不動産トピックス

【今週号の最終面特集】ワークスペース事業に参戦する異業界・大手の戦略と背景

2021.02.25 11:06

主眼は遊休スペースの有効活用 既存事業とのシナジーも

 働き方改革やコロナ禍で広がったテレワークやサテライトオフィス。それに応じるように不動産業界でもワークスペースの開設に力を入れる。異業種もこの動きに注目する。参入した異業種の事例から、この動向の背景を追った。

「AOKI WORK SPACE」第1弾で3店舗、ノウハウ凝縮
 AOKIホールディングス(横浜市都筑区)は、ビジネススーツなどを展開するファッション事業、アニヴェルセル・ブライダル事業、複合カフェ、カラオケとフィットネスのエンターテイメント事業を展開する。同社は2月1日にシェアオフィス事業の参入を発表した。「AOKI WORK SPACE」の屋号で4月までに、たまプラーザ、相模大野、センター南の3店舗を開設する。
 「AOKI WORK SPACE」は席ごとに仕切りで区切られたオープンブースと、鍵付きの個室スペースで構成される。スペース内にはソファが設置され、そこで外部のクライアントとの商談も可能だ。また事前に予約することのできる会議室スペースも用意されている。契約形態は会員制でオープンスペースのみの場合には従量課金で30分275円。また個室の場合には月額4万6200円からで、1~2名が利用できる部屋を備えた。それぞれ最初に入会金がかかり、鍵付き個室は6万6000円、オープンブース席は1万1000円。入会すると、全店舗で利用可能となる。
 約1年前から、「AOKI WORK SPACE」の事業を検討してきた事業部責任者の原賢太朗氏は「当社グループではビジネススーツだけでなく、複合カフェ事業の『快活CLUB』や結婚式場、またフィットネス事業も手掛けてきました。『スーツのAOKI』と含めて、それらのグループの事業のノウハウを『AOKI WORK SPACE』に凝縮することができました」と話す。
 たとえば、ワークスペースの内装設計。デスク幅を120cm確保した。デスク幅は通常100cmほどのものが多い。ゆったりと仕事ができる空間となっている。また個室では防音設計なども取り入れる。これらは「快活CLUB」で培ってきたノウハウを活用した。予約や決済などのシステムについても、「快活CLUB」やフィットネスジム「FIT24」、ファッションの「ORIHICA」などで利用してきたシステムを活用。またスタッフについても「快活CLUB」従業員でまかなう。
 2月6日には「たまプラーザ店」での内覧会をスタート。「ブース席、個室双方ともにご成約いただきました」(原氏)と順調な滑り出しだ。
 「AOKI WORK SPACE」では個人・法人ともに契約することが可能。原氏は「テレワークとしてのスペースや個人事業主のオフィスとして、またサテライトオフィス需要も取り込んでいきたい」とする。

展開エリアは「郊外・駅前」コロナ禍でも「人々の喜びを創造」
 今後の店舗展開についてはどうか。展開エリアは「郊外・駅前」に絞る。ただ急速な拡大には慎重だ。「まずは第一弾の3店舗を軌道に乗せていくことが重要」とする。
 ただ、需要次第では展開するスペースの確保はしやすいかもしれない。今回開設した「たまプラーザ」はもともとグループのカラオケ「コートダジュール」店舗を業態転換した。「相模大野」はビル1棟が「快活CLUB」が利用する中で遊休スペースを利用。「センター南」は所有していたビルで未活用だったフロアを活用する。
 「人々の喜びを創造する」をコンセプトに掲げるAOKIグループが、働き方改革やコロナ禍で生じたワークスタイルの変化にも応えていく構えだ。

ビジネスブースを5店舗で 親和性高い「喫茶室ルノアール」
 ビジネスマンの「憩いの場」にもワークスペースが登場した。
 「喫茶室ルノアール」などのブランドで喫茶店・カフェを展開する銀座ルノアール(東京都中野区)は昨年12月に「ビジネスブース」の展開を発表。その後、順次展開店舗を拡大しており、これまでに巣鴨、銀座、大久保、四ツ谷、新橋の計5店舗に設置している。
 同社では昨年春頃より「ビジネスブース」事業の検討に着手してきた。理由にはコロナ禍があった。営業部部長の小林総一郎氏は「新型コロナウイルス感染拡大の影響から、特に都心の貸会議室『マイ・スペース』への需要減が大きかった」と明かす。「喫茶室ルノアール」はじめ喫茶店やカフェも打撃を被ったものの、昨年の緊急事態宣言が解除されてからは回復傾向にある。一方で「マイ・スペース」への需要の戻りは鈍かった。小林氏は「テレワークなどで都心からビジネスマンが減ったり、人が密になる会議を控える傾向が顕著になっている」と分析する。  他方で個室のワークブースについての需要を感じる場面もあった。「コロナ後、『マイ・スペース』を利用して1人や2人などの少人数でお仕事をされる場面が目立つようになりました」(小林氏)。この需要に着目したのが今回の「ビジネスブース」だ。

貸し会議室の内装変更し展開 認知を高め新規事業を育成
 銀座ルノアールの「ビジネスブース」は貸会議室「マイ・スペース」の内装を変更して展開している。ブースは個室で区切られていて、1時間500円で提供する(別途ドリンク注文が必要※新橋汐留口駅前店はフリードリンク施設)。その後延長は30分ごとで250円。2杯目以降の飲み物はコーヒー、紅茶に限り何杯でもおかわりが可能。濃い茶色を基調とした落ち着きのある空間となっている。「当社には店舗の内装設計などを担当している専門の部署がありまして、そこで今回の『ビジネスブース』の内装も設計しました」(小林氏)。 
 同社のこれまでの事業とも親和性が高い。「ビジネスブース」の展開エリアは都心部のビジネス街が中心となっている。段々とオフィスに人が戻ってくるなかで、営業社員などがスキマ時間を活用してビジネスブースで働く姿が見られる。
 展開するエリアとしては都心部中心。ビジネスマンを中心に需要を獲得していきたい考えだ。ただ展開を急ぐ方針はない。小林氏は「今は『ビジネスブース』の認知度を高める時期だと考えています」と明かす。カフェや喫茶店の利用者に案内するなどの周知活動を通じて、存在感を高めていく。時間をかけて事業として育てていく構えだ。
 「利用された方へのヒアリングにより、どのような点が良かったか、あれば便利な設備やサービスなどを聞いています。それらの要望を蓄積しながら、ビジネスブースをより利用しやすい空間へと成長させていきます」

継続的に需要増か 事業者多様の試金石に
 両社ともに新型コロナウイルス感染症によって業績へのダメージを受けた。今回の取り組みはそのなかで繰り出された新ビジネス。
 ザイマックス総合研究所は2月17日に発表した「フレキシブルオフィス市場調査2021」で、今後フレキシブルオフィスへの需要は「継続的に増加していく」と予想する。既存の事業者も拡大戦略を敷いている。
 そのなかで今回の両社の取り組み。当面の課題は既存事業とのシナジーや独自のポジションの確立、認知度の拡大だ。コロナ後においても、働く場所の多様化はさらに進んでいくとみられる。
 この新しい取り組みの1年後に注目したい。もし成功例を示すことができれば他の企業にとっても参入への追い風となる。事業者が多様化すれば、イノベーションの素地ができあがりそうだ。

ビジネスの「AOKI」業態のひとつとして 変化する働き方の需要に対応
AOKIホールディングス AOKI WORK SPACE事業部 責任者 原賢太朗氏
 当社が創業したのは1958年。「ビジネスマンが日替わりでスーツを着られる世の中にしたい」という想いのもとに展開してきました。その後、ビジネススーツだけでなくライフスタイル全般を通じてお客様に喜びをという観点から、様々な業態に挑戦して現在に至ります。「AOKI WORK SPACE」は当社グループにとってビジネスに関連する新業態ということもあり、冠に「AOKI」を掲げました。働き方や場所が多様化する中で、「AOKI WORK SPACE」を通じて利用者様のビジネスを支えていきたいと考えています。

「貸席業」から始まったおもてなしの理念生かす
銀座ルノアール 営業部 部長 小林総一郎氏
 「喫茶室ルノアール」を中心にカフェ・喫茶店ブランドを複数展開していますが、創業時の業態は「貸席業」でした。私が入社した当時は「喫茶室ルノアール」の店内でお見合いが行われていたことがありました。現在でも商談や打ち合わせでご利用いただくケースが多くあります。「貸席業」時代から築いてきたスタッフの接客や落ち着きのある空間といった、おもてなしがカフェ業界のなかでも特徴的な地位を確立できた要因だと考えています。ここから築いてきたノウハウをコロナ禍のなかでも生かし、居心地の良い空間としてお客様に提供していきたいと考えています。

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