不動産トピックス

第18回不動産ソリューションフェアセミナー再現

2016.11.21 12:41

 これまでのセミナー再現はパネルディスカッションを中心に行ってきたが、今回は単独セミナーをピックアップ。築古ビルの経営判断の基準や、税金、また司法書士による最新の法律、裁判事例などだ。第一線で活躍する専門家の見解に対し、多くの聴講者にとって自らの不動産経営の参考になったところだろう。あいにく当日、来場できなかった読者のために、これら白熱セミナーの内容を再現しお届けする。

「築年が古いビルを見直す3つの選択、そのポイント」
講師 リアルエステート・アドバイザーズ 代表取締役社長 釜口浩一氏
 本日のテーマのイメージは築20~30年のビルやマンションを想定しています。なぜそのような建物をテーマにしたか。振り返ると、今から20~30年前はバブル真っ最中です。築25年のビルを考えてみましょう。25年前、私はある会社の不動産部門で全国の市況を見ていましたが、当時は活況を呈していました。しかし、その後、バブルは崩壊しました。社会状況、地域の状況は大きく変化しています。そしてビル自体も変わります。建物も古くなります。加えて周りに新しいビルが建設されているならば、それらと見比べて見劣りするようになってしまう。そのとき3つ選択肢があります。現状維持、用途変更など大幅に変えること、そして動機は様々ですが売却することです。この3つが選択肢になります。では選択する手順はどうか。基本は更地に建物を建築するときと同じです。違うのはすでに建物があって使っていることをどのように考えていくかです。まず不動産のある地域がどのような状態になっているか、そして将来的にどのようになっていくかをオーナー自身が調べて判断することです。立地と敷地に関しても重要でしょう。それでは既に建物があるときはどうか。これは制約条件となります。建物は老朽化している部分が多く、手を入れる必要があります。その範囲によっては既存不適格の話が出てきます。また用途を変更しようと考えても、現在の設備や構造が変更できるのか、変更しても高額な費用がかかるのであれば、収支的に用途変更は無理になるというケースもあります。そして満室稼働しているなら今のテナントの立ち退き等の問題もあります。このような制約条件が既存物件にはあります。ではどのように実行していくか。まず期間としては10~20年は計算しておくべきです。賃料収入、金利がどうなるかはわかりませんが、これはいくつかのパターンを考えておくべきでしょう。ではそれぞれのケースで何に注意すべきか。「現状維持」の場合でも何らか手を入れる必要があります。今後、どの程度稼げるかで投資金額も異なってきます。ただ賃料だけでなく空室率の兼ね合いも出てくるでしょう。用途変更や改修で変えるとなったとき、今の構造・設備でどこまで対応できるのか、オフィスをマンションにするなどの場合、どこまで変えなければならないのかと、稼働率が高ければ今のテナントをどうするか、スケジュール感を含めて重要になってきます。また建替えると容積率の違いで今の大きさにできないということもあります。加えて、共同事業になりますので、組む相手を真剣に検討しなければなりません。また「売る」という判断においても得たお金をどうするか。他の投資をするのであれば、賃貸事業を継続したほうが収益的にいいかもしれません。企業であれば、他の事業の赤字の補てんのために「売る」という選択肢もあると思います。このような基本を再確認することで、より適切なビル経営のための判断を行って頂ければと思います。

「相続性の仕組みと相続対策~不動産オーナーの注意点~」
講師 渡部会計事務所 税理士 渡部和広氏
本日は相続税についてお話しいたします。ちょうど自民党などで税制改正大綱が作成されているところですが、法人については減税、個人については増税という傾向があります。相続税の計算ですが、取得財産から債務、葬儀費用を引き、さらに基礎控除を引く、残った額が課税遺産の総額となります。そこに対して相続税がかかります。法定相続割合がありまして、配偶者は2分の1、子どもはそこから人数によって分割するということになっています。法定相続割合はあくまでも税金の計算であって、実際に相続するのは法定相続に従わなくても構いません。相続人の間で同意があれば自由ですが、それによって税額が変わることを念頭に置いておいてください。実際の総支払額は配偶者の相続額によって決定します。では配偶者がすべて相続した場合はどうなるのかといいますと、1次相続時には支払う額が安くなりますが、配偶者が亡くなった時の相続額が大きくなります。相続税には特例がありますが、例えば小規模宅地の特例には3種類あり、特定事業用の宅地の特例、特定居住用宅地の特例、貸付事業用宅地の特例があります。次に相続対策についてです。生前に相続対策した場合には贈与税が発生します。生前に財産分与をしたいという相談を受けますが、贈与税の実効税率が相続税を下回る場合は生前贈与をしたほうが良いです。ただし贈与には一括と分割がありますが、累進課税を適応しています。また、将来の税制改正や財産価値の変化については贈与税では織り込むことはできません。贈与時には贈与契約書を結ぶことが重要です。民法上では口約束でも結べますが、証明ができないので、きちんと贈与契約書を残しておくべきです。分割の場合は一括分の税を請求される可能性もあるので、毎年契約書を交わしておくことです。相続対策として賃貸住宅をという話もありますが、相続税のみを考えると建てたほうが安くなります。相続時精算課税の利用事例ですが、2500万円までは贈与時の課税はありませんが、被相続人が亡くなった場合に課税が発生します。相続時の価値で評価されるので、将来的に価格の上昇が見込めるならメリットです。ただ一度適用すると、普通の贈与税の課税には戻れません。ほかにも制度はあります。ここから相続対策としての不動産活用の効果について話していきます。単純に相続税を少なくするメリットがあります。一方で空室、換金性、共有にした場合のリスクについて考える必要があります。法人設立についてですが、相続者を役員にすることで報酬や被相続人に退職金を払うことができます。また、所得税も累進税率なので、所得分散をすることによって税を安くすることができます。法人名義で社宅として利用や生命保険にも加入できます。デメリットとしては設立費用がかかる。赤字が発生した場合でも法人税を払う必要がある。社会保険への加入義務や登記の必要があります。不動産の管理方式には管理委託方式、サブリース方式、不動産所有方式の3つがありますが、それぞれにメリット、デメリットがあるので保有不動産に一番適しているものを選ぶことが大切です。私の考えはまず相続税の金額、次に相続人の争いを防ぐことを考えるべきです。税額を安くすることは最後に考えるべきです。

「起業ブームの裏で増え続けるテナントトラブル 明け渡し交渉のプロが教えるトラブル解決術」
講師 章司法書士法人 代表司法書士 太田垣章子氏
 ビル経営という枠組みだと、借りられる方は法人が圧倒的に多いと思います。一昔前は「法人であればしっかりしている」という印象があったと思いますが、今はそういったことはありません。平成18年に法律が改正され、簡単に会社を作ることができるようなっているからです。今は役員1名で会社を作ることができ、また、資本金も株式会社は1000万円、有限会社は300万円を銀行の別段預金に1週間程度寝かせたうえで保管証明書を発行してもらうことが設立の申請に必要でした。がいまは通帳のコピーで済ませることができ、また資本金はいくらでも構いません。こうした状態なので、会社が存在するということは何の信用にもなりません。会社が簡単に設立できるのと同様に売買も簡単に行うことができます。とくに有限会社は平成18年以降新規に作ることができなくなっているため、「有限会社=古い」ということで価値を持ち、売買の対象となっています。休眠状態の会社を高値で売れるということで売却する方は多いため、会社の設立年月日はあまりあてになりません。では、オフィスを貸す際にどういった審査の添付書類を見るべきかというと、まず履歴事項を挙げることができます。こちらのどこをチェックするかですが、まず手元に届いた書類が「履歴事項全部証明書」であるかを見てください。もし手元に届いたのが「現在事項全部証明書」であれば注意が必要です。「現在事項全部証明書」には今のことしか書かれておらず、意図的にこちらを提出している可能性があります。例えば、過去に問題のある役員がいたことがあり、それを隠すために「現在事項全部証明書」を提出してくることがあるからです。次に、会社の法人番号についてです。こちらの最初の4ケタは法務局の番号で次の2ケタは会社の種別を表しています。そこから先が会社の法人番号となります。こちらには会社の設立年月日が書いてありますが、会社の5年存続率が14・8%、10年で6・3%、20年で0・4%と言われており、設立20年の会社というのは250社に1件しかありません。ですので、こちらを確認してどの程度存続している会社なのかを見るということは一つの基準にはなります。ただし、売買によって「歴史はあるものの実態はできたばかりの会社である」ということもあります。次に役員についてです。役員の任期は原則2年とされていますが、平成18年以降、一定の縛りはあるものの任期を10年まで伸長することができるようになっています。2年以上役員改選されていない会社は登録のために必要な費用をケチっているか、動いていない会社か、役員の任期を10年にしているかのいずれかになります。2年以上役員が動いていない会社であれば、任期が何年に定められているのかきいてみることで色々なことがみえてきます。一番重要なのが、登記記録に関する事項です。どこかから本店移転している会社には注意が必要です。本店移転をすると登記に新しい情報しか載らないので過去の履歴を隠すために本店を行うことがあるからです。本店移転の記載があれば、必ず以前の本店の閉鎖事項を取ってください。




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