不動産トピックス

第20回不動産ソリューションフェア人気セミナー紙上再現

2018.12.25 14:37

働き方の変化はオフィスにも波及
 ビルのあり方に影響を及ぼす「働き方改革」。業界の注目度は高い。パネルディスカッション「働き方改革における不動産のあり方」では日本経済のトレンドからオフィスのあり方まで多岐に話題が及んだ。

人口減も不動産供給量は変わらず 一人当たりの仕様面積が拡大へ
中川 私からはそもそも働き方改革と不動産が絡んでくるのかについてお話します。政府のなかで「働き方改革を支える今後の不動産のあり方検討会」で座長を務めましたが、それを受ける形で不動産業におけるビジョンをつくることになっています。これは不動産業界内だけでなく、おそらく日本経済にとって不動産はどういう役割を果たせるのかについて考えるべき、という意向が背景にあるものと思います。生産性を保っていかないと日本経済は立ち行かなくなります。「失われた20年」は就業者人口が減少したことが大きな要因になったと言われています。「働き方改革」を実践することで就業人口が長期トレンドで減少するなかで就業時間も規制されていく方向性です。ここで強い制限がかかってくる見通しです。では不動産はどのような役割を果たすのか。人口は減少するわけですが、不動産はあまり変動するものではありません。一人あたりの住宅面積、オフィス面積については潤沢になる可能性があります。これはひとつの強みです。1990年代に日米構造協議というものがありました。日本は経済は一流で生活は三流だと言われていました。「三流」のわけは非常に狭い住宅です。国土が狭い中で活発な経済活動があり、人口も多くいて、仕方ない面もありました。これが広い住宅、あるいはオフィスに関しても潤沢な面積がつぎこめる背景が迫っているのではないかと考えています。高度成長期やバブル期は需要曲線が大きく上にシフトします。供給曲線との交点で社会が決まりますので、価格もあがるし都市もひろがるということが起きました。土地神話などはこのような背景がありました。今は、一回拡大した土地需要は人口減少などで需要曲線が下にシフトします。以前の状態に戻っただけかというとそうではないです。なぜなら、土地や住宅、都市は建設すると減らすことが難しい。野菜は生産を絞ることができますが、都市や住宅は耐用年数が長い。そのため供給量は変わらないわけです。需要が減るのに供給が減らないので、価格下落が激しくなります。これが日本が直面しようとしている状況ではないかと思います。どうしたらいいか。3つあります。ひとつは基本的に不動産を生活、生産に使うことができるから需要曲線を戻す。住宅面積の拡大やセカンドハウス、オフィスもシェアオフィスなど本社以外のオフィスを提供していくこともそれにあたります。もうひとつは国を挙げて行われている「コンパクトシティ」です。都市を縮めていくという発想です。またもっと情報を効率的に回すことによって価格をゼロにすることを防げるかもしれない。マッチング次第で空き家活用が進むかもしれないという発想があるかもしれない。この3つが基本的な方向性です。働き方改革の関係で言うと、就業者の減少をどうカバーしていくかが重要になってくるということです。ではこの減少はどういう事態を引き起こすか。1990年代から一貫して日本経済の足をひっぱっているのが就業時間の規制です。労働者は第一次、第二次は減少していて、第三次、オフィスの労働者が増えています。では性別や年齢別で見てみましょう。平成25年以降が典型的ですが、女子の生産年齢、高齢者が増えています。これらの就業者の働きやすい環境を整えること、それを第三次産業で達成することが今後重要になります。またモチベーションやイノベーションなど生産性をあげていく環境を整えていくことです。生産年齢人口が増えているのは都心部だけです。そのなかで大学卒、大学院卒の人は都心部で非常に増えています。集中度を示す指数を見ますと、都心部で高学歴者が集積しています。集積することでアイデアやイノベーションが出てきます。そういうことをオフィスで実現していくことが重要になってきます。
オフィス需要は拡大傾向 集合・分散双方にメリット
中山 私のほうからは不動産マーケットでどういうことが起きているかについて説明します。企業にとってオフィスとは重要な経営資源のひとつです。コア中のコアの資産と言えますし、人が働くところとして知的生産工場とも言えます。そのなかで企業は働き方改革を行っております。この背景にはICTの進歩があり、外で仕事ができるようになったことが大きいです。働き方改革の目的について聞いてみると、一番大きいのは生産性の向上です。また従業員のワークライフバランスなど働きやすさ、モチベーションの向上もあがります。日本の生産性は先進7カ国で最下位です。サービス業が産業の7割以上を占めていますが、ここの生産性向上はまだまだです。人に頼っている側面があるので、良い人材を採用してその人の能力が最大限に発揮できる環境づくりを行う必要があります。オフィスについても求められるものが変わってきています。オフィスに求められている役割ですが、ハード面での安全性や省エネ性、さらには健康で快適な場所であることがあがります。そういうものが揃うと、従業員の満足度があがるので企業の生産性があがるという関係になっています。今のオフィスの現状を見てみましょう。面積でいうと大規模ビルと中小ビルで半々ですが、棟数ベースでは中小が9割以上になります。大阪も同様です。日本の国内企業をみてみるとほとんどが中小企業です。面積も広くいりませんし、賃料も多く払えるわけではありませんので、中小ビルに需要があるわけです。ただ足もとでは大規模ビルが増えてきて、中小ビルはバブル期にできたものを中心に経年化が進んでいます。結果的に2000年と28年を比較すると、大規模ビルは65%増えています。中小ビルは14年も築古になっています。大規模ビルはデベロッパーやリートが持っているので資金力も潤沢です。ただ中小ビルの実態はオーナーが高齢化しています。6割以上が60歳以上です。1~2棟しか持っていなくて、ビルも築古化が進んでいます。短期的にはマーケットがいいので楽観ですが、中長期的には不安が出てきています。次にオフィスマーケットからみてみたいと思います。基本的に需要と供給で動いています。このギャップが空室率で表されます。足もとは需給のギャップが解消され、賃料が上がっている状況です。オフィスの需要も変化しています。基本的にはオフィスワーカー×ひとりあたりの面積でオフィスの必要な面積が求められますが、働き方改革と関連することで需要が変化しています。オフィス需要は量的にはアベノミクス以降景気が良いので人員を増やしオフィス面積を増やす、賃料単価があがるという流れになっています。今後を聞くと、同様に人を増やす、面積を増やすという回答が多くあります。なぜ増やしたいのか。人が増えるのが一番の理由ですが、快適性やブランド力の強化などもあがります。単に人が増えるからだけでなく、プラス要素を見込んでのこともあります。質的な変化も発生しています。オフィスのなかにも変化が起きていて、リフレッシュスペースやフリーアドレスなどが増えてきたことが挙げられます。次にオフィス以外の場所の質的な変化で「テレワーク」について考えてみましょう。オフィス以外の場所、自宅やサードプレイスオフィスで働くことを挙げます。自宅で働く、というのは取り組まれていて、サードプレイスオフィスも数を増やしています。そのなかでシェアオフィスやコワーキングスペースの供給事業者も台頭しています。ザイマックスでも「ちょくちょく…」という取り組みを展開しています。これまで通勤するオフィスが1カ所で時間も管理され、子育てや介護で退職することがありました。起業を取り巻く状況が変わると、働き方が変わってきてオフィスの需要も変わってきているということになります。そういう意味で働く場所、時間、メンバーの自由度が高まっています。では分散していくのか。集まって働くこと、分散して働くこと、それぞれにメリットがあります。肝要なのは柔軟性のあるオフィスをつくっていくことです。
新本社で働きやすさ追求 ブランドの発信拠点に
伊東 LIFULLは子会社含め1300名ほどの人員がいます。IT企業なので人の採用が一番重要です。また育休や産休からの復帰率が100%というのも特長的です。ビジョンや理念を大事にしていて、人材採用の面でもスキル以上に重要視しています。入社された後もそれぞれのニーズに応えるために様々な取り組みをしていまして、キャリア選択や新規事業選択などをコンテスト化して行っています。また純利益の1%を社会貢献活動に回すなどの取り組みをしたり、社内大学を設置したりしています。まず挑戦することを社内に周知しています。一見、関係ないように見えますが、我々にとってオフィスはハコではないと考えているからです。これまでの取り組みを、オフィスを使ってどのように発信していくか、というところが重要になります。そこでオフィス移転も行いました。もともと品川にいましたが半蔵門に移転しました。築50年ほどのビルで、2~3年ほど空いていたようです。そこを借り上げて、ブランドの発信場所にしたというのが現在の本社となっています。8階建てで1階がカフェ兼社食になっていて、外部の人も利用できます。また1階と2階には外部の人が集える場所をつくっています。1階には3Dプリンターを設置しています。2階にはコワーキングスペースを我々自体が運営していまして、フリーランスの方などが働いています。外部の方と連携して、我々1社では起こせないイノベーションを創っていきたいと考えています。またイベントも多数開催しています。ここは私たちのブランド発信拠点ですので、まずは皆さんに来てもらいたいという思いがあります。また3~8階は執務スペースになっていますが、社員に多少の支援を行って、オフィスDIYみたいなことをやっています。自分のオフィスを自分で手を加えて、働きやすい場所をつくっていくようなことを行っています。オフィスから始める働き方改革を実践し、働き方改革の形を発信していきたいと考えています。




週刊不動産経営編集部  YouTube