不動産トピックス
クローズアップ 燃料電池編
2019.05.07 14:25
停電が起きた際、ビルを動かす生命線ともいえる「非常用発電機」はこの10数年で格段に進歩を遂げている。発電機のひとつ、「燃料電池」は水素と酸素を化学反応させて発電するもの。BCP対策には欠かせない「燃料電池」の最新動向を追う。
ビルの生命線 電力の安定供給に屋上設置の燃料電池
「電気の安定供給」はビル管理の大きな課題の一つだ。停電になった場合、自家発電で72時間は電気の供給が可能というビルも多い。「72時間」は、災害発生後72時間を経過すると要救助者の生存率が大きく下がるという「デッドライン」とされているため、非常用電源の供給時間や非常食の確保は「72時間分」が一つの区切りになっている場合が多い。
さて、その非常用電源であるが、大きく分けると「非常用発電機」と「蓄電池」に分かれる。
更に、非常用発電機は「ディーゼルエンジン発電機」と「燃料電池」に分かれる。ビルにはどのような発電機が相応しいのだろうか。
「発電機」というと車のエンジンが思い浮かび、「電池」といえば乾電池をイメージするが、「電池」とは「電気の池」。「発電機」とは燃料から電気を作るもので、作られてためた電気を取り出すためのものを「電池」と呼んでいる。
昔のビルには「機械室」がありそこでディーゼルエンジンの発電機があったのが普通だったが、今はビルの屋上が発電場所というパターンが多い。といっても振動や騒音を発するような、重くて汚い排ガスを発生するようなものは屋上には置くことは難しい。そこで燃料電池が近年、「非常用電源」として脚光を浴びている。
電気興業(東京都千代田区)が販売しているのは台湾・中興電工製の「メタノール改質型燃料電池」。主に屋上に設置し、停電時に作動し、ビル内に電気を供給する。通常の軽油で作動させる発電機と違い、「燃料電池」は作動音が非常に静かで、振動もなく軽量で空気中への影響が少ない。
メタノールから水素を取り出し、燃料電池へその取りだした水素を供給し発電する「メタノール改質型燃料電池」は2012年に製造開始、昨年より電気興業で販売開始となった。同社支店統括部環境事業営業部環境営業課の高橋秀幸氏は、「東日本震災後、電気への考え方が大きく変わりました。燃料電池への方向性ができた、といってもいいかもしれません。都心では液状化の可能性もありますから、地下に発電機を設置することは危険ですし、重いディーゼルは非常用電源として考えるのは難しいと思います。また、原子力発電よりも火力発電等が主流になりつつある現在、安定供給を電力会社に頼る時代ではないということをもっと広く考えるべきと思います。価格はディーゼルの1.5~2倍の値段になりますが、非常時の電気の安定供給の重要性を考えると決して高いものではありません。現在、日本に500台ほど設置されておりますが、中心は携帯電話の基地局です。将来は、燃料のメタノール水をコンビニなどでも販売できればと思います」と語る。
この燃料電池システムは一般用電気工作物にあたるため、設置届出や運転有資者が不要、また、燃料のメタノール水は消防法規制適用範囲外のため、備蓄・保管に制限がないなどメリットも多い。
バッテリーと組み合わせると鉛電池の安定性に加え、長時間のバックアップも実現する。
「非常用電源」と一口に言うが、その種類も方法も様々だ。技術的なとっつきにくさから敬遠しがちであるが、その仕組みをきちんと理解し、どの方法がそれぞれのビルにとって安全・安心か、誤りなく判断し、緊急時でも「うちのビルは電気は大丈夫だ」という余裕を持ちたいものだ。
パナソニック 純水素燃料電池を製品化
パナソニック(大阪府門真市)は、持続可能な社会の実現を目指し、家庭用燃料電池「エネファーム」で培った技術を応用した水素エネルギー活用の取り組みを加速する。まずは、2021年4月を目途に「純水素燃料電池」を製品化する。
同社は、2009年5月に世界で初めて天然ガスから取り出した水素で発電する家庭用燃料電池「エネファーム」の販売を日本で開始した。その後も、発電耐久時間の向上、コンパクト化、高効率化、設置性の向上、レジリエンス機能の搭載、コストダウンなどに一貫して取り組み、累計生産台数は14万台を突破している。また、この成果を踏まえて純水素燃料電池の開発も進め、山梨県「ゆめソーラー館やまなし」や「静岡型水素タウン」プロジェクトへの参画を通じ、2016年から実証実験を行った。
今回、製品化する純水素燃料電池の発電出力は5kWで、水素ステーションや商業施設などでの使用を想定している。さらに、複数台を連携して稼働させることで、施設の規模に応じた出力に対応可能。なお、同社は、東京都を主体者として行われる晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業「HARUMI FLAG」に、純水素燃料電池を納入する計画で開発を進めている。さらに同社は、効率よく水素を使う技術の進化に加え、天然ガスや、自然エネルギーと水から水素をつくる技術、そして安全・高密度に水素をためる技術の開発を本格化する。具体的には、エネファームで培った、天然ガスから水素を取り出す燃料処理技術を活用した「小型・高効率な水素製造装置」の開発を進め、大規模な水素ステーションがなくても工場や小規模な物流施設などに水素を安定供給できるシステムの実用化を目指すとしている。