不動産トピックス

不動産ソリューションフェア人気セミナー紙上再現 サヴィルズ・ジャパン

2018.11.26 15:13

 不動産ソリューションフェアの定番となっているサヴィルズ・ジャパンの金子氏と中畑氏のセミナー。今後の不動産投資、オフィス賃貸市況の情報を得るため、多くの聴講者が参加。市況の見通しは良好なものの、金利や海外リスクにも言及。日々変化する市況を詳細に解説する。

安定的利回りのニーズ高い賃貸は20年竣工物件までメド
金子 機関投資家が世界中で利回りを追求しています。一例としては、年金需要の増加で安定的な利回りが求められているからです。国連の推計によりますと2015年~2050年で60歳以上人口が2倍、70歳以上人口が3倍になります。世界的に年金受給者が激増します。その原資となるような安定的な資産が求められていることが背景にあります。またアジアの経済成長の観点では富裕層の増加が挙げられます。その牽引役である中国は、8年前、世界の不動産投資に占める割合はわずか2%台でした。それが2016年では15%となっています。中国はGDPの4割が投資という国なので、経済成長により潤沢な投資資金が生まれています。これらに加え、世界的に金融緩和政策が取られていて、資金余剰となっています。これらの状況が大きな背景となっています。この巨額な資金が限られた投資機会を追うことになります。不動産は高水準にありますが、株式も20数年ぶりの日経平均株価をつけました。では、なぜ日本に海外の投資家が目をつけるのでしょうか。安倍政権以降、成長基盤が堅調になったことが挙げられます。消費増税が行われた期のマイナス成長を除けば、9四半期プラス成長となっています。企業の利益も毎年のように過去最高益となっています。そして、先進国の政府で長期安定といえるのは、ドイツのメルケル政権も苦境に陥っている中で、安倍政権だけとなっています。その日本の中心が東京です。日本全体では人口減少が続き、高齢化が進み日本人の中央年齢は47歳となっています。しかし大都市圏に限ると人口は増えています。また都市間競争のなかで、東京は投資も進み、競争力も強化され都市の再構築も進んでいます。オリンピックを控え交通インフラも整備され、インバウンド観光客数が過去6年間で6倍近くになっていることもあり観光業も拡大しています。関連してカジノは経済的に大きな影響をもたらします。これらのことが中長期的に成長をもたらすと捉えられていることが、東京への人気の要因ではないかと考えています。より詳細に見ていきましょう。不動産の取引残高と海外投資家の比率ですが、取引残高が2014―2015年のピークが6兆円、それ以降は4―5兆円となっています。売却物件が減少していることが要因で、今年も同様の状況が続いています。取引に占める海外投資家の比率は2009年の10%弱を底に、30%強の水準まであがっています。米国のワシントンに拠点を置く不動産業界団体、アーバンランド研究所のアジア太平洋地域の投資家調査の結果を見てみましょう。日本の売買が大きかった14年~16年は東京、大阪が最上位にありましたが、価格が高くなったために2017年は順位を下げていました。ただ今年は若干上がってきています。2017年はインドなどの新興市場で利回りが高いところが人気でした。それらの国の価格もあがってきたため、今年は上位にオーストラリアや中国の一部、日本が入ってきています。再び安定した地域で着実に投資をしていこうという流れになってきたのだと考えられます。次に東京のオフィス市場の魅力です。キャップレートは前回金融危機時よりも下がってきています。一方、イールドスプレッドでみるとまだ魅力的です。東京は3%近いイールドスプレッドです。キャップレートは台湾、香港に次いで低い状況ですが、調達金利が圧倒的に低くなっています。これは魅力的で、海外からの資金をひきつける要因となっています。最後にオフィス賃料指数ですが、前回のピークを100としたとき、10年前のピーク時に比べてまだ3割低い状態です。この意味するところは多少の上昇余地もあるということです。また、大きな調整が起こったとしてもダウンサイドは限定的ではないかという見方ができます。東京のオフィス市場は安定的なリターンを得たいという投資資金にとっては魅力的なのです。少し話は変わりますが、人口をみてみましょう。東京、大阪という大都市であれば、人口は増加しています。そのなかで特に東京都心5区は人口、オフィス密度が増えています。2015年から2030年で都心5区の人口が数十%伸びる予想がなされています。ますます都市化が進んでいくことを意味しています。ではこういう環境を受けて今後どうなっていくのでしょうか。五輪に向けて交通基盤の拡充が進んでいます。また山手線の特に南側では開発が盛んに行われています。従来10億円超の最高級マンションは両手で数えられるほどでしたが、現在では数えきれないほどになっています。大規模な開発をみると渋谷、虎ノ門に集中しています。渋谷は約70万㎡の開発が予定されているとともに、虎ノ門では新駅の効果もあり大きく変わっていくことが予想されています。五輪後はどうでしょうか。五輪は日本のような成熟した国においては、大きく経済効果が得られるのは難しいのではないでしょうか。一方で経済の成熟度合いに限らず、共通しているのは五輪の宣伝効果です。過去4回の五輪事例をみると、その前後でインバウンドの観光客が大きく増えています。五輪後に関しても、カジノがあります。法案の通り、国内で3つカジノが運営すると、マカオと同等の収入をあげることが予想されています。2023年、24年のカジノの後もリニアの話があります。リニアで3大都市がつながると、6500万人の人口を擁するところが通勤圏になります。これだけのヒト、モノ、カネがつながりますので、経済成長のタネは仕掛けられているのではないかと思います。ただリスク要因はあります。現時点で一番大きいのは金利です。2016年、米国金利が底をつけたときは10年国債の利率は1・4%以下でしたが、足もとでは倍以上に上がっています。「トルコショック」などの新興国からの資金流出がニュースにもなりましたが、資本の流れが大きく変わってきています。これは当然、日本にもある程度影響を及ぼし、10年国債の利回りが上がりました。世界的な金利環境の影響が大きいことは間違いないと思います。海外リスクでいえば米中貿易戦争の激化やEUでは主要国離脱懸念などの問題がでています。これらがいつ日本に伝播するか、油断はできません。日本自体をみますと、消費増税というイベントが控えています。これに伴い株式市場では一部ではデフレに強い銘柄への選好が進んでいます。腰折れ懸念はくすぶっている環境です。金利は底を打っているので、これがどこまであがるのかが焦点となっています。日本は企業も家庭も資金は潤沢で、資金需要は限定的です。しかし、世界で金利があがれば連動していく可能性がありますので、海外の動向は注視が必要です。一方でこのようなリスクを回避できれば、利回りの若干の低下の可能性はあると思います。仮に金利が1%になったとしてもスプレッドが2%ほどありますので、物件価格が大きく下がっていくことは何かない限り考えにくいと思います。
中畑 現在の東京のオフィス市況についてですが、主要6区のオフィス空室率の変遷を見ますと、足もとは1%以下となっていて今はこの10年で一番低い空室率になっています。不動産各社の発表を見ても、総じて観測以来最低の空室率を出しています。成約賃料の水準ですが、リーマンショックから2012年に底を打ってからは現在まで緩やかな上昇が続いています。空室率に戻りますと、特長的なのは中央区にて2017年空室率4%あったのが、1%を切っていることです。これは「GINZA SIX」と「京橋エドグラン」の空室が解消されたことが起因しています。品川区は去年1・5%ありましたが、今は0・6%となっています。各企業が比較的安い賃料で優良な物件のある品川区に注目し、床が僅少になっている現況が読み取れます。オフィス供給のグラフを見ますと、2020年に合わせた開発が多くあります。2018年の大規模新築ビルの内定状況ですが、ほぼ100%が決まっています。たとえば「日比谷三井タワー」には大規模テナントとして旭化成や新日本監査法人が入居しています。旭化成が入居していた「神保町三井ビル」は、1万坪ほど使用されていたと思いますが、現在募集している床は300坪しかありません。また新日本監査法人の一部が入居していた「日比谷国際ビル」ですが、現在改修工事を行っており既にその半分は内定していると聞かれます。来夏にリニューアルが完成しますが、仲介業者は「そのころにはリーシングは終わるのでは」という反応です。「田町ステーションタワーS」も内定100%となっています。「サンシャイン60」では大規模な二次空室が発生しましたが、その半分は既に見込みがあります。現在表に出ているのが3000坪ほどですので、市況に影響を与えるものではありません。「日本橋高島屋三井ビル」ですが全て内定しています。「渋谷ストリーム」には日本のグーグル本社が入ることになっています。「六本木ヒルズ森タワー」から退去しますが、館内の増床需要もあり外部募集する予定はない状況です。19年の新築大規模ビルの内定状況ですが、「日本橋室町三井タワー」は内定率85%はある模様で、竣工時に増床の可能性もあり適正空室の水準となっています。次に渋谷の「南平台プロジェクト」は東急不動産の本社が戻ることと渋谷系のテナントで1区画を除いて決定しています。「オークラプレステージタワー」は、近隣から積水化学工業の移転が発表されました。内定は4割ですが、見込みを含めると7割にのぼっていますので、来年の竣工時は満室に近い水準になっていると思います。渋谷のパルコ建替計画はデジタルガレージグループで満室です。「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」は19年12月竣工ですが、既に募集は終了しています。さらに2020年の大規模新築ビルの内定状況ですが、「渋谷スクランブルスクエア」は既にリーシングは終了していると見られます。大手町の「(仮称)OH―1計画」も順調にリーシングが進められています。四谷駅前の大規模再開発業務棟ですが、既に8割ほどの内定状況だと聞きます。春日の「文京ガーデンゲートタワー」は、オフィス区画は全決済みです。竹芝地区の再開発も既に募集終了しているようです。ところで、このような好調な市況の中で、変化の予兆があるかが注目点だと思います。オフィス市況が調整局面となる時は3つのポイントがあると考えています。空室率が上昇して現空が増加傾向にあること、フリーレントによる誘致策が増えていること、成約賃料が下がることの3つです。現在、市場関係者や仲介業者にヒアリングする限り、このような現象は発生していません。オフィス市況は20年の東京五輪が終わる頃までは順調に推移していくのではないでしょうか。




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