不動産トピックス
クローズアップ M&A編
2019.11.18 14:57
「M&A」で話題なのはユニゾHD。だが中小・零細の不動産経営者も対岸の火事ではない。後継者がいないことによる事業承継問題や事業売却などを検討しているのであれば、専門事業者によるサービスが必要。そのような「売るための方策」をパッケージとするサービスも現れている。
TIPANI 不動産特化型サービス開始
WEB集客支援や社員教育、会社改善など不動産売買業に特化したコンサルティングファームのTIPANI(東京都港区)。同社では不動産業に特化したM&Aソリューションをスタートした。
同社は2015年設立。代表取締役の新倉健太郎氏は新卒で大手不動産会社に勤務した後、ベンチャー会社役員などを務めて起業した。不動産業界への造詣が深いことを生かして不動産売買業に特化したコンサルティング事業を始めた。4期を終えてクライアントは180社以上にのぼる。M&Aも設立当初からサービス展開しており、これまでに30社以上でコンサルティングを実施している。金額は幅広く、これまでのケースでは200万円~1億5000万円まである。ボリュームゾーンとなっているのは1000万円~3000万円だ。買い手は不動産売買業への進出を狙うリフォーム会社や賃貸管理会社、また個人まで挙げられる。
新倉氏は強みとして「業種に特化したM&Aサービスはこれまでなかったもの。当社は属人性の強い不動産売買業を中心として、現状では売ることのできない会社に付加価値をつけて売却までを支援してきました」と話す。M&Aにおいて売り手企業に「付加価値をつける」とはどのような手法か。
「当初より展開していたWEB集客支援や、属人的ではなく社員全員で稼ぐ力をつける社員教育、またノウハウの仕組み化と健全なキャッシュフローを実現する会社改善などを総合的に行っています。決算期との兼ね合いもありますが、半年から1年ほどかけてこれまで『売れない会社』を『売れる会社』にしていきました」(新倉氏)
また今回発表したソリューションでは購入側、売却側、そしてTIPANIの三者がM&A成立に向けてプロジェクトを行っていくサービスもある。有力な買い手候補企業のニーズに合わせて、TIPANIが売り手企業の改善を実施していく。売り手企業の情報を羅列するだけでなく、攻めるM&Aのマッチングサービスというものとなっている。
M&A市場は好調だ。新倉氏は「買い手側のニーズは非常に強い」と明かす。一方で売り手企業の候補は少ない。会社や事業の売却は社員にも知られないように水面下で進めていく必要がある。そのため新倉氏も「紹介される案件が多い」と話す。一方で同氏が注目するのは「売りたくても、売れない会社」という潜在的な売り手の存在だ。
「中小、零細の経営者にとって自分の会社が『売れる』と考えているケースは少ない。このような潜在的な層の掘り起こしも進めていきたい」
業種特化のM&Aサービス。不動産業は中小、個人事業規模の会社も多い。業界のM&A成立を支援していくことで、活性化にもつながっていきそうだ。
プラットフォーマーが愛知県内信金と提携
事業承継・M&Aプラットフォーム「TRANBI」を運営するトランビ(東京都港区)は尾西信用金庫(愛知県一宮市)と業務提携を締結した。事業承継問題を抱える中小企業経営者向けの事業承継支援サービスを展開していく。同社は現在280を超える金融機関およびM&A仲介会社と業務提携をしている。
尾西信金の中心的な営業エリアである愛知県は企業の休廃業・解散が減少している。帝国データバンクの行った愛知県企業の休廃業・解散動向調査(2018年度)によれば、県内に本社を置く企業で2018年の「休廃業・解散」は1076件と前年を162件下回り、2年連続の減少となった。
一方で業種別に見ると「建設業」が342件で全体の3割を占め、以下「卸売業」、「サービス業」と続いた。また代表者年代別の構成比では「70代以上」が48・3%とトップで、次いで「60代」となった。「60代」以上が全体の8割弱を占めている。高齢化による休廃業や解散が増えている形だ。
今回の業務提携により、尾西信金は「TRANBI」の全国ネットワークを活用したオンラインM&Aによる事業承継機会を提供し、後継者問題に悩む中小企業経営者への事業継承支援サービスの強化を図る。
また14日には「TRANBI」内の新機能もリリース。売り手企業から買い手企業に案件オファーができる「買い手企業検索機能」が加わった。利便性が高まることでM&A環境の活発化に寄与しそうだ。
パチンコ店舗対象のサービスも
「パチンコ物件ドットコム」の運営を行うシーズン(東京都台東区)とデイドリーム(東京都中央区)は10月21日よりパチンコホール企業を対象に売主側に優位なM&Aマッチングサービスを開始した。
これまでは売り物件の中から買い手が選別するというスキームが多く、どうしても買手優位な状態になりがち。新サービスでは最初に店舗等を推測できない、ノンネーム情報のみで店名を公開することなく買手を募集。応募のあった買収候補企業の中から売主が選別した企業のみに詳細情報を伝える。その後、条件の提示を受け、売主が興味を持てば商談を始めていくという売手優位なスキームになる。また店名を公開する相手が限定的なため、守秘に関しても効果的なスキームとなる。ホール企業から相談を受けているコンサル会社、金融機関、メーカー、関連業者のサービス利用も可能となっている。