不動産トピックス
【今週号の最終面特集】スマートビルディング最前線
2021.04.12 10:50
コロナ対策・業務効率化を同時に解決
近年の技術の進歩と共に、業務効率化・利用者の快適性を目的に、ビルやオフィスへのIoTの導入がみられるようになった。昨今は新型コロナにより非接触・省人化等の傾向が強まる中、IoT技術がビル運営の味方となっている。
大阪にWithコロナに対応した新時代のオフィスビル誕生
「S-GATE」シリーズをはじめオフィスビル開発・運営を手掛けるサンケイビル(東京都千代田区)は、大阪市中央区本町にて、大規模オフィスビル「本町サンケイビル」の建設を進めている。
取締役常務執行役員の松本肇氏は「本町は大阪市内で有数のビジネス街である一方、多くのビルで老朽化が進み、新規供給がほとんどない状態でした。本町は築古ビルが多く立ち並ぶ一方で、賃料は上昇傾向。ハイスペックなオフィスビルの新規供給により、収益性が見込めるのではないかと判断し、取得を決めました」と話す。
Osaka Metro「本町」駅から徒歩1分と交通至便性にも優れる「本町サンケイビル」。現時点でメーカーや商社、IT企業等の入居が決まっている状況だ。多くの路線が乗り入れ東西南北の移動がしやすい「本町」駅至近であることが魅力的な一方で、同ビルのある特徴が入居の大きな決め手になっているという。
「当ビルを選んで頂く最大の理由が『感染症対策』に優れている点です。各企業様の中でコロナ対策への関心が高まっている様子で、計画当初の想定以上にコロナ対策によるニーズが高いです」。
「非接触」「換気」の最新技術を駆使 社員の働きやすさ・健康面に寄与
「本町サンケイビル」はwithコロナの時代に対応したビルとして、最新の技術を生かした「非接触」、「換気」機能を取り入れている。エレベーターに手をかざすだけで呼び出せるタッチレスボタンを採用し、セキュリティカードをかざすことでエレベーターの行先階を判別。貸室の扉を自動ドアとすることで、入館からオフィスへの入室まで、非接触を一貫して行うことを可能とした。エレベーターには荷重積載制限装置がついており、乗車人数の定員を制限し、「密」対策にも貢献する。
換気の面では、エレベーター内にイオン発生機を導入し、空気循環を行う排気ファンを設置。貸室内には1時間に2回空気を入れ替える機械換気システムに加え、各階窓面16カ所に外気導入を可能とする自然給気スリットを設け、安全で快適な換気機能を備えた。
また昨今の潮流を踏まえ、フレキシブルな働き方にも着目。リラックスして働ける空間を目指し、テナント専用の屋上テラスを用意した。Wi-Fiや電源を完備したフリーデスクを設置し、オフィスの従業員が自由に働ける環境も整える。
「現在は在宅勤務を進める企業が増えていますが、オフィスはイノベーションを生み出す場として、かけがえのない場所だと常々感じています。『本町サンケイビル』は『“ココロ”と“カラダ”とつながりが満たされるオフィス』をテーマにしていますが、社員が敢えて出社したくなるような場所としての機能を果たしたいと考えています」。
最新技術を駆使したコロナ対策は、テナント従業員の仕事のモチベーションにもつながりそうだ。
漏水・入退室をIoTで検知 ホテルやオフィスへの導入進む
センスウェイ(東京都中央区)は、ビルや施設向けの管理システム「Facility Connect(ファシリティコネクト)」を提供する。センサーを活用し、ビルや倉庫などの漏水や入退出を簡単に検知・通知できるサービスとなる。
施設管理では、管理者が不在時に漏水が発生すると発見が遅れ大事に至る。そもそも人材不足により管理に人の手が回らない。人為的な作業ミスなどが課題となっていた。それらの課題に対して「Facility Connect」はIoT向け通信規格であるLoRaWAN対応デバイスを使用して解決を図る。低コスト・低消費電力、1~2km離れた長距離でも通信できることが特徴的なLoRaWANにより、オフィスビル内での設置の場合も、ゲートウェイ1台の設置で数フロア分の管理を行うことが可能となる。
センサーは「漏水センサー」、「人感センサー」、「ドア開閉センサー」の3種類。それぞれのセンサーで異常を検知すると、管理画面に通知される。また異常時にはパソコンやスマホにメール通知が届き、現場の状況を遠隔でも把握できる。例えば漏水の場合、ロープ状のセンサーが水を検知すると、ゲートウェイを通じてアラート情報を送信。すると管理画面上でセンサーのアイコンが変色し、漏水の発生が一目でわかる仕組みとなっている。センサーは電池で動作するため、漏水センサーは約10年稼働するため設置や電池交換の手間も少ない。
プラットフォーム事業部マネージャーの平田健志氏は「近年は漏水だけでなく、ドアの開閉システムも問い合わせが増えています。ドア開閉センサーはマグネットにより開閉を検知できる仕組みになります。最近は民泊事業者様が施設の入退出管理のために検討されたり、人感センサーを会議室などオフィスの共用部分の利用状況を把握する目的で導入頂くケースが増えています。『会議室を予約していたのに使われていた』という悩みの解決にも有効です」と話す。
センスウェイでは「Facility Connect」のほか、温度管理のできる「サーマルコネクト」や従業員の安全管理に役立つ「ワーカーコネクト」、トイレの利用状況を確認できる「トイレットマスター」など様々なIoTソリューションを提供する。今年2月には、三井不動産(東京都中央区)保有の施設「柏の葉スマートシティ」内のイノベーション拠点「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」でもセンサーを活用したシステムを導入。コワーキングオフィスの換気状況や在席状況、トイレの混雑状況を可視化した。平田氏は「今後も新たなIoTソリューションの開発を予定しています。不動産事業者に加え、物流施設などこれまでになかったニーズを拾っていきたい」と展望を語った。
スマホがカギになる「ベリキー」オフィスの入退室管理効率化に寄与
2013年9月に設立されたスタイル(東京都千代田区)は、スマートロック「ベリキー」の開発・製造を手掛けている。昨今普及しているスマートロックの先駆け的存在で、2019年には中小企業が開発した革新的な製品・技術に贈られる東京都主催の「世界発信コンペティション」で特別賞を受賞。スマホそのものをかざして解錠できるため、鍵を持ち歩く必要がなく、暗証番号漏洩のリスクがない点が特長だ。
代表取締役の高垣哲也氏は、建築設計に携わってきた経歴を持つ。他社に先駆けてスマートロックを開発した経緯をこう語る。「設立当初、スマホがだいぶ普及してきたにもかかわらず、それを建物のシステムと連動させて活用する製品がほとんどありませんでした。利便性や手軽さを鑑みたときに、今後需要が伸びるのではないかと考え研究・開発に至りました」。
「ベリキー」はユーザーごとにアプリが発行され、アプリ操作すにより開錠できる仕組み。アプリをタップする他、遠隔での「リモコン開錠」やスマホをベリキー本体に近づけるだけで鍵を開けられる「ハンズフリー開錠」にも対応する。システムにはBluetoothが必要とされるため、Wi-Fi設備がなくても導入できる。
開錠の時間や条件も指定可能で、無人のスペースでのセキュリティを確保できる点も魅力。戸建て住宅への導入展開から始まり、最近はスポーツジムのエントランスや貸し倉庫、レンタルスタジオ、学習塾などの事業者から要望が増えている。
リモート化が進む中で、スマートロックはオフィス効率化の大きな味方になりそうだ。
コロナ禍でも社員が出社したくなる場所を
サンケイビル 取締常務執行役員 松本肇氏
本町、「船場」エリアはかつて大阪の町人文化の中心であったところであり、繊維問屋に代表されるように大阪の商いの中心地でした。現在も日本を代表する、新旧大小さまざまな企業がビジネスを展開する大阪屈指のオフィス街です。この地に、本町サンケイビルを竣工できることは、大きな喜びです。コロナ感染症により、ワークスタイルや今後オフィスに求められるものも変化していく可能性があります。出社することでより強い社員の絆やイノベーションが生まれ、そこからブランドが醸成されるかけがえのない場所となる必要があります。心身ともに健康で前向きに仕事に向き合える「オフィスワーカーが出社したくなる場」を本町サンケイビルは提供したいと考えています。
IT化の風潮が導入を後押し
スタイル 代表取締役 高垣哲也氏
最近はサービス系事業者様からのニーズ増加を感じます。今までは『IT化を進めたいけれど、お客様側がなかなかついてこない』という悩みを抱えていた事業者様が多くいらっしゃいました。昨今はIoT等様々なサービス展開が進み、リモート化に理解を示す方が増えてきています。カードキーも普及していますが、スマホをカギにすることで物理的にカードの貸与や回収を行う必要がなくなることも大きなメリットです。今後はオフィスへのニーズもさらに高まってくるのではないでしょうか。