不動産トピックス

【今週号の最終面特集】木造ビルの時代到来!?

2021.03.15 10:51

SDGs達成へ取り組み加速 今後の不動産事業に不可欠

 ビルといえば、主に鉄やコンクリートで建てられるものであるが、SDGs(開発可能な持続目標)が叫ばれる近年では、環境へ配慮から木材の使用が注目されている。「木造ビル」の現状を探る。

オフィスビル分野で初の森林認証 テナントやリーシングにもメリット
 野村不動産(東京都新宿区)が展開する従業員10名未満の小規模オフィスマーケットのニーズに対応するオフィスビルブランド「H1O(エイチワンオー)」。2021年2月に開業した「エイチワンオー平河町」において、国際的な森林認証制度である「SGEC/PEFCプロジェクトCoC認証」を不動産デベロッパーとして、かつオフィスビル分野で初めて取得した。
 同社ではSDGsや2020年以降の温室効果ガス排出削減などのための新たな国際的枠組みで、世界共通の長期目標として平均気温の上昇を2度以内に設定し、1・5度に抑えることが努力目標として定められている。そのなかで「環境」、「安心・安全」、「コミュニティ」、「健康・快適」の4つを重点テーマに据えてきた。そのなかで「環境」においては環境認証の取得、建物の環境性能の向上などに積極的に取り組んできた。CO2削減についても2030年までに2019年度比で35%削減を目標としている。
 今回の「SGEC/PEFCプロジェクトCoC認証」は建築物などのプロジェクトとして認証する仕組みで、森林管理認証を取得した「持続可能な森林」から生産物認証を取得した加工・流通業者が木材の加工を行って消費者の手元に届く、という「認証の連鎖」により世界の森林保護に参画することができる。平河町の物件ではこの認証を取得している業者より仕入れた杉材で加工された多摩産材の杉の木5・2㎥を用いて、木のルーバーを外観・専有部に採用した。
 今回の取り組みについて同社都市開発事業本部建築部長の齊藤康洋氏は「ブランド・アイデンティティを発信できるファザードコンセプトを2020年に設けて、グリーンやウッド、アースカラーといった要素をデザインに盛り込むことを検討していました」と経緯を話す。その具現化として「木材」を採用。今回の取り組みに至った。
 テナントにとっても今回の取り組みはESGやSDGsに寄与する経営に向けた支援となりそうだ。認証のロゴマークを使用することが認められているため、同ビルへの入居を通じて自然環境への配慮や取り組みを発信することができる。加えて齊藤氏は「平河町は社団法人やNPOなど社会貢献意識の強い法人が多いエリアに立地していることも、リーシングではプラスに働く可能性もあります」と指摘する。
 このような取り組みは今後多くなっていきそうだ。既に3月5日には2022年10月開業予定の「エイチワンオー外苑前」にてオフィスビルの木質化に加えて主要構造部に「木造ハイブリット構造」の初採用を予定していることを公表。齊藤氏は「今後も当社のオフィスビルにおいて、木質化、木造ハイブリット構造採用のオフィスビルを展開予定です」と明かす。(本紙・8面/ウェブ・今週の注目記事に関連記事)
 野村不動産ではこれらの取り組みと並行して、独自のサスティナビリティ評価シートを物件ごとに作成し「環境」、「健康・快適」、「コミュニティ」、「安心・安全」の取り組みポイントの指標化も進めている。
 不動産事業と切り離すことのできなくなったSDGsとESG。物件の規模を問わず、環境に対する取り組みは不可欠になっている。

仙台駅前に純木造ビル 震災復興の一助に東北木材
 杜の都・宮城県仙台市に純木造7階建てビルが完成した。「仙台」駅東口前という好立地にお目見えした「高惣木工ビル」は、454㎥のスギ・ヒノキ木材を使用し、日本で初めて主要構造部に製材を使用した純木造ビル。
 手掛けたのは「木造建築を通して都市(まち)に森をつくる」をミッションに掲げるシェルター(山形県山形市)。同社の開発した木質耐火部材「COOL WOOD」は、核となる木材を石こうボードで囲み、外側をさらに木材で覆った特許製品で低コストで加工しやすい。内部の「荷重支持部」には木材使用、中間部の「燃え止まり層」には石こうボード、表面材には木材の三重構造になっており、3時間耐火の大臣認定も取得。15階建て以上の高層ビルも木造可能となる。
 代表取締役会長の木村一義氏は、「高惣木工ビル」完成見学会に先だち、「燃える木を燃えなくすることはビッグチャレンジでした。日本初で『束ね柱』という新たな技術を開発し、木質耐火部材『クールウッド』の技術を組み合わせ、7階建て木造ビルを実現しました。鉄骨やコンクリートとのハイブリットではなく、すべての構造が木材だけでできている純木造のビルです。特徴は、日本各地で流通している規格の製材を使用しているところです。製材を使用すれば日本各地の製材工場から調達でき、地場産業が元気になり、地方創生につながります。製剤を活用することは日本の国産材の需要拡大につながります。今回は東日本大震災復興の一助として、宮城県をはじめとする東北地方の木材も活用させていただきました。このプロジェクトを契機に、多くの木材需要が生まれることを期待しています」と語った。

耐火構造の工夫 木の香りのビル
 同社常務取締役であり森林認証総責任者である安達氏は、「新築ビルで木の香りがする7階建て建物に仕上がっているのは、木だけで造っているからです。クールウッドを開発して数年ですが、製剤を束ねて耐火構造とするため、木材は乾燥によって割れが生じますが、表面に影響しない工夫をし、新しく国土交通大臣の認定を取得してこのビルに採用しております」。

木造建築で温暖化防止 SDGsに貢献
 日本初の純木造ビルへの注目度は高い。SGEC/PEFC CoCプロジェクト認証も取得しており、今後はZEB(Net Zero Energy Building)も認証予定だ。
 ビル竣工は街づくりに大きな影響を及ぼす。建築資材の供給からテナントリーシングまで、多くの企業や地域住民がかかわり、ビルの稼働と共に近隣社会も息づく。
 地球温暖化防止などの様々な課題を抱える現代において、不動産開発には環境負荷を考慮した設計・運用は不可欠だ。木材の地産地消、また地方から都市部への木材供給など地域活性にもつながる新たな広がりも期待したい。  SDGsは今や企業は常に意識しなければならない課題だ。シェルターでもSDGs貢献を視野に入れた事業展開を加速している。
 「これからの街づくりを考えるときに、環境というキーワードをはずすことはできません。木はCO2を吸収し成長する再生可能な資源であり、木造建築をつくることで炭素を固定し、地球温暖化を抑制します。現在、SDGsの達成のためにさまざまな取り組みが行われていますが、木造建築による街づくりはSDGsに貢献するものです。この純木造7階建てビルの建設は、木造都市実現の大きな一歩になると確信しています」(木村氏)。
 コロナ禍で新たな開発・新築ビル建設のプロジェクトは先行き不透明の懸念があるが、SDGsへの積極的な取り組みは投資家も呼び利回り向上にもつながる。木造ビルは今後の注目分野だ。

【高惣木工ビル概要】
住所 仙台市宮城野区
   (JR「仙台」駅東口徒歩2分)
敷地面積 245.58㎡(74.29坪)
建築面積 188.83㎡(57.12坪)
延床面積 1131.25㎡(342.20坪)
規  模 地上7階
構  造 木造
主要用途 店舗、オフィス、事務所、住宅
工事期間 2020年5月~2021年2月




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