不動産トピックス
【今週号の最終面特集】不動産×テクノロジー
2021.03.01 11:50
運用効率化とコスト苦言を両立
AIなどを駆使して「スマートビル」実現へ
不動産テックのなかでもサービス数を伸ばしているのが「業務支援」だ。ビル管理や不動産仲介などを中心としてルーティンワークの自動化や、いつでもどこでも資料を確認したり、提案作業が可能となるクラウドの活用は積極的に行われている。次の段階に目を向けると、一部の効率化だけでなく、業務全体をカバーするサービスがトレンドとなりそうだ。
PMの業務時間を半減 情報を一元管理し手間最小に
不動産テック領域のなかでもサービス数が伸びる業務支援カテゴリ。管理会社などの運営管理などの自動化やサポートを行うことによって、業務の効率化や作業時間の削減などを促進している。ただその多くのサービスは運営管理全般ではなく、部分的なものが多かった。
グラフェンユニファイ(東京都渋谷区)が展開している不動産管理クラウドサービス「Armada(アルマダ)」は運営管理全般をサポートするサービスとして、導入先をじわりと広げてきている。
同社は2018年に不動産AI自動管理システム開発などを担うリベラ(東京都渋谷区)と事業用不動産仲介会社のオフィスバンクなどの持株会社、オフィスバンクホールディングス(東京都渋谷区)の合弁会社として誕生。そこに日本ユニシス(東京都江東区)がアクセラレーター(スタートアップを支援・サポートする役割)として参画した。
「アルマダ」はPM業務支援サービスの「Armada PM」、サービスオフィス運営管理支援サービス「Armada SO」、そして検針業務支援サービスの「Armada μ」がある。
代表取締役の森村茉文氏はPM業務について「ビル1棟でも関係者が多く、業務が煩雑になっています」と指摘する。PMの本義はビルの価値の最大化だが、それを実現するPM企業社員が煩雑なバックオフィス業務に時間を割かれてしまっていることが多い。
「アルマダ」はこれらをDX化していくことで効率化を実現する。具体的には、リーシングマネジメントやテナントマネジメント、PMレポートなどをクラウド上で管理する。これにより業務の標準化や各種の情報や対応履歴を一元管理できるようになる。またテナント側にはマイページを発行。問い合わせや各種の手続き、請求書のダウンロードなどが可能となることから、PM会社にとって業務の効率化につながるとともにニーズの把握もしやすくなる。
森村氏によれば「あるPM会社では『Armada PM』を導入したことによって同じ業務を半分の時間で解決できるようになりました」とのことだ。
DXへの注目集まる コンサル含め導入支援
DXの波は不動産管理やPMの現場にも波及している。森村氏も「特にコロナ禍をきっかけにして、企業トップを含めた全体で取り組む機運は醸成されています」と話す。
コロナ禍はオフィスビルの価値を変化させている。テレワークやサテライトオフィスが急速に浸透したことで一時は「オフィス不要論」も出た。もちろんこれは極論だが、他方でオフィスビルが現代のニーズに沿った形でのハード・ソフト両面でのサービス提供を行わなければ、需要を失いかねない。
「とは言え、属人性が高く業務も煩雑なため、一度に全てを切り替えていくことは非現実的です。当社ではまず一部での切り替えをご提案させていただき、数年単位で入れ替えていくことをお勧めしています」(森村氏)
今後同社ではリーシング企業や工事会社向け、加えてホテルや商業施設などのアセット別のサービス開発を進めていく予定だ。
空調の運転最適化によりエネルギー消費量も削減
国際的なエンジニアリング・コンサルティング会社であるArup(アラップ:本社英国ロンドン)は、既存・新築に関わらず、建物の環境制御や運用管理、利用状況把握などを一括で管理できるプラットフォームの「Neuron(ニューロン)」を展開している。
「Neuron」は同社香港でのプロジェクト実績に続き、東京事務所でもサービスの提供を開始した。建物の運用システムや空調システムからリアルタイムで自動取得されるデータと、BIMモデルから生成されるデジタル上の仮想空間との相互連携を実現し、建物の管理・運用・保守の効率化や設計・施工のあり方の最適化にも貢献する。これまで人がノウハウやそれまでの経験をもとに効率化などを行ってきたものを、ビル自体がより自律的に運用できるようにする。
香港で2019年に竣工した高層オフィスビル「One Taikoo Place」では「Neuron」を導入することでデータを連動。これによって従来のエネルギー消費量を15%減少させることに成功した。
導入は様々な場所で進んでいる。たとえば香港九龍の商業・事務所複合施設の「フェスティバルウォーク」や2008年の北京五輪の競泳会場として使用されたウォーターキューブ(北京国家水泳センター)にも導入。
同社環境設備エンジニアの向井一将氏は「当社は『Neuron』を通して運用の効率化、省エネルギーの両面からご提案をすることが可能です」と話す。たとえば香港と日本の不動産の管理方法は異なるが、個別の事業者に合わせてシステムを適応させられる。「空調最適化のためのAIは学習すればするほど運転を最適化していくことができるため、長期間運用していくほうがより効果を発揮できます」(向井氏)。
また「Neuron」は時代の状況に合わせたアップデートも行っている。たとえば新型コロナウイルス感染症の対策機能を追加していて、建物の入り口にサーモカメラを設置して体温が高い人を検出した際には、アラートを出す、建物の入退管理システムと連携するといった対応が可能だ。環境設備エンジニアの大江晴天氏は「このようなアップデートを続けていけるのが『Neuron』の強みです。お客様の課題や社会状況、エリアの違いに応じて、様々な機能を柔軟に提案していきたいと考えています」と話す。
日本でも「スマートビル」への注目が集まっている。実績が出ている「Neuron」にも期待が集まりそう。
コロナ禍でテック注目増大 収益改善の道示せるか鍵に
数年前から「不動産テック」という言葉が出てきた。当初は言葉として流通しながらも業界全体の「うねり」にはなっていなかった。年月を経て不動産テックは業界へ浸透していき、コロナ禍を経ることで、その意義を認められるようになった。
テクノロジーの旨味を生かして業務効率化やその後の売上向上・利益率改善につなげられるかが、今後のポイントになるだろう。
業務全体をサポート 対応アセットの拡大も視野
グラフェンユニファイ 代表取締役 森村茉文氏
「アルマダ」の特徴はPMやサービスオフィス、そして検針などそれぞれのシステムでその業務フロー全体をカバーしていることです。業務の部分ごとに異なったシステムを導入する必要がないため、ワンストップで対応できることも導入企業様にご評価いただいております。現在、アセットではオフィスビルと、レンタルオフィスやシェアオフィスなどのサービスオフィスをカバーしていますが、今後はより幅広いアセットに向けたサービスの展開も検討しています。
ビルの資産価値向上にも寄与
アラップ 環境設備エンジニア 大江晴天氏
アラップ 環境設備エンジニア 向井一将氏
デベロッパーやゼネコンなどからもご関心をお寄せいただいており、日本国内でも現在導入に向けて検討を進めています。「Neuron」はその建物に応じて、利用する機能を選択することができます。また当社は環境や建築のコンサルティングも行っているので、その建物にマッチしたサービスのご提供が可能です。建物管理者は建物の状況などをデータで一括管理できるとともにAIの機械学習で空調負荷を予想し運転を最適化したりもできます。ビルオーナー様にとっても資産価値の向上につなげていくことが可能です。