不動産トピックス
今週の一冊
2019.11.05 15:01
スリッパという「ぬえ」的履物の謎
近代建築そもそも講義
著者:藤森照信+大和ハウス工業総合技術研究所
発行日:2019年10月20日
発行所:新潮社
価格:800円(税別)
江戸東京博物館館長であり、「建築探偵」とやらでもある著者の「そもそも」は雑学でありながら学問。学術論文でありながらかわら版エッセイの趣だ。
明治以降の建築物を中心とした「建築そもそも」の本書は、決して公式の記録には残っていないであろう貴重なトリビアと斬新な視点にあふれている。
明治初期の洋館の「どこでスリッパを脱ぐのか」問題は、日本の生活様式大変化の始まりのあれやこれやを象徴し、銀座の赤レンガの章の向こうにはフランス積み・イギリス積み方式の違いを通して西洋文化が当時のどんな背景からどういったルートで日本に入ってきたかが見える。
本書では明治の偉人の名が数多く目に入るが、「洋館づくり」も間違いなく彼らの功績だろう。
「まるで『天守閣』の第一国立銀行」、「日本で花開いたコロニアル建築」、そして鹿鳴館を設計したコンドル。「英国人教授の溢れるような日本愛」と幅広く読み応えたっぷりの一冊。なお、「大抵の建物は伝統の枠組構造で十分可能だったから」、「アメリカ式のスタイルなぞ日本の大工の腕なら朝飯前」だったという。数少なくなった「日本のココがすごい」も痛快だ。