不動産トピックス
ホテル運営会社次の一手を探る
2017.09.11 13:06
ホテル運営上でもIoT化の波が押し寄せている。スマートフォンにインストールしたアプリ一つで、客室の鍵の開閉はもちろん、テレビ・エアコン・照明のまでをコントロールできる。近未来型の宿泊体験ができる客室が増えているのだ。
ビジネスホテルに「IoTルーム」 スマホ1つで室内設備操作が可能に
「ニューコマンダーH」客室をリニューアル
先日、客室のリニューアルを施した、大阪府寝屋川市に位置するビジネスホテル「ニューコマンダーホテル」。新たに設置したコンフォートツインルームが話題になっている。
この客室は、ベッドルームと入口スペースを間仕切ることで、よりプライベート感のある空間を提供するとともに、マルチラススーパースプリングが、身体にフィットし、「心地よく、自然で快適な眠りを提供する」FranceBed社製の「ホテルベッド MBデラックス」を採用。携帯、スマートフォンの充電に便利な枕元の電源「枕元コンセント」や「充電用USBポート・コンセント」の導入、定量止水付サーモ水洗、節水シャワー、清潔機能、エコ機能が充実した最新型温水洗浄便座など最新の設備を配置している。
しかし何よりも大きな特徴になっているのが、「IoT ルーム」であるということ。これは室内の様々な設備を専用アプリケーションを搭載したスマートフォンで一元的に操作ができるもの。
「例えばドアの開錠はもちろん、照明をシーンによってお好みの明るさや色に設定したり、目覚まし設定時間にあわせてカーテンを開けたり、快適な室温に設定したりと、お部屋に関するあらゆることがスマートフォン(スマホ)一つで操作できるのです」(堀田逸平社長)
具体的には、Qrio社製のスマートキーのほか、フィリップスライティングジャパン社製のスマートLED照明を採用。この照明はスマホによって、用途によって調光や1600万色以上もの調色ができるもので、タイマーを使えば、光の目覚ましにもなる。また、設定した時間に自動でカーテンを開閉できる「mornin」の導入、TVやエアコン、空気清浄機など赤外線リモコンであれば学習させる事が可能で、室内の温度・湿度・照度も計測可能な高機能リモコン「iremocon」の採用など。
鍵・エアコン制御カーテンの自動開閉
「&IoT」と呼ばれるこのシステムを開発したのは、and factry(東京都渋谷区)。IoTデバイスを連結させ、統制・制御するプラットフォームだ。「&IoT」アプリひとつで、客室に設置している照明、TV、エアコンの操作・制御や、部屋の鍵の開閉、目覚まし、モードの設定など、あらゆるデバイスの操作が可能になる。
これまでは複数のIoTデバイスを制御しようとした場合、それぞれのデバイスごとに操作アプリが必要だった。
しかし「&IoT」は、各デバイスを連携させ、個別の操作アプリを介さず、「ひとつのアプリで操作可能にすることで、より直感的な操作性、利便性を実現するものです」(飯村洋平執行役員CMO)。
and factryは昨年8月、福岡市で日本初のスマートホテル「&AND HOSTEL」をプロデュースしており、このホテルに「ニューコマンダーホテル」の堀田社長が実際に宿泊し、「部屋自体がエンターテイメント空間で、宿泊体験を観光目的の一つとして楽しめる近未来の宿泊施設として興味を持った」ことから今回の導入になったもの。
リニューアルに当たっては、「&AND HOSTEL」のものをほぼそのまま採用したという。ただ、ポイントはシステムが同一IPでないと制御できず、有線でしか安定稼働しないため、有線を引く必要があること。これがクリアできれば既存のホテルでも「IoT ルーム」を導入することが可能だ。
and factoryが開発システムの外販へ
「ニューコマンダーホテル」ではリニューアル以降、ホテル業界内で大きな話題になり、国内外の宿泊希望者はもちろん、同業者からの見学希望も絶えないという。
and factryにとっても、今回の「IoT ルーム」の導入は初めての外販であり、今後も「&AND HOSTEL」で培った設置、運用ノウハウ提案、導入促進を進めていきたいという。今後は客室だけでなく、客室内でのエンターテイメント体験、別館大浴場やレストランなどの共有施設のIoT化を共同で進めていく計画だ。
「当社は既に『&AND HOSTEL』を福岡のほか、上野、浅草と、いずれも美術館や博物館などの文化施設や、活気のある商店街と、外国人観光客に人気の高いエリアを選定して運営しており、順次全国展開していく考えです。今後はメーカーと一緒に機器の開発も行っていく考えです」(and factry 飯村氏)
同社によれば、「&AND HOSTEL」は単なる宿泊施設としてだけではなく、「日本のIoT技術力を世界へ発信するプレゼンテーションの場」、「IoTデバイスの技術開発・実証実験の場」「IoTプラットフォーム構築の研究・改善の場」として位置付けており、多くの結果を収集するために多店舗化を早急に進めていきたいという。
そのため同社は、このスマートホステルブランド「&AND HOSTEL」の多店舗展開していくにあたり、マザーズ上場会社のAMBITION(東京都渋谷区)と業務提携を締結、物件開発を共同で行っていく。両社のコラボレーションによって、新たな取組も実施していく予定だ。「&AND HOSTEL」をこれまでの宿泊施設の概念を超えたIoTを基軸としたスマートホステルブランドとして更に成長させていく。
アルメックス 簡宿運営をITでサポート
ホテルシステム大手のアルメックス(東京都港区)は、カプセルホテルやホステル、民泊など新たな宿泊施設向けにローコストオペレーションシステム「E-stay system」を提案している。
これは、既に提供している「ホテル管理システム」「自動精算機」「VOD」といったクラウド型IOTソリューションを組み合わせたもの。今後は簡易宿泊施設向けのPMSをリリースしていく計画だという。
同社は、ホテル管理システムはもとより、電子宿泊帳、自動精算機、テレビインフォメーションシステム、IPカメラなど、様々な商品・サービスを用意しており、これらを組み合わせにより、各施設にあったソリューションを提案できるのが強み。
例えばカプセルホテルに対しては「集客・売り上げ管理」、「名簿の電子化」、「チェックイン・アウト」、「セキュリティー向上」、「インフォメーション」、「インバウンド」などについて、省人化・省力化オペレーションを提供する。
アルメックスはUSEN子会社で、医療機関やビジネスホテル、レジャーホテル、飲食店、ゴルフ場などに向けた自動精算機、受付やフロントの管理システムと、周辺業務の効率化を目的としたトータルソリューション製品・サービスの企画・製造・販売等を行っている。
インバウンドの増加とともに、今後も宿泊施設は増えてくることが考えられる。都心部では特に既存ビルをコンバージョンしてカプセルホテルにするケースも増え、ニーズは高まっている。
TKP ファーストキャビンとの協業加速
ティーケーピー(TKP東京都新宿区)ではこのほど、本社兼「TKP 市ヶ谷カンファレンスセンター」(東京都新宿区市谷)である「TKP市ヶ谷ビル」本館の一部と、新たに賃借した別館をコンバージョン、会議室併設型コンパクトホテル「ファーストキャビンTKP市ヶ谷」を開業する。着工は2017年9月、開業は2018年4月を予定。
同施設は本館と別館を併せ延床面積約1767㎡、165室(予定)の客室の他、ロビーラウンジ、大浴場などを備える。本館の一階一部と地下部分をフロント、女性専用キャビン、大浴場にし、別館と渡り廊下でつなぐ。別館を男性用キャビンにする計画だ。コストはおよそ6億円。
TKPは昨年、独自の「キャビンスタイル」ホテルを展開するファーストキャビン(東京都千代田区)と資本・業務提携契約を締結。TKPの「会議室」とファーストキャビンが展開する「飛行機のファーストクラスをイメージしたコンパクトホテル」が融合した会議室併設型コンパクトホテル「TKPファーストキャビン(仮)」を積極的に全国展開し、3年後に10店舗、売上高20億円を目指している。
去る9月1日には、愛知県名古屋市中村区の河合塾校舎をコンバージョンした「ファーストキャビンTKP名古屋駅」をオープンさせた。
同施設は、TKPが河合塾校舎を取得し、貸会議室として運営していた場所をコンバージョンしたもの。JR東海道本線「名古屋」駅太閤通口徒歩5分に位置し、延床面積は約2000㎡。キャビン数は男性148室・女性51室の合計199室。
従来のファーストクラス、ビジネスクラスキャビンに加え、2段式のエコノミークラスキャビンを導入しているのが特徴。地下1階、地上5階の建物で2台のエレベーターにより男性と女性のエリアを完全分離する。またラウンジは会議室としても利用可能だ。