスのとれたマーケットだという認識がありますが、それを割り込んでいるので当然賃料は上昇の過程にあるということです。前回のピーク時よりも非常に緩やかな、適度なレベルで上昇しているという状況です。もう少し細分化したサブマーケットごとの賃料なのですが、ここでお伝えしたいのは丸の内・大手町です。このエリアの平均賃料は坪4万3000円ですが、上昇率は他の平均よりも高く、年間ではおよそ6%強と非常に賃料が上がっているところです。空室率は1・2%ということで既存のビルでまとまったスペースというのはこのエリアにあまりありません。ある程度のスペースと要望される企業はこれから竣工する新しいビルしか選択肢がないというような状況です。他のサブマーケットもそれぞれ上がってはいるのですが、空室率は低く上昇率は概ね年間5%程度というような状況です。
 では、今後どうなるのでしょうか。2000年以降のAグレードオフィスの供給量とそれがどれだけ埋まったか、空室率をみると、2003年問題などと言われた当時には80万m2以上年間供給されました。今年はどうなのかというと27万m2程度と、それほど多くはありません。来年は47万m2程度と、ここ3年の供給量は少なかったのですがそれより多い水準です。2017年は工期の遅れや開発計画の先送りがあったため少なく、2018年・2019年に先送りされており、結果的に2018年、2019年が供給量が多いということになっています。ですので、これからの賃料の予測にはこのあたりがマイルストーン、つまり分岐点になるのかもしれないということが容易に考えられます。
 今後の新規供給ビルのリストをみると2018年、2019年というのは多いのですが、色々なエリアで供給があります。千代田の連鎖式の開発がまだ続いていますし、港区も多いです。来年にはJR東日本が「新宿」駅の南口に竣工させる「新宿ミライナタワー」や住友不動産の開発する大久保でのビルもあります。渋谷は今後数年供給がありません。渋谷はいま本当にタイトで空室が無いので、この状況がまだ続くのでしょう。賃料も4万円位のところも出てきており、そのあたりはこういう状況であるため今後も変わらないのかも知れないということです。今年や来年に供給される主だったビルは既に予約契約が入ったりして良い状況にあります。2016年は若干供給が増えるのですが、GDPの成長率も1・5~1・6%想定されているので、その供給を消化するのではないかと我々は見立てています。
 2013年、2014年と少しずつ上がってきたところで、では今後3年でどうなっていくのかというと、これからも上がると予測しています。2017年には消費増税など色々気になるイベントはありますが、供給量が少ないので上昇トレンドは変わらないでしょう。空室率も3%台で推移するのではないかというのが我々の見立てです。



テーマ・ビルオーナーが知っておくべき管理会社との付き合い方

ストレスのない管理会社との付き合い方を伝授

管理会社とパートナーとなり長期間のビル経営を目指す
本日はビルオーナーが知っておくべき管理会社との付き合い方についてお話しさせて頂きます。今回のセミナーでは管理会社や管理担当者との付き合い方にお悩みのあるビルオーナー様または新しい管理会社へ変更するということを考えているオーナー様を対象としております。
セミナーの目的としまして、管理会社と良いパートナーとなることができる上手な付き合い方というのをお話ししたいと思います。
管理会社の不満としてはよくあるのは、最初は営業でいいことをおっしゃっていたのに、実際にお願いすると最初の説明とは違っている。そのほかにはいろいろ相談しても聞いてくれないとかやってくれない。あとは説明が足りず勝手にやる等もあります。 ビルメンテナンス系ですと、工事や新しい設備とかの提案がやたら多いなどが挙げられます。
賃貸管理の場合は、住居系の場合に普通の賃貸管理だと問題が多くて、入金管理ができていないだとか、入居者のトラブルに対応ができていないだとかあります。オフィス系の場合はどちらかというとリーシングにかかるところが不満になりがちでして、オフィス系のなかなか内覧がこないだとか、広告宣伝費の増額ばかり言うとか、逆に前向きな提案を何もくれないなどがあげられます。管理会社への不満を感じるというのは、言いたいことを言えないからです。それは、まず専門知識が管理会社のほうが豊富ですから、何か言うことが難しく感じます。そして、管理会社のほうはオーナーをあしらうスキルがあります。通常、オーナー側は多くの管理会社と付き合っていませんから、どのように付き合っていくのかという経験からくるノウハウを管理会社と比較して圧倒的に持っていません。そして、管理会社のビジネスがこういうものだと分かっているのと分かっていないのでは、大きく違います。そこで管理会社とストレスなく付き合うために、管理会社のビジネスを理解したうえで、オーナー側としての意思を伝える方法というのをお話ししたいと思います。
管理会社のビジネスとして理解したいのは、固定の管理費と工事や賃貸仲介でのアップサイドで成り立っていることです。つまり工事や設備販売というのは管理会社にとっては当然のアップサイドの営業努力なので、ある程度は仕方ないと考えると、付き合いが楽になります。
オーナー側として注意したいのは、例えば建物管理費などの管理費を圧縮をしたいからといって新しい賃貸管理の業者を選ぶときに単純に建物管理の固定費を下げることだけを考えると、安い建物管理費を提示する管理会社は工事で回収しようと考えています。単純に管理費の金額だけでは計れないところがありまして、建物管理の場合は清掃等の人員がかかっているので、コストがかかります。管理会社のほうは固定費によって収入が決まっているので、彼らの想定以上に仕事が増えると管理会社にとって負担です。ある程度の業務量を想定して設定している管理費に対して、業務があまりにも増えてしまうと管理会社の負担になります。 管理会社のコミュニケーションに関しては、定期管理ミーティングをきっちり決めておくことが一番です。定期ミーティングをしっかり活用するにはオーナー側が事前にこんな事を話し合いたいということを、例えば一週間前にファックスで入れておくと管理会社も考えてくることもできますし、終わった後に議事録という形で出してもらうとお互いの意思疎通を確認することができます。こういう定期ミーティングでコミュニケーションがしっかりできるようになると、深い話が落ちついてできるようになってきます。
次にビルメンテナンスに関しては、工事に際しては、管理会社だけではなく必ず複数社の提案というのを聞いてみられることをおすすめします。専門家によって意見が異なってくるので、良い悪いではなくいろいろな意見を聞いた中で冷静に比較検討をしたいのです。管理会社に遠慮は必要ありません。実際のところ管理会社に決まることは少なくありません。建物のことを良く知っているので内容も良く、コスト的にも納得できる提案は、管理会社が出してくることが多いです。それでも管理会社の提案をそのまま受けるのではなく、オーナーとして数社の意見から一番良い意見を選ぶことが大切なのです。ちなみにこのときに、相見積というものはまずおススメしません。
 見積書でチェックするべきところは項目、数量、単価と3つあって相見積もりは単価しか比較できません。相見積もりをしても、いらない項目がたくさん入っている。または数量のほうをすごく付加してりしていても相見積もりだとわかりません。やっぱりまず意見をきいて、話をしたいと思える業者をある程度しぼったうえで、見積もりをもらって、その中で項目数量単価をそれぞれ見るようにすることをおすすめします。
 これまでの事を簡単にまとめますと、大切なことはとにかく複数の業者から意見を聞く。オーナーの事を考えてくれている管理会社でしたら、良い意見を出してくれます。オーナーとしては複数の業者から意見を聞くことは絶対にやるべきです。  賃貸管理に関しても、なるべく複数のリーシング業者にオーナー側から声をかけることをおすすめします。オーナー側としましては、競争原理を働かせるに限ります。業者にも勢いがありますから、複数の賃貸管理業者に声をかけてみると、より勢いのある業者がわかります。たとえば、駅前で新築といった誰でもわかる強みがあるビルはいいですが、そうでないビルオーナーさんの場合は、物件の良さやどんなテナントが入居するだろうかを理解してくれる賃貸営業業者さんのほうが、より効率よくテナントが決まります。賃貸営業業者に理解してもらわなければ、優良テナントはなかなか決まりません。
ここまでの管理会社との付き合い方のコツをまとめますと、コミュニケーションはルール化をしてお互いの負担を減らす。工事は管理会社だけではなく、他の業者からの意見も聞く。リーシングに関しても競争原理を上手に働かせる。
それでも管理会社に不満がある場合には、まず担当者の変更が最初の手段ですが、管理会社の規模によっては他に担当者がいない場合や他に問題ある場合は、ほかの業者を探すことになります。
私も大手の管理会社がよいのか、地域型の管理会社がよいのかとよく聞かれます。
 これは、などちらがよいのかとは一概にはいえませんが、大手の場合は層が厚いので、担当者の変更がしやすく、大きなトラブルがあったときもそれなりの対応をしてくれます。ソリューションのほうでも、最新型のシステム等を入れたいと考えているビルでは、大手さんでしたらノウハウなどがありますので、強みがあります。
ただ、担当者は全員サラリーマンです。営業はかなりあります。そのようなことを気にしなくて、相談したい内容に特殊なものがあるなら大手さんは強みがあります。
 一方で地域の管理会社は、細かいところまで目が届き、深く付き合うことになると、いろいろな相談ができる良さがあります。しかし担当者次第といったところもありまして、最初の担当者は良かったけど、辞めてしまって次の担当者がいまひとつというのはよくあります。それぞれに良さがあるので、好みにあった選択をして頂きたいと思います。
どちらにしても新しい管理会社を選ぶ時には営業担当ではなく、管理の担当者に合わせてもらうということは重要です。
管理会社を選ぶときに加えて気にしたいのが、バックオフィスの体制です。どういう背景の会社なのかということ、何か工事をやるときに自社でやることになっているのか提携なのかがありますし、情報や会計の管理もきっちりしているのかというところもきっちりチェックすることをお勧めします。
管理物件数もチェックします。新しい会社の場合は設立経緯をチェックします。。どういう背景でどのような考えでその会社を設立したのか、そういうところをよく確認すると管理会社を選ぶ参考になります。
とにかくビル経営は一人ではできないものです。自主管理をやっていてもやっぱり最低限の法定点検ですとか、工事点検、水道の工事、リーシングは必ず専門の業者に動いてもらうので、そこを取りまとめる管理会社もしくは動いてもらう人間というのはビル経営の大切なパートナーになります。やはりパートナーなので、お互い対等な関係でないと難しいです。専門だからなんとかしてくれるだろうと甘えるだけでは対等な関係になりません。対等なパートナーとなる管理会社を選び、そして選んだ管理会社は自分のパートナーとするつもりで腹をくくって、お互いの損得とかではなく、お互いのビル経営のために良い付き合いをしていくぞという心構えでやっていくと、本当に良く付き合えるようになります。しっかり業者を選んで、しっかり建物をメンテナンスして、空室が出ればリーシングをしてテナントを入れいけば、賃料収入は続きます。建物にテナントが入って収益が続いている限り、ビルは築50年でも100年でももちます。そういう経営をお勧めしています。

テーマ・事業会社が所有するビル経営の極意~これまでのビル経営からの脱却方法~

立地するエリアのブランドイメージがビル経営のテナント営業の指針となる

7年サイクルで変わる市場 今こそ必要なCRE戦略
 本日は、主たる事業が別にありながらビルなどの不動産を保有し、そのどちらも経営を良くしようとお考えの方に向けて話を進めさせて頂きます。1983年(昭和58年)から今年までの地価の推移を見ますと、バブル期の地価高騰が顕著であることが分かります。また、2000年(平成12年)と2001年(平成13年)、2005年(平成17年)から2008年(平成20年)、そして現在と、バブル崩壊以降の東京では3度地価の上昇がありました。その契機はバブル崩壊以降で4度あり、日本の地価はおよそ7年サイクルで転換を繰り返しています。前回の地価のピークが2008年であったことから、7年サイクルで考えますと今年が地価に関する何らかの転換点になると推測できます。今般の不動産市況の回復は2012年(平成24年)8月でしたので、次に不動産市況が回復傾向になるのは2019年(平成31年)の夏から秋にかけての時期がポイントになると思われます。現在の日本は概ね7年サイクルで不動産市場に転換期が訪れていることを、まずは知って頂きたいと思います。
 CRE(企業不動産)という言葉は、2000年台後半から徐々に浸透し始め、2010年(平成22年)に国土交通省が発表したCREに関するレポートもその後押しとなりました。そして直近は再びCREが注目を集めつつあります。不動産を活用することによって企業価値の最大化を図るCRE戦略は、企業の経営安定化を不動産を通じて行うものです。売却や有効活用といったCRE戦略に関する具体的なアクションがありますが、企業経営上に必要な不動産の取捨選択を行いながら主たる事業とのシナジーを生み出す不動産の有効活用が、CRE戦略におけるポイントであるといえます。多くの老舗中小事業会社におかれては、主たる事業以上に恵まれた立地に賃貸不動産を保有し、収益を生み出しています。私自身これまでCRE戦略についてのコンサルティングを数多く手掛けてきましたが、事業経営と不動産価値の双方をどのように高めていくかを考え、同時に財務的な視点からもアドバイスを行ってきました。その中には、主たる事業から不動産賃貸業に主力事業を転換しようと考える事業会社もいました。しかしこれは本来のCRE戦略の考え方とは異なる考え方であり、どちらの事業も経営の安定化を目指すという考え方に基づいたコンサルティングを行っています。
 私がコンサルティングを手掛けたCRE戦略の具体例を挙げますと、首都圏郊外で流通小売業を展開する企業が複数の不動産を保有し、流通小売業の今後を考慮しながら、CRE戦略をどうすれば良いか相談を受けました。そこで私は不動産の用途を組み替えるなどして流通小売業と不動産賃貸業、両方がより良い収益を生み出せるよう方策をクライアントと考え、現在は不動産の賃料収入がアップし、また本業の流通小売業も昨年比で売上25%アップを達成しました。別の事例では、西日本に拠点を置く紳士服店が建物の1・2階を自社の店舗として使用し、その上を賃貸して得られる賃料が収益を下支えしている状況でした。建物は築30年以上が経過していたことから、OAフロアの見直しや貸室をマンションデベロッパーのモデルルームとして使用できる仕立てにするなど、複数のパターンを考えることで賃貸フロアの稼働率を向上させることができました。主たる事業の収益よりも不動産賃貸業の収益が多い事業会社は多いと思いますが、建物の経年化に伴ってバリューアップが必要となってきます。ではどの点をバリューアップすれば良いのでしょうか。ここからはビル経営にマーケティングの概念を取り入れたバリューアップについてお話しします。
ビルの経営改善に必要なマーケティングの概念
 マーケティングの概念には、大まかに3C(顧客・自社・同業他社)と4P(商品・価格・販売場所・販売促進)という2つの枠組みがあります。しかし、ビル経営にマーケティングの概念を取り入れることは容易ではありません。その理由は、ビルは建物の形状やデザインの多様性に乏しく特徴づけがし難い点、市場が景気に左右されやすいという点が挙げられます。賃貸住宅と比較しますと、賃貸ビルは賃料のボラティリティ(価格変動性)の振れ幅が大きく、空室も入居企業が移転した際にインパクトが大きいという特徴があります。また、賃貸ビルは競合相手が不明瞭で、企業が賃貸ビルのどの点を比較しているのかが掴みにくいことも非常に重要です。一般的に流通小売業などではマーケティングの際にまず商圏設定を行うのですが、賃貸ビルでは商圏設定が困難です。流通パターンや販促手法が限定的であることも、賃貸ビル経営の他とは異なる大きな特徴といえるでしょう。
 具体的に、競合物件・自社物件・市場環境の調査について解説します。まずは物件情報の収集を行い、それぞれの物件が自社物件とどの点で競合するのかを分析する必要があります。例えばエリア内の各物件の賃料と駅からの距離の関係を分析することで、平均的な価格を算出することができます。この平均価格に個別の物件の特性を加味した上で、理論上の適正な賃料設定を行うことができるのです。加えて、競合物件との比較という視点だけではなく、自社物件の定点観測も物件の価値を正確に計る上では重要です。市場において自社物件はどの点に強みがあり、どの点が弱点なのかを客観的に知ることが、マーケティング理論に基づくビル経営の第一歩となります。
 強みの部分については効果的な販促活動を行うことでより効率的に顧客に対して訴求することができますが、弱点の部分についてはそれを隠すのではなく、代替となる要素を提示できる環境を構築し、弱点を補うことが求められます。エリア内における賃料の最高物件と最低物件を割り出し、自社物件との違いや特徴などの分析も、原始的ではありますが自社物件の客観的な評価に役立つものと考えています。市場調査については、大手不動産仲介会社などが公表している各種データを収集・分析することで、その時々のマーケットの動きを把握することができます。また、当研究所においては本年6月、2000名を対象に市場調査の一環としてオフィス立地のブランドイメージの調査を実施しました。自社物件が立地するエリアの客観的な指標として、市民がそのエリアに対して抱いているイメージを知ることは非常に重要です。今回の調査によれば、都心で憧れのイメージを持たれているのが丸の内エリア、どの分野でも人気を集めているのが日本橋・銀座エリアということが分かりました。エリアのブランドイメージに則したビルのプロモーション活動に注力することによって、自社物件の入居候補となる企業への効果的な営業活動が実現するのではないかと考えています。




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